第10話 家族
ブラックベア事件の次の日。僕は領主様達に呼び出されていた。
そこには奥様とパーシーさんがいた。
領主様たちは真剣な顔で僕を見ている。昨日のことを叱られるのかもしれないと、僕は身構えた。
「ああ、済まない。叱りたくて呼び出したわけではないよ。今日は提案したいことがあって呼んだんだ」
領主様がティーカップに口を付ける。何か緊張しているようだ。
「エリスくんは正式に家の養子になる気はないかい?」
領主様の言葉に僕は固まった。養子というのは正式に領主様の子供になるということだろう。考えたことも無かった。
「僕たちは大魔女様にとても感謝しているんだ。妻と息子の命を救ってくれた。大魔女様の孫が一人で暮らしていると知って心配だった。実は最初からエリスくんを養子にしようと思っていたんだよ」
そこまで言って領主様は困ったような顔で微笑んだ。
「でもエリスくんは急に養子になれと言われても戸惑うだろう。だから一度ここでの暮らしを体験して欲しかったんだ。エリスくんが嫌でなければこのまま養子にしたい。正式な保護者がいないままでは、この先苦労することも多くなるだろうから、考えてみてくれないか」
僕は混乱してどうしたらいいのか分からなくなった。
僕には父親も母親もいない。家族というのがどういう物か、いまいちよく分からなかった。
でも、領主様達が家族になるなら嬉しいと思う。
「難しく考えることは無いよ。養子になったからといって、すぐに何かが変わる訳では無い。今までと同じようにここで皆で暮らすだけだ。でも僕は何かあった時にエリスくんを守れる関係になりたいんだ。食客という立場では守るのにも限界がある」
領主様の隣で奥様が頷いている。
この人たちは本当に僕の為を考えてくれたんだ。心が温まる心地がした。僕はこの手を取ってもいいのだろうか。
『エリス、ここの子になっちゃいなよ』
シロが足元でしっぽを振って言う。
『そうだよ、みんな優しいの、きっと幸せになれるの』
アオも僕の膝の上でプルプルしながら、僕の背中を押してくれた。
「僕はこの家の子供になってもいいんでしょうか?」
まだ不安で、つい疑問形になってしまった。
奥様がもちろんと笑ってくれた。
その笑みを見て僕は決心した。
「わかりました。僕を養子にしてください」
そう言うと三人は嬉しそうに笑ってくれた。
「よしじゃあ今から俺は『兄さん』な、呼んでみて!」
パーシーさんが弾んだ声で言う。僕は戸惑った。
「こら、先に書類にサインだ。エリスくん、内容を確認したらここにサインしてくれ」
領主様が差し出した書類を読むと、僕を養子にする旨が記載されていた。内容を確認して緊張しながらサインをする。こんなに緊張しながら文字を書くのは初めてだ。
「よしこれでエリスくんはもう家の子だ。今度から『お父さん』と呼んでくれ」
「私は『おかあさん』ね!」
僕はまだ緊張しながら言う。
「これからよろしくお願いします。お父さん、お母さん、兄さん」
そう呼ぶのはとても気恥ずかしかったけど、なんだか嬉しかった。
おばあちゃん、僕に家族ができたよ。おばあちゃんはきっと、お祝いしてくれるよね。
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