第3話
そこに凛と立つ美しい少女は少し吊り目の紅い瞳で真っ直ぐに二人を見つめている。左側にポニーテルにしているオレンジ色の髪は毛先がカールされ顔のサイドにのこされた髪も自然に見える程度にカールしている。
しかし最も印象的なのは髪飾りで、ピンクを基本色にした髪飾りは羽をモチーフにしたものだった。
紅い色のドレスは首元が隠れているが脇までは斜めにカットしてありそこから手首までは繊細な刺繍が施された薄いレースで華奢なようで優美である。大きな胸元をカバーするようなギャザーとスカートのドレープの相性もいい。
長身でスタイル抜群のメイロッテが華々しく歩く姿に会場が息をのんだ。
「わたくしに何かご用向でございますか?」
我を忘れてメイロッテに見惚れていた青年が正気を取り戻す。
「き、今日はお前の悪事をみなに知ってもらう!」
「ズバニール様! ステキです!」
背中から聞こえた黄色い声にズバニールはデレデレと笑って振り返りその声の持ち主の細い肩へ両手を添えた。
「ありがとう。パレシャ。君を守るから見ていてくれ」
「はいっ!」
緑髪の男ズバニールと藍色髪の女パレシャは見つめ合う瞳にハートを浮かべて今にも口づけしそうなほどに顔を近づけていた。
「ゴッホン!!!」
壁際から大きな咳払いがして二人は現実に戻って来る。
「わたくしにご用向がないようでしたら交友に戻ります。失礼いたします」
メイロッテが美しいカーテシーを披露してくるりと背を向けるとオレンジのカールがふわりと揺れてメイロッテの爽やかな香水の香が広がる。近くにいた招待客の青年たちがその色香によろめき少女たちが羨望の眼差しを向ける。
「待て、メイロッテ! ここからがおまえへの断罪の始まりだ!」
歩みを止めたメイロッテがゆっくりと振り返る。その顔は妖艶に微笑み全てを受け入れると決めているようである。
「それはどういうことでございましょうか?」
「おまえが嫉妬のあまりパレシャを虐めていたことを俺が知らぬと思っているのか?!」
「パレシャ様とはズバニール様が今パートナーになさっているご令嬢でございましょうか? わたくしとは初対面のはずですが?」
落ち着いた口調で余裕のメイロッテと比べて眉を吊り上げ怒鳴り散らすズバニールは幼稚な印象を受ける。
実際にメイロッテはズバニールたちより一つ年上であるがそれにしても人間としての差を感じてしまうのはいたしかたない。
幼稚なズバニールは声を張り上げることが男の威厳だとでも思っているかのように怒鳴り続ける。
「人を使って虐めれば自分には咎は無いと思っていたのかもしれないがそれは甘い考えだ。俺には全てお見通しだ」
決め台詞を吐いてバシッとメイロッテを指差すズバニールはいかにも自分に酔っている。それを増長させるように後ろにいるお花畑が『頼りにしているわぁ』とタキシードの背をギュッと握れば単純な青年ズバニールはふふんと鼻高々になった。
「それはそれは。全てお見通しであるとは素晴らしいことです。ズバニール様にはどのようなことが見えていらっしゃるのですか?」
「おまえはこの一年、パレシャに執拗な嫌がらせをしたな!」
「は? はい? この一年でございますか?」
これまで冷静だったメイロッテだが予想の上をいくズバニールの発言についつい驚愕を表してしまった。だがそれは招待客も同じようで口の前で右手を左右に振り『ないない』と表したり首を傾げたり首をブンブンと横に振ったりコソコソと意見を交わしたりしていてズバニールの言葉に納得する者は皆無である。
だが自分に都合のよいように解釈することを得意とするズバニールはそれらをメイロッテへの批判の行動だと思い込み尚更顎を上げ自分より少しばかり背の高いメイロッテを見下ろすような視線になるような姿勢となる。
幼い子供が虚勢を張っているようにしか見えないのはメイロッテの佇まいと比べられているからかもしれない。
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