第20話
アリサたちは三学年になったがクラス編成変更は数名に留まりアリサと友人二人とケネシスとテッドはAクラス、ズバニールはCクラス、パレシャは安定のEクラスであった。
アリサがケネシスとテッドにアドバイスする。
「例のご令嬢にはある程度相手になって差し上げれば納得するようですわ。お二人があの方を避けてお二人の印象が他の生徒のみなさんに悪くなってしまわれるより少しだけあの方のご希望に答えてあげた方がよろしいのですわ」
学園は社交界への入り口に違いないので二人の印象というのは将来にとって大事なものになっていく。
「それならばアリサ嬢もあれの希望を叶えてイジメをするなどしては印象が悪くなるのではないのですか?」
「わたくしはイジメというよりは正論を並べて差し上げようと考えておりますの。女の世界では正論の言い方次第で相手への攻撃にも自分の失態にもなりますのよ」
「深いですね…」「おそろ…しい…」
片方はにやりと笑い、片方は肩を震わせた。
こうしてケネシスは図書室で時々パレシャの勉強を見てやるようになり、テッドは目の前で転ぶパレシャに手を差し伸べてやるようになった。テッドの場合はパレシャが時折派手に転びすぎて太ももをさらけ出すこともあるため手を差し伸べるではなく大急ぎでパレシャを持ち上げてしまうこともあった。ただしお姫様抱きではなく脇の下に手を入れ大きな人形を持ち上げるがごとくな扱いだ。
アリサからのアドバイスとは知らないパレシャはすこぶるご満悦で二人の好感度が瀑上がりだと思っている。
「どうしてあそこまで飲み込みが悪いのか理解しがたい…」
「どうしてあのように転倒を繰り返すのか全くわからない……」
二人の嘆きにアリサをはじめとした周りの者たちは苦笑いで二人を応援している。
そんなある日、パレシャが廊下で飾り紐で作れらたブックバンドを落とした。通りすがりの女子生徒がそれを拾ってパレシャに渡す。
「わっ! 大事なものなのよ! 返して!」
ブックバンドなのだからそれが単体で落ちるのはおかしなことだし、大事なものにしては乱雑に抱えているだけのようにしか見えないが、拾ってくれた女子生徒にお礼も言わず奪い取るようにして睨みつけ踵を返して離れていった。
そんなパレシャの態度よりもブックバンドに使われている金具の紋章が気になった女子生徒は図書室へ急いだ。
翌日の朝、アリサは執事服の男とメイドと革の胸あてを付けたガタイのいい男を伴い三年Eクラスに来た。誰に用事があるのかわかりきっている生徒たちは様子を見守るだけである。
「ユノラド男爵令嬢様。少々よろしいかしら?」
「アリサ! じゃなくてオルクス公爵令嬢様。何の用?」
『みなの前では名前は呼ばないということだけはできるようになりましたのね。ですが敬語が使えておりませんわ。マナーの先生のご苦労が不憫でなりませんね』
アリサは気を取り直してパレシャの机の上を見てインク瓶を持ち上げそれを確認するように見た。
「ユノラド男爵令嬢様は紋章の価値についてお考えになったことはございますか?」
パレシャは何もわからずに首を傾げる。
「紋章は各家毎に全て異なりすなわちそれはその家の証であります。ですからその紋章を使用することはその家の者であると言っていることと同意なのです」
「はあ?」
「貴女はなぜ我が家の紋章の付いた物をお使いになっていらっしゃるのですか?」
クラスの者たちは正しく理解しているためどよめきが起きた。パレシャは不思議そうにキョロキョロしてからアリサに向き直りアリサの手の中のインク瓶を指差す。
「え? あ、これ? ズバニールにもらったの!」
話がわかっていないパレシャは自慢気に報告した。
「やはりそうでしたのね。我が家門を貶めることになりかねませんのでこれらは没収させていただきます」
「え? なんで?」
「徹底的に探して」
「かしこまりました」
ガタイのいい男がパレシャを椅子ごと持ち上げて机から離すと下ろした地点でパレシャの肩をがっしりと抑えた。メイドがパレシャの机の中などを確認する。
「ちょっと! 人の荷物に何してんのよ! こんなこと許されるわけないじゃん」
「ご安心なさい。我がオルクス公爵家として家門の名誉を守るため正式に学園に調査を申請し回収する旨をご許可いただいております」
アリサが目配せした廊下の方には担任の男性教師と衛兵が待機して様子を見守っている。パレシャは驚きで目を見開いた。
「みんなでグルなの?!」
「グル? ここは貴族の矜持やマナーや常識を学ぶ場所ですわ。そのための処置ですので教育の一環と言えますから学園長様もたいへん積極的に賛成なさってくださいましたわ」
パレシャが足をドタバタさせ何やら喚いている間にメイドによってどんどんと出されていく。
ノートやらブックバンドやら鉄製栞やら革ブックカバーやらペン先やら…あらゆるものが没収されることになった。
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