第37話

 執事に言われて丸テーブルの方を見ると全員が着席しておりその眼がユノラド男爵一家に注目している。三人はおずおずと自分に用意された席についた。


「では早速だが、まずは知らぬ者たちのために状況説明からしよう」


 オルクス公爵の斜め後ろにいた老年の執事長が一歩前に出た。


「オルクス公爵王都邸の執事長を務めさせていただいております者でございます。オルクス公爵家につきましての旦那様の秘書も兼ねておりますので本日の説明をいたします」


 執事長が手の中の手帳を広げる。


「一年ほど前に南部学園よりユノラド男爵令嬢であられるパレシャ様が王都学園にご入学なされました。その後我がオルクス公爵家ご長男ズバニール様と大変に懇意になられ学園でも仲睦まじい様子が毎日のように目撃され我がオルクス公爵家の予算からもユノラド男爵令嬢様へのプレゼントと思われるものがいくつも購入された記録がございます」


「なっ!」「ひぇ!」


 ユノラド男爵夫妻がなんとも言えない顔をする。


「ご本人様へのご確認をどうぞ」


 執事長の笑顔にホッとして二人は間に座るパレシャに向く。


「そうなのか?」


「そうよ。だからズバニールとは上手くいってるって言ったじゃん。恋人なんだからプレゼントもらってもいいでしょ?」


「ン? そ、そうか……。プレゼントについてはまた後で……。だが公爵家のご長男様だと身分がな……」


「好きなんだから関係ないっ!」


 パレシャは眼を瞑ってプイッと顎を上げる。


「ご確認ができたようですのでお話を進めます。

お二人が懇意になさっていることは公になっておりますが、問題はその時にズバニール様にご婚約者がいらっしゃったということです」


「え!!」


 父親はびっくりして立ち上がり母親は口に手を当てて絶句した。


「だからぁ。好きなんだからしょうがないじゃん」


 父親が上からパレシャの肩を掴んだ。


「パレシャ! 本気で言っているのか?」


 母親がパレシャの膝に手を乗せた。


「南部学園でも婚約者のいる方とは懇意にしてはいけないと注意していたでしょう?」


「王都学園は特別なの。私のために用意された学園なんだから」


「そんなわけないだろう!」


 父親は声を荒げ母親は額に手を当てテーブルに倒れた。前世でも現世でも父親に怒鳴られたことがないパレシャは驚いて眼を見開く。

 オルクス公爵夫人の指示でメイドがユノラド男爵夫人を部屋の壁際にあるソファーへと案内しタオルやら精神安定のお茶やらを用意した。その間、父親はパレシャに説教を続けていた。


 その様子を見ていたアリサはホッとしたが疑問も持った。


『まともなお考えのご両親でよかったですわ。それにしてもなぜあのご両親のお子様があのご様子なのかしら?』


「ズバニールさんとある意味似た状況だったのかもしれませんね」


 ケネシスがアリサの気持ちを読んだようにアリサの耳元に手を当てて呟いた。だがアリサには言葉の意味がわからず首を傾げた。


「ユノラド男爵殿。お嬢さんへのご教育は後にしてくれ。まだ説明が途中だ」


「申し訳ありません」


 立ったまま頭を下げた後、ハッと思いついて土下座した。


「娘が大変に失礼をいたしました!」


「男爵殿。とにかく座ってくれ」


 執事の一人がユノラド男爵を立たせて椅子に座らせタオルを手渡す。ユノラド男爵は額にびっしりと浮かぶ冷や汗を拭った。


「懇意になったことについてはお嬢さんだけでなくうちのバカ息子にも原因はある。今は原因の追求ではなく説明を聞いてほしい」


「わ……かりました」


「旦那様もおっしゃっておりましたようにオルクス公爵家としてもメイロッテ様及びメイロッテ様のご実家であるコンティ辺境伯家に失礼があったと判断し」


「婚約者様とは辺境伯様のお嬢様なのですか?!」

「ひぃぃ!」


 ソファーの方からも悲鳴が漏れる。


「左様でございます。こちらにおられますお方がメイロッテ様でございます」


 メイロッテが笑顔で礼をする。ユノラド男爵だ立ち上がろうとしたところをオルクス公爵が手で制止したので浮かせた腰を戻した。


「そこでオルクス公爵家としてもまずは早々に婚約の解消をしてメイロッテ様へ責任を持ってお相手をお探しするつもりでおりました。

婚約解消の手続きを終えた後、いろいろとございましてメイロッテ様を我がオルクス公爵家へ来ていだけることとなりましてルナセイラ第二王子殿下との婚約となりました」


「なんでよ!!!」


 パレシャの大きな声に驚いていたのはパレシャの両親で父親は顔を青くし、母親はとうとう卒倒してしまった。

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