百沢幾人と言う名の男
俺は日本に帰る為に奔走している。この異世界は正直言ってしまえば、最悪だった。黒髪と黒目、と言う日本人の特徴に差別的だし。
顔はいい人が居るが基本的に変わった人がマジで多い。ルミィは普通にヤバいし、今現在膝枕をしながら耳かきをしてくれてるが、基本的にかなり異常なほどに入れ込んでくれている。
普通にやばい人だ。
次に会ったのはロリポップだ。
喧嘩をうる、沸点が低い。そのくせに寂しがりやなのか、泣いたり感情的な一面がすごく目立つ。ルミィと飯を食べていると決まってやってくる。日本の話が気に入っているらしい。
そこは素晴らしいと思うが、だとしても面倒な人なのでスルーしておくのが安全なのだ。
「勇者様、お昼休憩が終わりましたら依頼に参りましょう」
「そうだな。依頼どうするか……なんか珍しい依頼をしたいんだけど」
「勇者様は変わった依頼を好みますね」
「まぁな。出来れば普遍的な依頼はしたくはないなぁ」
「流石でございます。勇者様は偉大なるお方、普通の一般人とは違う道を歩くことでより多くの経験値を得ようと言うのですね」
「え? あ、うん。まぁ、俺レベル制限されてるけど。変わった依頼とか道具とか欲しいな。てか、そもそも勇者ってなんなんだ?」
「勇者とは魔王と戦う存在。魔王と勇者は表裏一体でございます。勇者は人類に一人、魔王も魔族の中で一人しか現れません」
分身の中には魔王が職業が居るんだけど……勇者と同じで分身は対象外となっているのだろう。
「しかし、最近鬱蒼森林にて魔王が現れたとか」
……それ俺のことでは? 分身だけど、実質的には俺だ。
「魔王が出るって結構やばい感じか」
「はい、勇者様の出番が来るやも知れません」
「いや、そのダンジョンはいいや」
「なぜですか!? 珍しいダンジョンであるかと思いますが」
自分と対決するなんてムダもいいところだ。この間、リア充冒険者を適当に追い払ったとスレでは聞いていたが、あまり有名になるとまずいかも知れない。この世界では魔王がたった一人しかいない。
相手をビビらせて、二度と来ないようにする為に魔王を名乗っていたのだが、逆効果になってしまうかも知れない危惧があるな。
「勇者様、今回ダンジョン攻略に失敗をした冒険者は、
「名前と二つ名が同じとは珍しいタイプだな」
「はい。ライトの二つ名を持つ、ライトは……ややこしいのでライトと呼びます。彼がリーダーのパーティーは
「ふむ」
「そもそもパーティーに二つ名がつくこと自体がほぼありません」
「二つ名って、有名だったり功績を残したり、有望でないとつけられないんだっけか?」
「はい。その点、ロリポップは多少優秀と言うわけでございます。沸点は子供よりも低いですが」
「あいつ、沸点が低いだけで優秀なのか」
「はい。つまり二つ名自体が個人につけられるのは稀なのです。しかも、パーティーに二つ名がつくことなどもっと珍しい」
「つまり、鬱蒼森林の攻略に失敗をしたライトと言う冒険者は」
「かなり優秀でございます。特にリーダーのライトは冒険者ランクがSでござます」
「FEDCBASの順であるんだったよな」
「はい、勇者様は黄金の卵ですので、まだ羽化しておりませんゆえにF、わたくしも同じくFでございます」
「俺達とは差がすごいな」
「勇者様の方が素晴らしいと思います!」
「フォローさんきゅー。でも、そのライトとかに付いて行った方がいいんじゃないか?」
「わたくしは勇者様についていきたいのです。それなのになぜそのようなことを言うのでしょうか? わたくしのどこかが不満なのでしょうか? お小遣いをあげたりすればわたくしを必要としてくださいますか?」
