第9話 新田樹と蒲生葉子。
新田樹の説明では、蒲生葉子さんの父親と離婚してから性格が変わった2人の母親は、夫婦別姓、男女平等、女性活躍なんかを目指すようになり、その蒲生母を支えたいと思った新田父は結婚をしたが、改善する事なく年々酷くなり、遂には「男が」、「男のくせに」、「男だから」ばかり言うようになり、新田樹に虐待に近い躾をし始めて、新田父にも主導権は全部自分、美味しいところも全部自分、嫌なものや汚れ仕事、後始末は全部新田父と言い出して、関係修復は無理になって離婚する事になっていた。
「父さんはねーちゃんも引き取るつもりだったのにな」
「無理よ。男に染まるなんてあり得ないとか言い出すわ。逆にいっくんを引き取って、女の為に生きられる男に育てるんだって、エッチな本も何もない世界で女の人達の理想にするって言ってるからお父さんと連絡は控えてるのよ」
聞いていて無理だろそれ?と思ってしまう中、新田樹は「えぇ、じゃあまだ無理?」と聞く。
困り顔で「無理よ」と返す蒲生葉子さんが気になって、顔を見ると「私のアドレス帳にいっくんが居たら大変なの。男の人達のアドレスなんて入れてたらお母さんは『奴隷?』とか聞いてくるの。ロックかけてるけど見たそうにしているし、もう病気よ。まだ男の人達ならいいけど、いっくんはいっくんだとわかったら大変よ。私たちは不仲、お父さんには養育費の催促の為に連絡をしてる事になってるんだから」と教えてくれた。
「関谷、頼みがある。ねーちゃんと連絡先交換してくんね?」
「いっくん?愛ちゃんを巻き込んじゃダメ」
私としては願ったり叶ったりなので、了承してアドレス交換を済ませると、「ねーちゃん、なんかあったら関谷の所に教えてよね」と新田樹は笑顔で言っていた。
「ねえ。ねーちゃん。学校で関谷の兄さんの事とか、誰1人として話さないんだ。噂も碌に出ない。だから関谷が皆から探られたりしててさ、ストレスで発作になるから教えてやってよ。それでさ、とりあえず噂で聞いたんだけど…、遺書ってあるの?」
「…もう、だから話したくなかったの。愛ちゃんだけならなんとか出来ても、いっくんが居たら逃げらんない」
蒲生葉子さんの言葉に、新田樹は「にひひ」と笑いながら、私にピースサインを送ってきた。
「遺書はあるわ。私は2人の友達として読ませてもらった。とても外に出していい内容じゃない。そして誰1人として外に漏らさないのは関谷君。関谷優斗君ならそう願うから。まだ当事者は生きているから、その人達のために遺書は外に出さなかったのよ」
蒲生葉子さんは困り顔で「これじゃだめかな?」と聞いてくる。
「少し…考えたいです。とりあえず蒲生さんとお兄ちゃんに何があったかとかはだめですか?」
「ふふ。それこそ誰も…知ってる人はもうこの世にはいない。私が関谷君の事を意識したのは16歳。同じクラスになって、家の中はグチャグチャで毎日が辛くて、お母さんはお父さんといっくんを男だからと、卑下して馬鹿にして攻撃して、これからの時代は女の時代だと声高に叫んでいた。もう何もかも嫌だったの。でもね、学校で関谷君は男も女もなく皆の面倒を見て、皆の為に奔走してくれて、あれこそが人の目指す姿なんじゃないかって思って、私は彼から目が離せなくなった」
遠い目で話す蒲生葉子さん。
私には見えないが、その視線の先にはお兄ちゃんがきっといる。
「じゃあ、お兄ちゃんの彼女って?」
この瞬間、私は口にした事を後悔した。
「何もなかったわ。私は彼女じゃない」と怖い声で言った蒲生葉子さんは、「この話をしたのは姫宮さんだけ。関谷君にも問題はあるのよ。家の事があっても、自分が大変でも、それを外には出さないの。皆、見てるだけで辛かった。三ノ輪先生なんかは『我慢強い、尊敬できる』なんて言うけど、私からしたら辛かったわ」と続けた。
「もっとお兄ちゃんの事が聞きたいです。知らなかったお兄ちゃんを知りたいです」
それを聞いて言葉に詰まる蒲生葉子さんに、新田樹が「ねーちゃん、話してやってよ」と言うと、蒲生葉子さんは「…向こうで相談させて」と言うと、窓の外を見てしまい話せなくなる。
新田樹はメッセージアプリで、私に[ねーちゃん怖]と送ってきてニヤニヤと笑う。
[そんな事ないよ。私達が悪いんだよ]
[そうか?ねーちゃんも溜め込むタイプだから、吐き出して楽になって貰いたいんだよな]
新田樹こそあれこれ気にすぎな気がする。
私は[新田くんこそ溜め込みすぎじゃない?]と送ると、[そうか?俺はまだまだ平気だよ]と返すと私を見て笑っていた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます