第2話 お祝い
「それでは、レインとアイヴァンのファミリア召喚を祝して乾杯!」
大混乱の召喚儀式から後、僕たちは祝いの食事会をすることになった。
この店は貴族御用達の個室レストランで、平民の僕と母さんは少し居心地が悪かった。僕の家族の中で貴族なのは父さんだけである。母さんは所謂平民の愛人というやつだ。母には貴族の血が一滴も流れていないため、息子の僕も貴族を名乗ることは許されていない。
「しかしレインには驚いたよ、まさか精霊を召喚するとは!しかもあんな短時間で」
確かにほぼノータイムといっていいくらい素早い召喚だった。精霊を召喚した人は皆そうなのだろうか。
「あたし、レインが三歳の頃から目をつけてたのよ!勿体ぶってもしょうがないじゃない」
シュガーの言い分に皆驚いた顔をする。僕も驚いた。
精霊は本来目に見えないものだけど、近くにいるのに全く気づかなかった。なんでも精霊が実体を持てるのはファミリアとなった場合のみらしいが、これほど気づかないものだろうか。
「シュガーはずっと僕のそばにいたの?」
「ええずっと一緒にいたわ!だからレインのことならなんでも知ってるんだから」
それは少し恥ずかしいなと思う。
「あたしがあんた達を最強の冒険者にしてあげるわ!」
シュガーはルークの頭の上に乗って、得意げに胸を張っている。ルークも胸を張ってガウとひと鳴きした。心強い相棒たちだ。
「冒険者か……間違いなく国から横槍が入るだろうな。今この国に居る精霊の召喚者も国に縛られている」
父が言うなら本当の事なんだろう。でも僕は国勤めにはなりたくない。僕の夢は最強のSランク冒険者だ。
「レインの邪魔をしたら王城を火の海にしてやるって、王に伝えてちょうだい。今実体化してるもう一人の精霊は大人しいけど、あたしは違うんだから。人間の言いなりになんかならないわ」
シュガーの言葉に父さんは顔を青くしている。僕もシュガーを止める気なんてない。冒険者になれないならシュガーに精霊の強権を発動してもらおう。
父さんも説得は無理だと判断したらしく、王に伝えておくと言った。
父は恐らく僕に王立騎士団に入って欲しかったんだろう。父は伯爵であり、王立騎士団副団長でもあるからだ。ちなみにアイヴァンの父は父さんの元部下で、怪我で騎士団を引退し今は剣術指南をしている。僕とアイヴァンの剣術の師匠だ。
「ねえ、あたしファミリア用じゃなくてそっちの料理が食べたいわ!」
唐突にシュガーが僕の元へやってきて言った。ファミリア用のご飯は生肉や野菜の盛り合わせだ。ルークやアイヴァンの両親のファミリアは部屋の隅で美味しそうに頬張っている。ちなみに父さんのファミリアはドラゴンなのでここには居ない。
シュガーは精霊だけど、人間と同じものを食べてお腹を壊したりしないだろうか。
「大丈夫だろう。魔法師団に精霊のファミリアを持つものがいるが、人間の菓子を食べていたぞ」
それなら大丈夫か。僕はシュガーのために料理を皿によそってやった。人間と同じものでいいなら今後世話が楽かもしれない。シュガーは小さいから量も少なくて済むはずだ。
「この国に精霊のファミリアを持つものはお前も含め二人だけだ。今度魔法師団に精霊について聞きに行ってこよう」
父さんの提案はとても助かる。儀式前にファミリアについて勉強したが、精霊は数が少なすぎて資料がなかった。一度もう一人の人に直接話を聞けないだろうか。
食事をしながら談笑していると、アイヴァンがなんとも言い難い顔でこちらを見ているのに気がついた。
「どうした?アイヴァン」
「いや……シュガーなんだけどさ……ちょっと食べ過ぎじゃないか?」
アイヴァンが困惑しきった顔で言う。僕がシュガーを見ると、シュガーは自分と同じくらいの大きさのクロワッサンを器用に前足で持って美味しそうに頬張っていた。
「シュガー!?お腹壊すよ!?」
「そんなわけないじゃない、あたしは精霊よ!食べようと思えば無限に食べられるわ」
シュガーが口の周りに沢山の食べかすをつけた顔でなぜか誇らしげにしている。精霊とは、一体何なのだろうか。胃袋が無いのか、口から先がどこか亜空間に繋がっているのか……
「ちなみにトイレも必要ないわよ」
精霊は本当に生物なのだろうか。早急にシュガーと話し合いが必要な気がしてきた。
「世話が楽でいいな!」
いい意味で楽観的な幼なじみはすでにシュガーの常識外れっぷりに順応したらしい。僕はシュガーのフサフサした尻尾を撫でながらため息をついた。
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