「うん、エンジンかかって来たみたいだけど止めてくれ! 超怖いんだよ!!」
「はい、わかりました」
Aランクまではギルド側が厳しい審査をしてランクを決めているらしい。だが、Sランクとはギルドでも管理できないと思われた存在がなっていると言われている。
ようはSランクは一番強さの幅が広いと言っても良いのかもしれない。ギルドでも管理ができないのであれば、強さの幅途轍もなく曖昧、ようはそう言うことだ。
そうか、あのリア充冒険者そんなに強かったのか。
「ライトなのですが、そのダンジョンが入るたびに地形が変わっていることを報告したみたいですね。途轍もなく厄介だとか」
「あぁ、不思議のダンジョンね。確かに攻略難しそうだよな」
「不思議の、ダンジョン?」
「……そう言うふうに言わないのか」
「いえ、そもそも入るたびに地形が変わること自体が稀らしいので」
「あ、そう。そう言う名称はないのね。ダンジョンとか冒険者はあるのに」
「勇者様、博識でございますね」
「うん。まぁ、俺の故郷ではよくあったからね」
「えぇ!? よくあったのでございますか!?」
「10歳の子供なら皆んなやってたよ。俺も99階層のダンジョン攻略して、特殊なオーブとか貰ってた」
「魔境でございますね。勇者様の故郷は」
「……あ、本当に攻略をしてたと言う意味じゃ」
ゲームでやってたとか言っても伝わらないだろうし。このままスルーをしておこう。
「鬱蒼森林はSランク冒険者でも返り討ちにあうほどの、難易度。ライトはもし、これで攻略をする者がいれば次世代の【剣聖】にすらなり得るとすら言っております」
「剣聖?」
「その時代、最も剣の冴えを持つ存在のことをそう言うふうに言うのです。勇者とはまた別の強者の象徴です。ライトは剣聖の時期候補の一人でした」
「へ、へぇ」
「今、剣聖の名を欲して、ダンジョンに人が殺到するのが予測されております。先ほど、ギルドの受付行って来たのですが。かなり依頼発注が賑わっておりました」
まずいじゃねぇか!? ダンジョンに行列ができたら不味くないか?
「おい、ルミィ、今日の午後の予定は他の冒険者をどうにかしてダンジョンに行かせないようにするぞ!!」
「流石勇者様、己の力で攻略をするおつもりなのですね」
「ま、まぁ、それでもいい! 行くぞ!」
「はい! どこまでも!!」
◾️◾️
勇者様は何やら焦っているご様子でございました。あのダンジョンを攻略をする気はない……ご様子でしたが、話の途中でなにやら焦りを感じたようでギルド内にやってきております。
「聞いてくれ、僕達はあの新種のダンジョンで魔王を見た。強さは僕よりも上だ。一瞬だけの対峙で逃げてしまったが尋常ではない」
「へっ、Sランク冒険者とあろう者が情けねぇ」
「そうだそうだ!」
「ふっ、ここで次世代の剣聖の名をもらっておくのも悪くない」
「僕としてはあのダンジョンを攻略できたら文句なしの、剣聖、いや勇者を超えたとすら言って良いと思っているよ」
「「「「うぉおぉぉっっっっっっっっっ!!!」」」」
色めき立つ冒険者達。富、名声、力、それらを求めて冒険をするのが冒険者というもの、ダンジョン攻略の成功金額も跳ね上がり、名声も、力だって証明ができる絶好の機会。
これを逃さない冒険者など、冒険者と呼ぶことこそ難しいのでございましょう。
熱気が高まり、彼等の熱がピークに達したその時。冷や水をあげるように
「少し、落ち着いた方がいいんじゃないか。あまりにリスクが高すぎる」
勇者様が腕を組み壁に寄りかかりながら声を発した。一瞬にして声が小さくなり、全員が彼を見る、その中にはSランク冒険者であるライト、その仲間、こっそりロリポップもいたのでございます。
「君は?」
