異世界結婚相談所~成婚率100%を誇る俺は特別待遇で異世界に召喚されたが、全然成婚できなくてもう日本に帰りたい~

うさみかずと

第1話

「ご成婚おめでとうございまーす!!」


 花弁が宙を舞い二人の男女を祝福する。スタッフたちは成婚祝いを顧客に手渡し、これでもかと祝福の言葉を二人に送った。


「やすひろ様、舞佳様本当にご結婚おめでとうございます」


「こちらこそありがとうございます。一致さんのおかげです。なんとお礼を言ったらいいか」


 顧客の男が泣きそうな顔で俺に感謝の言葉を述べた。


「いえいえ、私は最低限のアドバイスを送っただけですよ」


 俺は心にもない謙遜を彼に送る。


「いえ一致さんがいなかったら彼女とも会えなかった」


 彼は隣で腕を組んだ顧客の女を見つめた。顧客の女が恥ずかしそうにでも確かに幸せそうに頷いた。


「お二人の末永い幸せを心から願ってます」


 二人の顧客は俺に何度も頭を下げて結婚相談所から夜の街に消えていった。



 ☆☆☆



「いやぁお疲れさまでした。一致さん本当にすごいですね!」


 中途入社の田中が俺に賛辞を送った。やれやれいつものことすぎて聞き飽きてる。


「別に疲れてないし、すごくもないよ」

 

「すごいですよ。今月も百発百中じゃないですか」


「あぁ、そうだね」


 俺のつれない態度に田中は首を傾げてなにか言いたげな顔をして近づいてきた。


「なに?」


「いえ、あのぉ一致さん嬉しくはないんですか?」


「はぁ」


 ため息が漏れる。俺はめんどくささを覚えつつ、他のスタッフが真顔になって花びらで散らかった床を掃除している姿を一度見渡してから田中と向き合った。


「嬉しいよ。これでまた不良債権がいなくなったんだから」


「えっ不良債権?」


 不良債権と言う言葉に田中は驚いていた。俺はあからさまに田中をバカにした笑みを浮かべる。


「あの舞佳ってBBAは自分の市場価値も知らないで高望みしてもう五年もここにいる。おまけに年収は150万、年齢だって今年で41歳だ。あんなもんいつまでも置いておいたらこの結婚相談所の評判は落ちちまうだろ」


 吐き捨てるようにそう言った俺に田中はさっきまでキラキラさせていた瞳の輝きを失わせていた。


「そ、そんな言い方……結婚アドバイザーとしてないんじゃないですか」


「そうかもな、だがこれは事実だ。紛れもないな」


「だとしてもやすひろさんに失礼じゃないですか!」


「やすひろ? あぁあのはずれをつかまされた男か」


「なっ」


 田中の瞳に怒りが覗かせる。俺からしてみれば彼女は純粋過ぎるのだ。


「苦労したんだぜ、あの高望みくそBBAに適用させるよう調教したの」


「なにを言ってるんですか?」


「簡単な話だよ。あのクソBBAに会わせるまでにこっちが依頼していた演者にお見合いや仮交際中にボロクソ言わせて自尊心を折っておいた。さいわいあの男は大人しいタイプだったから操作するのは簡単だったぜ。まぁBBAの方にも自分の価値をやんわり分からせてあの男が最高の男だと思わせるよう細工したんだかがな……ククク上手くいったよ」


「そんな」


 絶句する田中をよそに俺は彼女の肩をポンと叩いた。


「田中、これはあくまでもビジネスだ。男だったら恋愛強者に敗れ、女だったら恋愛強者に弄ばれ、最後にたどり着いた場所が俺たちのいるここなんだよ。成婚なんて多少強引なことをしないとできない世の中なんだ……お前らあとはよろしく」


 俺はネクタイを緩め帰りの支度をするために事務所に歩き出す。


「成婚後のことをあなたは考えないんですか!?」


「なに?」


「細工や嘘で塗り固めて本当の自分を隠した結婚なんて本当の結婚じゃないですよ!」


「……そうかもな、でも俺たちの仕事は成婚させること。その後の顧客の人生など知らん。あと俺に説教するのは勝手だが今月のノルマお前未達だろ。能書き垂れたいなら結果を出せ。それからお前の言い分を聞いてやるよ」


 まっすぐな田中の瞳には涙が滲んでいた。俺は彼女の純粋さに耐えることができなくなってそそくさと事務所に戻った。




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