もふもふファミリアと最強冒険計画

はにかえむ

第1話 はじめましてファミリア

『ファミリア』とは、女神が人類に与える無二の相棒。成人を迎える十五歳で一度だけ召喚を許される、最も自身と相性の良い動物または魔物のことである。召還されたファミリアは適度な知性と、召喚主と同等の寿命が与えられる。


 僕は今年十五歳になる。やっと念願のファミリアを得られる喜びで昨日はなかなか眠れなかった。

 今目の前で僕の幼なじみで親友のアイヴァンが、巨大な召喚陣の上に立ってファミリアを召喚している。もう三十分ほど祈りを捧げているから、そろそろ相性の良いファミリアが見つかって、召喚されるはずだ。アイヴァンの両親も僕の両親も、儀式を固唾を飲んで見守っている。

 

 じっと見ていると召喚陣が淡く光りだした。いよいよ親友はファミリアに出会えるんだ。将来は冒険者になるから、ファミリアは強い魔物がいいと言っていた。アイヴァンは真面目で優しいやつだから、女神様はきっと願いを叶えてくださると信じている。

 光が徐々に強くなり、目を開けているのが辛くなる。思わずぎゅっと目を閉じると、唐突に光が和らいだ。目を開けるとそこには、アイヴァンと漆黒の毛並みの狼がいた。

「やった!シャドウウルフだ!」

 アイヴァンが大喜びでファミリアに手を伸ばす。狼は不思議そうに差し出された手の匂いを嗅いでいる。


「召喚成功おめでとうございます。ファミリアに名前をつけて儀式は完了となります」

 儀式を担当してくれた神官が、微笑ましげな笑みをたたえていった。言われたアイヴァンは未だ興奮冷めやらぬといった態度で狼を撫でている。

 

「名前はずっと前から決めてたんだ!オスだから名前はルークな!」

 ルークと呼ばれた狼は嬉しそうに、ちぎれそうなほど尻尾を振っている。その光景を見て、僕たちは拍手をして立ち上がった。アイヴァンは振り向いて満面の笑みを見せてくれた。

「おめでとうアイヴァン」

 アイヴァンの父親がガシガシとアイヴァンの頭を撫でる。彼のファミリアである白銀の狼は、ルークの匂いを嗅いで挨拶をしているようだった。

 

「さて、次はお前の番だな、レイン」

 父が僕の肩を叩きながらそう言った。途端に緊張で体が震えた。

 僕はアイヴァンとパーティーを組んで冒険者になると決めている。アイヴァンが召喚したシャドウウルフは魔物の中でも戦闘力が高い。これで僕が魔力を持たない動物を召喚してしまったら、冒険者としての活動に支障がでるかもしれない。

 それに僕の夢は最強のSランク冒険者だ。出来れば戦える魔物がいい。

 

「レイン!大丈夫、お前ならきっとドラゴンとか召喚できるって!」

 幼なじみは無責任な応援をしてくる。少しムッとしながらアイヴァンと入れ替わりで召喚陣の中に入った。

 これからこの召喚陣の中で祈りを捧げる。そうすると女神様が召喚者と相性のいいファミリアを探してくださるらしい。だから召喚にはなかなか時間がかかる。最短でも十分、平均は三十分ほどかかるそうだ。

「それでは召喚の儀式を始めます」

 神官の声と共に祈りのポーズをとる。するとその瞬間召喚陣が眩い光を放った。

 アイヴァンの儀式の時とはまるで異なる状況に混乱する。もし召喚失敗だったらどうしよう。

 

 光は唐突に止んだ。

 混乱する僕の目の前には、何か白い綿の塊のようなものがあった。

「やっと召喚してくれたのね!待ちくたびれたわ!」

 目の前の綿の塊は立ち上がると、愛らしい少女の声で言った。

 いや、綿ではない。立ち上がったそれは生き物だ。

 

 マグカップに入りそうな小さな体は純白の小狐のようにみえる。しかしその尻尾は一本では無い。本来の狐より短く太い尻尾が九本、まるで八重咲きの花のように広がっている。瞳はまるでルビーのような赤色で、光をうけて宝石のように輝いている。

 

 僕はその姿に見覚えがあった。僕の前世、日本で生きていた頃、気に入っていたぬいぐるみだ。多くのクリエーターが出店できるフェスで買った、日本の妖怪シリーズぬいぐるみ『九尾の狐』にそっくりである。

 

「どう?あんたが好きな姿になってみたの!可愛いでしょ?」

 確かに可愛いが、僕は状況が飲み込めなかった。通常ファミリアとして召喚されるのは魔物か動物、すなわち人の言葉を話せない生き物だ。だが目の前の九尾は間違いなく人の言葉を話している。それに好きな姿になったとはどういう意味だろうか。


「これは……精霊!精霊を召喚するなんて!」

 神官が興奮状態で叫んでいる。目の前の生き物は精霊らしい。あれ?精霊って超貴重な存在じゃなかったっけ?

 

「何してるの、レイン。固まってないでさっさと名前をつけてちょうだい!」

 九尾が小さい足をてちてちと床に叩きつけて抗議している。名前……名前か。

「じゃあ、綿あめみたいだから『シュガー』で」

「中々可愛い名前じゃない!じゃあこれからよろしくね、レイン!」

 

 この時の僕はまだ、これ以上ない混乱の最中にいた。

 僕だけでは無い、周囲もみんな混乱していた。

 

 落ち着いて話ができるようになったのはおよそ一時間後の事だった。

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