第55話
パレシャが前世でやっていたゲーム『夜空の星のコンチェルト』通称『よるこん』ではズバニールは本当に優秀であった。
〰 〰 〰
とある世界のとあるゲーム内でのとある公爵家の裏話。可愛らし双子が両親やら使用人やらに可愛がられ成長していった。
双子の兄の方は何をやらせても優秀で家庭教師からはべた褒めされ、妹からはキラキラした瞳で見つめられ、鼻高々に日々を過ごす。
「僕は何でもできるのさっ」
「ズバニールおにぃちゃま! すごぉい!」
妹に尊敬されることが嬉しくて妹に見られないところで努力を重ねる。そんなことを知らない妹はもちろん努力などしない。
「わたしもおにぃちゃまといっしょにお勉強しているのにどうしてできないのかしら?」
「アリサ。才能というのはそういうものだと先生がおっしゃっていたよ。アリサはアリサの能力でできることだけでいいのさ」
こうして成長した兄に素敵な婚約者が現れた。彼女は天真爛漫で一つ年上だがとても可愛い少女であった。しかし学術には興味がなく剣ばかり振るっていたため当然のように兄の優秀さに感心する。
「ズバニール様は本当にすごいのですね。私は領地についてはズバニール様のお役にはたてそうにありません。ズバニール様の御身をお守りできるようがんばりますね」
兄は益々影で努力し益々優秀になっていく。こうして褒めそやされて育った兄は、年々妹を馬鹿にし、婚約者を侮り、自分の優秀さに溺れていく。
学園に入学するころには親友となった宰相家の養子長男と騎士団長家の長男に愚痴を言うようになっていた。
「男でもあるまいに、剣術しか取り柄がないような女が婚約者だなんて俺はなんて不幸なんだ。さらには騎士団に頻繁に行っているそうじゃないか。男漁りに行っているのではないのか」
「確かにメイロッテ嬢は騎士団で人気がある。声をかける者が後を絶たないな」
「テッドがいうなら間違いありませんね。うちの義姉も剣にしか興味がないようで話のつまらなさにうんざりしますよ」
「ケネシス。頭のいい女も高飛車でつまらぬものだぞ。いつでも俺を見下しているんだ」
「テッドも婚約者に不満があるのか。だが、お互いに学園では婚約者と別クラスなのだから学園生活を楽しもう」
この一年後、水色の瞳に藍色の髪をツインテールにした美少女と出会い、二人の少年は紳士精神に目覚め一人の少年は騎士道精神を見直して、三人とも誰もが認める青年に成長しながらも、その少女との恋に溺れていくのであった。
三人の青年の間で心揺れる少女は親友である令嬢に「気晴らしに行きましょう」と誘われ王城でのお茶会に赴いた。多くの者たちが参加していると思っていたお茶会は第一王子と友人令嬢だけであった。第一王子が気を利かせて第二王子をその席に呼ぶ。それが運命の出会いとなり二人の恋が始まる。
隠れキャラは最強の身分と最強の美貌を兼ね備えた最強のお相手である。
〰 〰 〰
アリサが活躍するこの世界のズバニールと『よるこん』のズバニールの同じところは『褒められて伸びるタイプである』ことだ。
だが、この世界ではズバニールは褒められても褒められても素直に受け入れることはできなかった。
「そうは言ってもアリサより下だと思っているのだろう!」
「アリサならもっと上手くできていたのだろうな!」
「アリサなら難なくできるのだからアリサにやらせたらいいではないか!」
そしてメイロッテが優秀な女性になるとメイロッテに対しても同じような感情を持つようになっていく。
その結果、努力することに抵抗感を持ち能力があるにも関わらず伸びることがない者へ成長してしまったのだ。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます