小説 テレビ男

 オレはテレビを観るのが大好きだった。或るお笑いコンビの番組を追いかけていた。でも、両親はオレたち姉弟きょうだいへやにテレビを置くことを許さなかったから、ソファのあるへや和室わしつで観るしかなかった。両親のどちらかが和室でテレビを観ている場合、違う番組を観たいなら、当然オレたちはソファのある室で観るしかなく、いつもリモコンを取り合っていた。

 年がもうそろそろ終わるという時期は、オレがテレビに見入る時間が長かった。あのお笑いコンビの名前のついたスペシャル番組も多かったのだ。

 そして或る日、テレビの画面を凝視している内に、オレの視界にソファが入った。

 オレがすわっていたソファだ。

 いつの間にか、テレビの方ではなく、室内をオレは眺めていた。

 オレは、なんと、テレビの中に入ってしまったようなのだった。

 テレビになってしまった可能性もある。

 そして、今は、視界に姉であるユキとその友人のミナコがいる。きゃっきゃ、きゃっきゃとじゃれ合うようにしている。時たま、母親も現れる。

 家族も、ミナコのような顔見知りも、誰もオレがいなくなったことを気にしていないようだった。元々、オレが存在していなかったように生活している。


「あーあ。ナオちゃん、かわいい」

「そうだよね〜」

 の方を見ながら、ユキがしきりに、ナオちゃんなおちゃん、と言っている。

「ワタシも、ああいうイイオンナって思われる人になりたい」

「イイオンナになりたいの〜」

「そうだよう……」

「さとしの奴、イイワケばっかり歌うんだよ〜」

「いいじゃない。みちおなんて、ワタシにデパーチャーズ歌えって言うんだから。ラップをやりたいからって」

「ユキは、どの曲だと思う?」

「アイムプラウドもいいけど、やっぱりドントワナクライじゃない?」

「ってゆうか、あじあのジュンシン、好きなんだけど〜」


「どれも、おんなじような歌じゃない?」

 通りかかった、母親の言葉にユキが、

「ちょっと、そうゆうのやめてほしいんだけど」


「ほら。ドントワナクライだ」

 ユキが言うと、ミナコが、

「ほんとだ〜」


 オレが、テレビから出られる日は来るのであろうか。今日は、ミナコが美人であることに気づいた一日であった。

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