第2話
招待客がほぼ集まり多くの者たちのお腹が満たされたことを見計らって音楽の曲調が寛ぎを誘うものから勇壮なものへと変わる。それに気がついた子女たちは中庭や食事部屋にいた者たちもダンスホールに集まった。
ホールのどこからでも見える螺旋階段は幅が広く緩やかにカーブしている。その最上部に気配を感じて見上げると濃いめの緑色の髪を後ろに撫でつけて白を基調とした生地に金糸や空色糸で豪華に刺繍されたタキシードを着た容姿も綺羅びやかな青年が奥から現れた。
その傍らには藍色の髪を緑色の大きなリボンを付けたツインテールにしていて、儚げで可愛らしい少女が腕を組んでいる。淡い黄色をベースにして緑の糸でふんだんに刺繍の施されたドレスは細い肩を露出させているが少しさみしい胸元のおかげで低俗な印象はない。
二人は笑顔で階段を下りてくる。会場から見て右に下りだし左にカーブし中央に降り立つころには二人の衣装が互いの色を混ぜて同じ刺繍が施されたお揃いの衣装だということが見て取れるようになる。普段の学園での様子を知る者ばかりが集まっているのである意味納得であり、かといって貴族子女としてオルクス公爵家の縁関係を知っている者がほどんどなので驚く心理も存在する。
『ああ。ズバニール様はそちらを選ばれたのかぁ…』
残念だというのが正直な気持ちで、階段の上に現れた時からわかってはいたがこうまで見せつけられると補う言葉は出てこず自ずと褒め言葉も生誕祝福の言葉も出てこない。
会場に小さなどよめきと嘆息とうろたえとが混じり合い微妙な空気になった。
それを読めない主役はさらなる爆弾を投下する。
「俺が第一ダンスを披露せねばパーティーが始まらないだろう。
楽団よ。ワルツを奏でよ!」
『今日の主役は貴方だけではないですよぉ!!』
誰もが思い誰もが口に出せずにいた。
その中には指揮者も含まれておりズバニールからの鋭い視線に汗をたらし始め逃げるように視線を反らして壁際に立つ者たちの中から懸命にある人物を探した。指揮者がその人物を見つけると安堵から目に涙を溜めてしまった姿に楽団員たちもグッと唇を噛んで涙を堪えた。
『師匠! わかりますよぉ!!』
『リーダー! 頑張ってぇ!』
『貴方だけが頼りですぅ!』
楽団員たちの潤んだ瞳が指揮者に注目する中、指揮者は懸命に壁際のその者へ目で合図を送っていた。
壁際に立っていた総合責任者執事長コリアドルはため息を溢しながら頷く。指揮者はぱぁと顔を明るくして笑顔で楽団員たちに向き直った。楽団員の小さなため息など序の口で数名の者から涙がぽろりと落ち数名の者から鼻の啜る音が聞こえたほどである。
「ではワルツ四番」
『『『パラパラパラ』』』
楽譜を捲る音が一斉にして準備が整うと指揮者へ視線が戻る。
指揮者の華麗な指揮によって前奏が始まるとズバニールはニコリと笑って隣にいる藍色の髪の少女へ手を伸ばした。
「パレシャ。いくぞ」
「はいっ!」
二人のダンスはとても感激できる……
ものではなかった。
ズバニールは幼い頃から努力が嫌いであるため基礎中の基礎の初級ステップしかできない。パレシャはいかにも運動神経が鈍くエスコートの力量なくしてはまともに踊れないが初級ステップならなんとか数回足を踏むだけで済むというレベルである。
そのような状態でも皆の注目の中で一組だけのダンス披露をした二人は満足そうな笑顔で目を合わせて笑っていた。
拍手を送るべきか悩んでいる微妙な空気となった会場の雰囲気に慌てた指揮者はこのままダンスタイムに突入してしまおうともう一度タクトを振り上げたその時、三つ目の爆弾が投下された。
「メイロッテ・コンティ! 前へ出てこい!」
ズバニールが皆が注目するように声を張り上げるがそれに反応がないため黄褐色の瞳を細くして会場を見回している。パレシャはズバニールの後ろに隠れるようにして半分だけ顔を出し肩を震わせていて水色の大きな瞳から涙があふれるのではないか思われるほど潤ませていた。
「もしやわたくしをお呼びですか?」
涼やかな声がするとその声の方から人がサアっと割れていき青年と少女まで道が開けた。
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