第39話
ズバニールの退場で暫し間が開いたが話し合いは再開される。気付けのお茶を飲んだ父親ユノラド男爵が復活した。
「ユノラド男爵令嬢。君はテッドにも騎士団長になるのだと断言していたね。それはどういう根拠なのだ?」
「だって子供が親の後を継ぐって当たり前じゃん」
「各家の相続ならそうなのだが、国の役職においてその考えは古いと思うが?」
「なら王様はどうなのよ? 王子が継ぐんでしょう?」
「それは王家という家だからだ。だが君の言うことも一理はある。いつか国王も世襲じゃなくなる時がくるのかもしれない。だがそれは今ではない」
「何それっ! でもそんなのなんでもいいよ。私はルナセイラの恋人になるチャンスがほしいだけだから」
「ひぃぃぃ」
「「それはない」」
ユノラド男爵の悲鳴とルナセイラとオルクス公爵の拒否の声が被る。ルナセイラが視線で話をオルクス公爵に譲った。
「君とズバニールがしたことはコンティ辺境伯家に多大な迷惑と心労と怒りを与えている。それに対する慰謝料はそれ相応のものとなる。
ユノラド男爵。そのお覚悟はお有りかな?」
ユノラド男爵が首がちぎれんばかりに首を振った。
「なんで? 鉄鉱石鉱山が順調なんでしょう? お父さん! それくらいやってよ」
「賄える謝罪金ならパレシャのためにならやってあげたい。だが辺境伯様への謝罪金となると男爵家の土地も爵位も全て投げ売っても足りないだろう」
「なにそれ?! ぼったくり?」
「お嬢さんは相場というものを知らぬようだ。下手をすればメイロッテの将来を潰しかねないところだったのだ。それを賠償するとなるとユノラド男爵が言ったように全てを捨てても足りぬ。
加えて、君がルナセイラ第二王子殿下との叶わぬかもしれない愛を選ぶというならメイロッテの心労への謝罪金は増額となるだろう」
「公爵! 『叶わぬかも』ではなく『絶対に叶わない』と言い直してくれ」
ルナセイラが険の込めた声を出した。
「だそうだ。そのような恋を選ぶなら、現在メイロッテは我がオルクス公爵家の娘であり、それを傷つけるつもりであるとの公言となるので我が家に対しても謝罪金が発生する。
君たち家族四人が奴隷として使役しても足りぬだろうな」
ユノラド男爵は青い顔をテーブルにつきそうなほどに項垂れて恐怖で肩を震わせており、パレシャは怒りで真っ赤になった顔でオルクス公爵を睨みつけていた。
「そんなのひどすぎる!」
「だからこうして救済案を出そうとしているのだ。それをことごとく君がぶち壊そうとしているがな」
オルクス公爵は深い深い溜息を吐いた。
「パレシャ! もうこれ以上止めてくれ。兄さんにも人生があるのだ。恋人もできてパレシャの卒業を待って結婚をするつもりらしい」
「お兄ちゃんが……。
わかったわ。一応話だけでも聞く」
あくまでも上からのパレシャの発言にケネシスがギュッと拳を握りアリサがそれをそっと優しく包み込んだ。
「君に選べるのは二つだ。オルクス公爵家が持つツジュル男爵家をズバニールと一緒に継承していくか、平民となりツジュル男爵領で暮らすか」
「なによそれ! ルナセイラとのことが選択肢にないじゃない」
「それはいつまで待っても現れない選択肢だ」
ルナセイラは辛抱強いのかメイロッテに心配させないためなのかは定かではないがとにかく否定の言葉は忘れない。
『お義兄様はあれほど反応せずともよいと思うのだけど。
あ……わたくしが反応せずにいたら周りの方々に迷惑をかけてしまったことを知ってらっしゃるからかもしれないわね』
アリサは自分のこの一年の日々を思い出して心で嘆息した。
「それにっ! 男爵じゃ中央に来れないじゃん!」
自分本位さをぶらさないパレシャは第二王子と公爵閣下を目の前に未だに上からである。
この国では子爵でも納税額が一定以上でないと王城のパーティーに招待されないので約七割といったところ。男爵ともなればその年に目覚ましい成果を上げることでもなければ招待はない。
その代わりに各地方で交流のため高位貴族が主催のパーティーが催されそれは男爵でも招待されている。
「どの道、君は王城は出入り禁止とするつもりだから心配ない。私のメイロッテの名誉を傷つけようとしたことは絶対に赦されることじゃないからね」
ニヤけて嫌味をぶつけることに変更したルナセイラの作戦は成功したようでパレシャが顔を歪ませる。
「ぐぐぐぐ。
ズバニールは? ズバニールは何て言っているの?」
歯を食いしばったパレシャがオルクス公爵に聞いた。
「ズバニールは納得した。来週には東部学園へ編入することになっている」
「なんで?!」
「ズバニールはこれまで中央学園にいたため東部での人脈がない。学園で勉強をし直すとともに交友を広げてツジュル男爵家の東部での地位向上に努めていかなければならない。学園とはそういうものだ。
ズバニールが継承すればオルクス公爵家からの支援は最低限にするからズバニールが自分でやる必要があるのだ」
ガッタン!と勢いよく椅子を倒して立ち上がったパレシャは目をギラつかせてオルクス公爵を睨む。
「ちょうどいい。そのまま部屋へ戻ってもらえ。ユノラド男爵も一緒にな。家族で話合う時間が必要だろう」
喚くパレシャと項垂れるユノラド男爵は護衛たちに連れられて退室した。
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