第21話 甘ったれさせて。
新田の声で私が目を開けると、目の前に見えたのは真剣な顔。なのに私が普通にしていると、いつもの顔になって「兄さんはどうだった?」と聞いてくる。
「俺の妹とお近付きになるなんて、でもまあ蒲生さんと堀切君の為だから許すよって言ってたよ」
「おお、優斗感謝」
「関谷くん!?堀切くん!?」
そんな事を言いながら決まった水着温泉は楽しかった。
泳いでも咳が出ないのが楽しくて、わりかし周りを無視して泳ぐと、新田樹は私係になってしまい、蒲生葉子さんと堀切拓実さんは2人きりになるしかなかった。
「関谷、ねーちゃんと堀切さんが気になったりしないの?」
「見に行きたいの?」
「いや、関谷なら見たいと言うかと思った」
「あはは、私はそれよりも泳ぎたいからここに居るよ。新田が見てくれば?」
「見ねーよ。関谷がいる所にいるって。とりあえず咳が出そうなら休めよな」
新田はそう言いながらのんびりとお湯に浸かって私のそばから離れない。
本当に気が利く男だなと思っていると、私たちを見た男性2人組が「カップル!俺もカップルで来たかったのに…紗栄子ーっ!」、「大塚さん!フラれたんです!諦めてください!」、「うるせーぞ豊島!まだ終わってねー!」なんて騒いでいる。
カップル?
私と新田が?
私は照れてしまって新田を見ると、新田樹は赤い顔をしていた。
そこからはもうだめだった。
新田樹はすぐに普通になるが、私はもう照れて仕方なかった。
それは蒲生葉子さんも同じで、休憩中に「ここ楽しいですねお義理兄さん!」、「だな!でかしたぞ樹!」なんてやっている2人を見ながら、私達は真っ赤になっていて、「照れます」、「え?愛ちゃんも?」なんて話していて、「ごめんね。いっくんの事よろしくね」と言われたら、私は真っ赤で「…うぅ…。はい」としか言えない。
横浜も楽しかったし、食べさせて貰ったご馳走中華も美味しかった。
相変わらずの距離感で「そうだ!写真撮って関谷の両親に見せてやれよ」と言われた私は、ツーショットだと思い真っ赤な顔で新田樹と撮ったら、新田樹が言っていたのは横浜の景色だったらしく墓穴を掘ってしまった。
もう私はダメになっていた。
何度心の中のお兄ちゃんに聞いても、お兄ちゃんは嬉しそうな笑顔で、「良かったよ愛!」と喜び、「俺は明日香の想いに気付かないフリしてタイミングを逃した。愛はそんな事にならずに思うまま生きるんだ」しか言わなくなっていた。
何故止めない!?
止めてくれよお兄ちゃん!
だが止める訳がない。
それは心の中にいる兄で、再現度は高いがそれだけで、大元は自分の気持ちから出ている。
それを裏付けるように蒲生葉子さんに、「お兄ちゃんって姫宮明日香さんの事を姫宮さんって呼んでましたか?」と聞いて、「遺書にもあったけど、最後の日、2人でいく道を選んだ時から、明日香って呼んでいたわ」と聞いてから、お兄ちゃんは姫宮明日香さんを明日香と呼んでいる。
もう隠しようがなかった。
隠せたのは本気の思いだけで、頑張って友達、運命共同体として生きるだけで、それ以外ではもっと一緒にいたいと思ってしまっていた。
「ねーちゃんと堀切さんの仲の為に頼む!」と言われれば、「いいけど、お金…」と返して、「義理兄さんが払ってくれている!」とお決まりの答えが返ってきてダブルデートをする。
ダブルデートをすれば2人のためにと言って2人でいる時間が増える。
お盆明けのデートなんて酷いもので、蒲生葉子さんは堀切拓実さんに腰を抱かれれば女の顔で歩いていて、「ズルい!」なんて思うようになっていて、私もと願ってしまったが新田樹はそんな真似はしない。
紳士野朗だった。
だがもう抑えはきかない。
夏休みの宿題も2人で片そうと誘い、ウチに呼ぶ。
新田樹がウチに来る事すら躊躇するのを、「そのくらいの仲になれたけど、お二人は?ってやるんだよ」と言い聞かせて、更にお母さんのお許しも貰い、お母さんに電話までして貰って、ようやく呼び寄せられて新田樹は我が家のドアをくぐった。
もう私の暴走は止まらない。
「お兄ちゃんにお線香やってくれる?」
「お兄ちゃんの部屋は今も残ってるの。見る?」
「ここ教えてあげるからこっち教えて」
「オヤツ買っておいたから食べて」
「明日はお昼作ってあげるから朝から来て」
そんな事をやっていて、新田樹は少し躊躇した顔をするが、それでも「おう!」と元気よく返事をしてくれる。
私はここで一つの事に気がついてしまった。
最強のカードが手元にある。
「お兄ちゃんの代わりに甘ったれさせて」
この言葉の汎用性と万能感たるやなかった。
私は「おう!ドンドン甘えて来い!」と言う新田樹の膝枕で、「お兄ちゃんは膝枕してくれたよ」と小学生の頃の話を持ち出して甘えると、「うぇぃぇっ?」と変な声を上げて固まってしまう新田樹だったが、すぐに「再起動」と呟くと「甘ったれて癒されとけ」と言ってくれた。
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