第2話 不信感

「それじゃあ皆、明日からスタートだから。朝8:30に体育館に集合だよ!」


 呆然としている教室に、それだけ言い残して運営は放送を切った。


 常時ざわざわしている教室に先生が言葉を挟んだ。

「……っ、放送の通りだ。明日は体育館に登校するように持ち物は特にない、以上だ。解散」


 担任の様子がおかしいように見えたが気のせいだろうか。そんなことを考えていた時、隣の席から話しかけられた。


「ねぇ、なんか先生の様子さ……おかしくなかった? なんか操られてるというか、本当に言いたいことを言えてない感じ?」


「え? あ、あぁ確かに」


「あ、ごめんね急に。私、椎名しいなあずさ。これからよろしくね!」


「……あぁ、俺は名島暁。よろしくな」



 1日目……いや0日目が終わり、椎名にさよならと言って教室を出た。

 寮に戻る前に学園の散策かつ運営について少し調べようか。とはいえ、ここはただの学園ではないことは確かだ。迂闊に動くと怪しまれる可能性も高い……とりあえず今日はおとなしく帰って明日に備えよう。



 小鳥の鳴く清々しい朝、暖かい日差し、さわやかな風、俺の高校生活が始まる!

 ――なんて青春ラブコメのような目覚めがあるはずもなく、朝を迎えた。

 備え付けのトースターにパンを入れて、コーヒーを入れる。

 時刻は朝の6時、寮を出るまではまだ時間があるため、俺はゆっくり朝食をとった。

 てっきり全寮制なのに何もないのかと思ったが、さすがの資金力……コンビニもスーパーも敷地内に存在した。


 そうこうしているうちに、時間は8時を回っていてとっくに家を出る時間だ。

 俺は誰もいない家に律儀に「いってきます」といい、家を出た。


 こうして歩いてみると、マンション型の寮が並ぶ景色は普通の街と変わらないし、コンビニだって敷地の中に点在している。


「おはよ、つきくん!」

 そう、後ろから声をかけてきたのは椎名だった。


「おはよ、椎名。えと、つきくん?」


「そう! あかつきくんだからつきくん!」


「そ、そうか……あ~その、そちらの方は……?」

 椎名の隣にはもう一人こじんまりした女の子がいた。


「あ、ごめん! 紹介するね、この子は同じクラスの――」

美延みのべ憂亥うい


「えっとー……とりあえず、よろしく?」


「うい」


(……え? それだけ?「うい」の二文字!?)


「あ、あの……えーと、俺も同じクラスだから仲良くしましょう?」


「うい」


(やっぱり「うい」だけ!? 嫌われてんのかな……え、どうしよう仲良くできる気がしない……)


「ごめんね、つきくん。この子慣れてない相手だと『うい』しか言えないの」


「あ、あ~そうなんだ! なるほど、じゃあもう椎名とは結構仲良いんだな」


「ま、まぁね。ね、憂亥?」


「うい」


(あ、まだ慣れてないんだ)


 そうこうしているうちに俺たちは体育館前にたどり着いた。

 俺は体育館に妙な禍々しさが感じられた。


「じゃ、行こうか」


「そうね」

「うい」


 体育館に入ると、すでに生徒が大勢いた。

 聞いたところによれば、今年の生徒は全部で469人だそうだ。


 時刻は現在、8:30分になったところだ。

 もうそろそろ始まる頃だろうか……と思ったその時、ステージに人が現れた。


 マイクのキーンという音で生徒は静まり、全員がステージを向いた。


「皆さん、おはようございます。昨日の放送は楽しんでいただけたでしょうか?」


 声が低い、男か。人口音声だったから分からないが、放送の人物、運営はおそらくこいつだ。

 男は背が高く、黒い目隠しをしていた。


遊戯ゲームを始める前に最後の確認をしておきましょう。このゲームは単独行動はやめたほうが良いですよ。私たちも手を汚したくはない……だからなるべくまで生き延びてください」


(やはり、生き延びるということはデスゲームなのか)


「言い忘れていました。ここで辞めたいなら、。どうぞお帰りください」


 奴の言葉に反応した生徒が一人いた。

「俺はダルいからパスするぜ。卒業までお遊びなら俺はずっと寮にいる。じゃあな」

 そう言って、体育館入口に向けて歩き出した。


 なにか嫌な予感がした。

(これは確実にデスゲームだ。なのに、運営はそんな簡単にリタイアさせるだろうか……罠か?)


 運営にも優しさがあるのか?

(そういえば、入口の扉が妙に分厚かった。体育館の扉は確かに分厚いものが多い。でも、分厚すぎる……)


 デスゲームっぽくて、あの分厚さがいるもの……レーザーカッター。

(まさか、ここで殺す気か? 見せしめってことか?)

 俺は大声で叫んだ。

「待て、それは罠だ! 死にたくなかったら今すぐ戻って来るんだ!」

 叫んだことにより、注目は一気に俺に集まった。もちろん、椎名も美延も俺を見ていた。

 だが、時すでに遅し……


 彼はもう、入口に足をかけてしまった。それに加え、頭を少し下げてしまったために条件がすべて揃った。

 その瞬間レーザーが現れ、目にも留まらぬ速さで彼の首を刎ねた。


「「「きゃー!」」」

 目の前の光景にだれもが驚愕し叫んだ。

 それは椎名と美延も例外ではない。二人で抱き合って震えている。

(こんなときに恥じらいは捨てろ、俺)

 俺は、外から二人を抱きしめた。

(くそっ、俺がもっと早く気付いていれば……)

「何としてでも、二人は俺が守る。最後まで生き延びるぞ」


「うん、ありがと。つきくん」

「……うい」

 鼓動が速くなるのを俺は感じた。俺だけじゃない、二人も速くなっていた。


 二人を落ち着かせ、俺は壇上に目を戻した。

「ふっ、ふふっ、ふはははは!!」


 気付けば俺は、運営に向けて怒鳴っていた。

「何がおかしい!」


「いやぁ、実に面白い。昨日の放送とテレビに映した内容でわかるでしょう? これはデスゲームですよ、簡単に帰すわけ無いでしょう?」


「……っ、それでも! まだゲームは始まっていないじゃないか!」


「何を仰っているんですか。あなた方が入学した時点でゲームは始まっていますよ、説明したのはすごろくのスタートが今日ということだけ」


 そんなの……ありかよ……


「あなただって、それくらいのことは考えられるんじゃないですか? ねぇ、名島くん」


「俺の名前……! どうして!」


「もちろん、この学園の生徒の情報は全て把握しています。あなたが抱えていることもね」


「だったら――」


「さぁ、もういいでしょう。皆さん、ゲームの開始です!」

 その言葉とともに、指をパチンッとならした。

 途端、俺を含めた生徒全員が瞬間移動させられ、床にはすごろくのマスが浮かび上がっていた。


「二人とも、大丈夫だった?ってあれ、そちらは……?」


「えっとね、一人でいたんだけど一人じゃ危ないっぽいから、入れてあげたくて……いいかな?」


「あぁ、もちろん。椎名は優しいな」

 男か……まぁ男二人と女の子二人でバランス良いか


「えっと、月下つきしたみのるです。あの、昨日手を挙げて先生に話しかけたのが僕です」


「あぁ〜、あの人か。俺は名島暁、よろしく」


 優しい性格の椎名、ちょっぴり変わった小動物みたいな美延、リーダーシップがありそうな月下、そして俺。

 良い4人が集まったと思う


「それじゃあ、はじめるか!」







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