第40話

「いやあ! 報告は受けていたが実際の状況を目の当たりにすると強烈な令嬢だね」


 背もたれに脱力したルナセイラは疲労感を滲ませる。

 オルクス公爵の誘いで五人はソファーへと移動してお茶をすることになった。


「アリサはよくあれと付き合っていたね」


お義兄様おにいさま。た! だ! の! 顔見知りです。まるで友人のようにおっしゃるのはお止めください」


 ルナセイラと反対側に座るアリサはプイッと横を向いた。


「アリサ。わたくしのために頑張ってくれてありがとう。あれほどの方だと知っていたらわたくしも盾になりましたのに」


「狙いがお義姉様おねえさまなのにお義姉様が盾になる意味がありませんわ。わたくしはお義姉様とあれを会わせなくてよかったと思っております」


 アリサはルナセイラにした顔を真反対の笑顔でメイロッテに答えた。


「アリサ。その優しさを義兄あににも向けなさい」


「それはダメです」


 アリサの隣に座るケネシスがアリサの手を握りルナセイラを牽制した。


「そうです。無理です。わたくしが大好きなのはお義姉様なのですから」


 オルクス公爵から深い溜息が漏れたことは聞かなかったことにされた。


 〰 〰 〰


 アリサはメイロッテと初対面の時、脳天を貫くほどの衝撃を受けた。


『うわぁ! ステキなおねえさまだわ。まるでわたくしの大好きな美少女戦士みたぁい』


 そこまで考えるとアリサを激しい頭痛が襲う。


『美少女戦士って何? 箱の中の絵は何? 大きな箱が走っているのは何?

わたくしは誰???』


 脳天まで沸騰したアリサは鼻血を出してぶっ倒れた。


 翌朝になり目を覚ました時には前世を思い出したはことを自覚した。


「メイロッテ様。かっこよかったですわぁ……」


 布団の中で一通り悶えてからメイドを呼んで着替えた。

 優秀な医師により大事になるような病気ではないと昨夜のうちに判断されていたため、朝食の席で両親は笑顔で受け入れ特段アリサの変化には気がついていなかった。


 アリサは覚醒前から妙に大人びて妙に優秀な子供だったのだ。


『思い出さなくとも前世の何かが作用していたのかもしれないわ。今のわたくしであることに何の疑問もないのですもの。両親に心配をかけなくてよかったわ』


 後から食堂へ入ってきたズバニールはアリサに心配する声さえかけない。


『記憶があってもなくてもお兄様は好きになれませんわね。家族だから嫌いではありませんけど仲良くなれる気がしないですわ』


 二人の仲が悪いのは今に始まったことではないのでいつも通りの朝食であった。


 元々優秀であったアリサだが前世を思い出すと尚更に優秀となりズバニールとの溝は開いていく一方である。


『こうしてみると大学一年生って社会では結構役にたたないものなのね』


 前世が大学一年生であったことを思い出したアリサは何ができるのかを考えてみた。前世持ちが成功する物語をいくつか読んだ記憶のあるアリサだったが現実は甘くないものだと思った。


『これまで同様アリサ・オルクスであるということですわね』


 メイロッテが遊びに来た時にはアリサとズバニールでメイロッテを取り合った。優しいメイロッテは時間を決めてそれぞれと遊ぶことを提案してくる。これまでも何度も何でも取り合いをしてきた二人はメイロッテの提案した折衷案が最適であることをすでに理解しておりメイロッテの言う通りにした。


 日に日にメイロッテへの好感度が上がっていくアリサだったがメイロッテとの出会いから一ヶ月後に地獄に落とされることとなる。


 ズバニールとメイロッテが婚約したのだ。


 勝ち誇ったズバニールの顔ももちろん気に入らないが、何より悲しかったのは婚約者になったことでアリサとの時間よりズバニールとの時間が長く取られるようになったことだった。


『でもメイロッテ様と本当の姉妹になれるのですもの。我慢するしかありませんわね』


 アリサはメイロッテとの貴重な時間を目一杯楽しむことにしたのだった。


 〰 〰 〰



「アリサ。わたくしも貴女が大好きよ。わたくしを義姉として迎え入れてくれてありがとう」


 メイロッテの愛情一杯の笑顔にとろける顔をするアリサだ。


「その顔を見たら学園の者たちは幻滅するだろうな」


「そんなことありません。アリサはどんなアリサでも美しく神秘的です」


「美しいのはメイロッテだろう? この艷やかな太陽のような髪も炎のような瞳も全てが神々しい」


 いつものように二人の男の婚約者自慢が始まり、二人の女性は苦笑いでオルクス公爵は不貞腐れ執事長は微笑ましいと笑顔になっていた。 

 

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