第15話

「もう鍛錬場になんていかないからあんたたちあっち行ってよっ!」


 数回の襲撃を撃墜されたパレシャはテッドとの交流を諦めた。


『テッドは本命じゃないからいいもぉん。あんな暑苦しいやつこっちから願い下げだって』


 パレシャがパレシャを見張る三人に『ベー』と舌を出すと淑女とは思えぬあまりにも酷い仕草に三人は仰け反った。


「コホン! わかりました。でしたら用事もないのに鍛錬場にいらした時には別の手段を取らせていただきます」


「はあ? 別の手段って何よ?」


「マナーの先生が貴女を引き受けてくれるそうです」


「ひっ!!」


 今度はパレシャが仰け反り三人はほくそ笑んだ。パレシャは保健室で特別授業をされて以来マナー教師から何かに付けて注意を受けているのだ。


「では我々はこれで。貴女と接点を持たないことを期待しています」


 三人はくるりと踵を返すと騎士見習いらしいきびきびとした動きで離れていった。


「いぃーだ! テッドなんてこっちからお断りよっ!

こうなったらやっぱりケネシスと仲良くなるしかないわね。アリサに会いにいかなくちゃ!」


 パレシャは勢いよく走り出し当然マナー教師に見つかり生徒指導教室へ行く羽目になる。


「貴女のようにここまで同じ過ちを犯す生徒を見たことがありませんわ。どうすれば貴女にマナーが伝わりますの?」


 眉を寄せるマナー教師からの視線を逃れるために悲しそうな顔をして下を向いたパレシャは舌を出していた。


『そんな面倒くさいもの覚えるつもりありませーん』


 そして翌日も懲りもせずに昼休みには学園中を走り回ってアリサを探す。アリサはテッドからパレシャの怪しい様子を聞いていたため友人にランチボックスを買ってきてもらい教室内で食事をしていた。パレシャのAクラス襲撃未遂事件が起きてから衛兵はAクラスの前に昼休みも待機してくれるようになっていた。


『あの方はここにはいらっしゃることはないわ』


 アリサはパレシャが勉強嫌いという噂は聞き及んでいて図書室なら安全だし自分の趣味も堪能できるし課題や自習もできるので以前よりさらに頻繁に通うようになっていた。


 パレシャが学校中を走っているといってもパレシャのイメージする『女の子なら絶対に好きな場所』を何度も何度も探しているのだ。噴水前広場や視界の遮られる木陰や外廊下のベンチや男子寮女子寮を分けるアーチ下などだ。


『私と入れ違いであっちへ行ったのかもしれない』


 勤勉な学生は図書室や資料室や研究室にいるなどということは思いもつかないパレシャである。疲れて食堂にケーキを食べに行くとたまたま後ろに座っていた女子生徒たちの声が聞こえた。


「お姉様。先日の授業についてわからないことがございますの。こちらなのですが教えていただけますか?」


「ごめんなさいね。これはわたくしは選択していない科目だわ。

そうだわ。アリサ様にお聞きになるとよろしいわ。アリサ様はご説明も丁寧でとてもわかりやすいのですよ」


「でも一年のわたくしがお聞きしても大丈夫かしら?」


「アリサ様は本当にお優しくていらっしゃるの。ご挨拶のときにわたくしの妹であるとちゃんとお伝えすれば答えてくださいますわ。わたくしからもアリサ様にお願いしておきます。くれぐれも失礼のないように教えていただくのですよ」


「お姉様ありがとうございます。アリサ様とはどちらでお会いできますか?」


「最近では図書室にいらっしゃることが多いようだわ。とても勤勉な方でいらっしゃるから今日もそちらじゃないかしら」


『えーー!! アリサってそんなつまんないとこにいるの? でももしかしたらケネシスに会って知り合うチャンスかも! ケネシスって天才なんだもんね。きっとそういう場所が好きなはずよ』


 パレシャはケーキを思いっきり口に詰め込んで食堂を離れて図書室へ急いだ。

 

「それにしてもアリサはCクラスになるくらいおバカさんのはずなのにどうしてAクラスにいるのかな?

Aクラスの人達なんて真面目なだけでつまんないはずなのよ。アリサがそんなクラスで友達を作れるとは思えないんだよね。

私に隣にいてほしいって思っているに決まってるっ」


 笑顔でパレシャを迎えるアリサを想像してパレシャはウキウキとスキップし始めた。


 自分がEクラスであることを大層高い棚の上に置いてきたパレシャはCクラスにもAクラスにも失礼なことをブツブツ言いながら歩いている。本人は小さな独り言だと思っているがまわりに余裕で聞こえるくらいの大きな声なので歩くだけで敵を作っていくという器用なことをしていた。

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