第35話
「パーティーの席でこのような騒ぎになるとは……」
バリトンボイスの方を向けば屋敷の奥へ続くと思われる扉の前に痩せ型の美丈夫が立っていた。ズバニールと同じくらいに濃いめの緑の髪を後ろに撫でつけモノクルの向こうの金色の瞳は怒りを見せている。
「父上……」
「お父様!」
「
ズバニールは驚きでアリサは喜びでメイロッテは安堵でその人物カイザー・オルクス公爵を呼んだ。
「まったく……。ズバニールとその娘を部屋へ。四階の部屋を用意し別々に閉じ込めておけ」
「かしこまりました」
恭しく
「みなさん。せっかくお越しいただきましたのに我が家の騒ぎに巻き込んでしまい申し訳ない」
公爵家当主として未成年たちに頭を下げることはしないが視線を下げているので謝辞は伝わった。
「これから気を取り直して楽しんでほしい。
メイロッテ。アリサ。開会のダンスをご披露しなさい」
「「はい!」」
「ワルツ一番!」
『パラパラパラ』
指揮者の声で楽譜がめくられ演奏者たちが構えた。ケネシスとルナセイラはそれぞれの婚約者をエスコートしてダンスホールの中央に踊り出る。そのタイミングを見て指揮者はタクトを振りはじめた。
その曲調は大変にスローでワルツのテンポ向きではなくカウントも八カウントでスッテプが大変に難しいものである。
今日のために楽団が用意したワルツの曲は四曲で、上級者用一曲中級者用二曲初級者用一曲である。
今二組が踊っているのは上級者用で本日の曲名『ワルツ一番』だ。ちなみにズバニールとパレシャの時には『ワルツ四番』であった。優秀な指揮者は踊り手の実力も把握している。
二組のダンスは本当に素晴らしく招待客の誰もが憧れの瞳で見つめていた。それでも二組はダンスに余裕がある。
「アリサ。僕を選んでくれてありがとう」
「ケニィ。わたくしこそお詫びをしたいわ。わたくしのわがままに付き合ってくれることになってごめんなさいね」
「僕はアリサと一緒にいられるのなら海の上でも山の上でも構わないんだよ。謝らないでほしいな」
ケネシスが意地悪く笑ってアリサをくるりと回す。戻ってきたアリサを抱きとめると髪に軽いキスを落とした。
「「「「きゃあ!!!」」」」
二つ名を『氷の貴公子』に変えたケネシスの人気は婚約しても変わらないどころか、アリサを攻略し、その恋慕の瞳を隠さなくなったことで尚更株が上がっている。
「ケニィって本当は目立ちたがりなのね」
「とんでもない。だが、君に手を出すことがどれほど無駄なことかを周りに教えてあげるためのパーティーなのだから今日は張り切ってはいるね」
「そうなのね。ならわたくしも張り切ってみようかしら。うふふ」
曲が終わりフィニッシュポーズを決めるとアリサがケネシスに抱きつき頬に優しく口付けをした。
ケネシスがみるみる真っ赤になりアリサはいたずらが成功した子供のように笑っていた。
一方、隣で踊っていたメイロッテもフィニッシュ後のアリサを見ておりケネシスに負けないほどに顔を赤くしていた。
「僕の婚約者は本当に
「そそそそそのようなご冗談はお止めください。もし万が一このような場所でそのようなことになりましたら婚約は解消いたします」
ルナセイラは口をメイロッテの耳に近づけた。
「ではこのような場所でないところでしてみよう。メイ。楽しみにしていてね」
メイロッテは耳を抑えて蹲り隣のルナセイラは嬉しそうに笑っていた。
「お義姉様、お義兄様。皆様に挨拶いたしますわよ」
「了解。ほら、メイ。ここではしないから安心して」
うらめしそうにルナセイラを睨んだメイロッテだったがアリサを困らせたくはないのでルナセイラの手をとって立ち上がりアリサたちの隣に並んだ。
いつの間にかオルクス公爵はいなくなっておりこの二組がパーティーを仕切ることになっている。
「本日はわたくしどものためにご参列いただきありがとうございます」
四人が軽い礼をとる。
「本日のトラブルについてご家族へお話していただいても問題ございません。ですが、これ以上のことは今日のところはお話できませんのでご質問はお受けできませんことをご理解ください」
家族であるズバニールへの答えもルナセイラが『様々な理由が絡み合ったが故だ。くわしくはここで説明するものではない』と言っていたほどなのでこれを根掘り葉掘り聞こうとする愚か者はなかなかいないと思われる。
「トラブルがありご迷惑をおかけいたしましたがこれからのお時間をご旧友との交友に新しいご友人との出会いにしていただき、お楽しみいただきたく存じます。
これからもオルクス公爵家をよろしくお願いいたします」
四人は楽団の脇へと移った。
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