第11話 お祝い

 僕が領主様の養子になって数日がたった。養子になった日は盛大なお祝いをしてくれて美味しい料理を沢山食べた。

 やっと領主様をお父さんと呼ぶことにも慣れてきて、この家に馴染むことができたと思う。

 

 そんな時、お父さんから家族になったお祝いのプレゼントを貰った。開けてみるとそこには羽を象った金属の魔法道具が二対入っていた。

「フライングシューズだ!」

 僕はとてもとても嬉しかった。フライングシューズとは名前の通り飛ぶ靴だ。靴本体を指すのではなく、靴に取りつける魔法道具をそう呼ぶのだ。

「それは昔大魔女様が作ったフライングシューズだよ。大魔女様のフライングシューズは操縦が難しいんだけど、エリスなら時間をかければ乗れるようになるかと思ったんだ」

 おばあちゃんが作ったフライングシューズと聞いて僕は感動した。

 お父さん曰く、おばあちゃんの作ったフライングシューズは補助機能が一切無い代わりに高機能らしい。そのため一般の人は危なすぎて使えない。魔力制御がしっかりと身についていて、魔力操作が上手い玄人にしか使えないようだ。高名な魔法使いたちには大人気な逸品らしい。

 そんなものが僕に使えるのか疑問だったけど、お父さんは僕がブラックベアに放った魔法を見て、練習したらなんとかなりそうだと思ったそうだ。

 

 僕はお父さんと一緒に庭に出て、靴に魔法道具を装着する。

 最初に自分にシールドを張るのを忘れない。吹っ飛んで怪我をするかもしれないからだ。

『頑張れー』

『空まで飛んでくのー』

 シロとアオが応援してくれている。

 

 僕はゆっくりと魔力を込めてみる、すると少し浮き上がった。そのままゆっくりと上昇して前に進もうとした時だった。魔力が揺れて姿勢が崩れた。僕は慌てて魔力を流すのを止める。

 地面に戻った僕は心臓がバクバクしていた。これは相当な魔力操作の腕が必要だと気づいてしまった。でもその分乗りこなせたらなんでも出来そうだ。

 

「すごいな、初めてそれを使ってゆっくり浮き上がれるなんて、私は昔試して吹き飛んでいったぞ」

 お父さんは拍手してくれた。絶対乗りこなせるようになってやると僕は闘志を燃やす。

 おばあちゃんは僕に魔力制御と魔力操作の正確さは何より大事だと教えてくれた。僕だってずっと頑張って鍛えてきたんだ。絶対出来る。

 お父さんは仕事があるからと部屋に戻ってしまったが、僕はそのまま練習を続けた。

 

 途中で兄さんがやってきて、学園で学ぶフライングシューズの練習法を教えてくれた。兄さんが使っているのはある程度補助機能の付いた物らしく、敏捷性は僕のシューズと雲泥の差だ。

 最高速度で飛んだら兄さんが呆然としていた。

 もっと慣れたらその速度のままスピンなんかもできるようになると思う。今の僕の腕ではそこまでは行けそうになかった。

 

 その日の内になんとか飛んで移動するくらいはできるようになったが、細かな動きはまだ出来ない。悔しいから毎日練習しようと思う。

 そう宣言したら兄さんが何か微妙な顔をしていた。

「フライングシューズは一年生から授業でやるけど、補助機能無しでエリスくらい飛べる子は居ないと思うよ。むしろ補助機能無しのフライングシューズを使ってる子がいないと思う。五六年生になったら居るか居ないかだね」

 僕は呆然としてしまった。お父さんはなんで僕ならできると思ったのだろう。いや、できたけども。


 夕食の席で、移動に支障がない位には飛べるようになったと言ったら驚かれた。お父さんは最初から、飛べなかったら別の補助機能のついた物をくれるつもりだったらしい。乗りこなせる様になるにはもっと時間がかかると思っていて、あくまで目標と、実力の確認としておばあちゃんの作ったものをくれたそうだ。

 兄さんがそれを聞いて怒っていた。最初に難易度の高いものを渡して自信を無くしてしまったらどうするのかと。お父さんはちょっと反省したようだ。僕のことを手放しで褒めてくれた。

 

「エリスは凄いな、流石大魔女様の弟子だ。きっと成績トップも狙えるぞ」

 僕はそれを聞いて、トップを狙ってみるのも悪くないなと思った。

 せっかくだから一番になりたい。入学試験が楽しみだった。

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