第42話

 ジャルフが描き終えて紙を手に持ちアリサに見えやすように前へ突き出した。二人は並んでその出来栄えを確認する。


「すごい! すごいわ、ジャルフ! 貴方天才ね!」


「このくらいならいつでもやりますよ」


 ジャルフが描いた少女は乗馬服を着て剣を構えていた。


「本当。じゃあもう少しわがままを言ってもいいかしら?」


「もちろんです。どのようなご要望ですか?」


「やっぱり美少女戦士だからスカートを身に着けていただきたいのです」


「でもそれだと戦えませんよ」


『スカートを短くするわけにはいかないし……』


「そうですわ! スカートにスリットをいれましょう。中に乗馬ズボンを履けば大丈夫じゃないかしら」


「お嬢様はこの少女にどんなポーズをつけたいのですか?」


「あのね」


 アリサが立ち上がってソファーから少し離れた。


「こうやって……」


 足を横に上げた拍子でアリサが転んでしまう。


「お嬢様! 大丈夫ですか!?」


 慌てて駆け寄るジャルフがヒョイッと立たせて怪我がないかを確認する。


『この体は運動も苦手ですのね。これまではこのようなことをしたことがありませんでしたから気が付かなかったですわ。時間ができたら少し運動いたしましょう』


「大丈夫ですわ。ふかふかの絨毯ですもの怪我などいたしませんわ」


「でもお嬢様にはポージングは無理そうですね」


ぺちっ


 ジャルフの額にアリスの手が伸び、ジャルフは痛くもないが笑いながら額をさする。


「少々お待ちくださいませ」


 ジャルフがにこやかに廊下へ向かい廊下にいる者に声をかけた。ジャルフが招き入れたのは護衛の一人だ。


「この者ならきっとできます。

君、ここに立って」


 護衛は何も疑わず直立する。


「お嬢様。どのようなポーズがご覧になりたいですか?」


「あのね! あのね! 横蹴りが見たいですわ!」


 幼児返りしたようなアリサはちぐはぐな言葉を使ってしまうほど興奮している。


 バッシュ!と音を立てて横蹴りを自慢気に披露するが、蹴りが早すぎて二人が瞬きした時には足はとっくに床に戻っていた。


「違う違う。お嬢様は横蹴りが仮想の相手に当たる瞬間をご覧になりたいのだ」


 一つ頷いた護衛はもう一度バッという布擦れ音とともに足を上げ今度はその形で止まった。


「わあ!! すごいですわ! そうだわ!」


 アリサがパタパタと幼児走りで浴室へ向かった。大きなバスタオルを持って帰ってきたのでジャルフが慌てて受け取りに行く。


「これをスカートのかわりに巻いてみましょう!」


 足を下ろしていた護衛がもう一度足を上げるとバスタオルを一枚だけ受け取ったアリサが護衛のベルトに挟むようにつけ、もう一枚をお尻側につけた。


「なるほど。このようにスリットを入れたいのですね。でも足が露出しすぎではなですか? ズボンの時は気にならないのにスカートだとなぜか気になりますね」


 人の心理とは不思議なものでぴっちりとしたズボンでは然程エロティシズムを感じずとも、スカートから覗く太ももにはズボンと同程度のものを履いていたとしてもエロティシズムを感じるのだ。それまで隠されていたことが作用するのかもしれない。


「それなら足にかかるようにしたらいいのではなくて!」


 アリサがもう一枚のバスタオルを持ち上げられている足にかける。


「なるほど! 四枚合わせならスカートの中も見えにくいかもしれません!」


「もももももう……よろしいでしょう……か……」


「あ! ごめんなさい! おやすみしてちょうだい」


 護衛はそこに座り込みジャルフは真っ直ぐに紙に向かい羽ペンを動かし始めた。


 それから数カット護衛のポージングをジャルフが写生した。


「お嬢様。ご希望のお色などはありますか?」


「まあ! お色まで付けられますの?」


「はい。今回は急でしたのでインクで書きましたがこれは参考にする下書きのようなものです」


「ジャルフってすごいのですね!」


 アリサからのあまりの褒め具合にジャルフは照れて首の後ろをさすった。


「木炭で下書きすれば色も付けられますのでお嬢様のご希望をおっしゃってください」


 当然のようにポニーテールはオレンジ色で大きな瞳は赤色で、アリサの髪色の緑の戦闘服をオーダーしたアリサであった。


 ジャルフに描いてもらった数枚の戦闘少女の絵を丁寧に額に入れそれをうっとりと見つめるアリサは本当幸せそうであった。


『メイロッテ様。本当にステキ。メイロッテ様と一番のお友達になりたいですわ』


 この一週間後、メイロッテとズバニールが婚約した時には、アリサはこの絵の前で泣いた。

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