「Fランク冒険者。イクト・ヒャクザワ」
「そうかい、変わった名前だね。僕はSランク冒険者のライトだ」
「あぁ、宜しく。それにしてもライト随分、派手にやられたみたいだな」
「あぁ、こっぴどくやられたよ」
「だろうな」
「なによ! アンタ、ライトに向かって!」
「まぁまぁ」
「こいつFランクでしょ! ライトからしたら格下じゃない。それなにの偉そうで、黒髪だし! 魔王の手先なんじゃないの!」
その言葉を尻目に、勇者様に向かって非難の目が向けられた。
「まじか」
「魔王の手先なのか」
「あいつ、最近話題の黒髪冒険者だ!」
「偉そうなやつだ」
しかし、勇者様はその反応を待ってましたと言わんばかりに不敵に笑って見せた。まるで、やれやれと言ったかのように両手を上げた。
「随分の嫌われようじゃないか。こんな嫌われ者は退散するしかないな。折角、例のダンジョンについて知っていることを言おうと思ったのに。まぁ、しょうがないよな。黒髪の、黒目の、魔王の手先かも知れない冒険者だもんなぁ! 格下だしなぁ!! 仕方ないなぁ!!! この情報は、超高値でどっかのレギオンに売ってやろう!! 本当は無料で公開しようと思ってたけど、まぁ、黒髪黒目のFランク冒険者の話なんて、誰も興味ないだろうなぁ!!!」
大声で叫びながら彼は去って行こうとした。この試すようで大げさで人を喰ったような態度。よくこんな事が出来るなと正直感心をしてしまいました。
わたくしならこんな大人数の前でそれは出来ないでしょう。
「さぁてと、どこのレギオンに」
「待ってくれ。イクト。僕達は世界の平和を守る為に冒険者になったんだ」
「アタシはライトと結婚したかっただけだどね」
「なんとしてもこの先も一生冒険者として活動をして、一人でも多くの命を救いたいと思っているんだ!」
「それよりもアタシと結婚して子供を育みなさいよ」
「どうか、教えてくれ。君の持つその情報を! お金でも払おうじゃないか!」
「子供もお金かかるわよ、そんな黒髪の言うことなんて」
どうやら、ライトは仲間のパーティーメンバーから好意を向けられている様子。三人いるが残り二人の女性も好意を持っているようだ。
わたくしは基本的に色恋は疎いですが、人の色恋を見ると破滅を願ってしまう良い性格でありますので、あの四人が上手くいかないことを祈っております。
「うん、なんか、腹立つからお前達には教えない」
「なぜだ!! 僕達の何が気に食わないと言うんだ! 僕の仲間の態度が気に食わないなら謝ろう!」
「うん、リア充は……気に入らない。俺は他人の恋路は破滅して欲しいと願っている男なんだ。上からワインを片手にシャム猫を撫でながら破滅恋愛の話を聞くのが趣味な男だからな」
「な、なんて極悪な男なんだ君は!?」
「冗談だ」
「冗談か、なら問題ないね」
「お前、素直すぎるだろ。鈍感超えて、ちょっとおかしいぞ」
「それより、その情報についてなんだが、いくらで売ってくれるんだ」
「……もちろん、無料でここにいる全員に公開するつもりだったさ」
「な、なんて男だ! 本来であれば破格の値段がつけられる貴重な情報をここにいる全員に教えるだって!? 損得では動かない、まるで古の勇者のような男じゃないかぁ!!???」
「ふ、困ったときはお互い様、俺達は血は繋がっていないからファミリーではない。でも、同じ冒険者として苦難を共にするファミリアだろ?」
「な、なんて熱い男なんだ!」
「他のみんなもよく聞いてくれ。あのダンジョンは……不思議のダンジョンだ」
不思議のダンジョン!? 全員がまずは首を傾げた。次の情報を出せと全員が固唾を飲んだ。ロリポップもちゃっかりメモをしているのでございます。
「入るたびに地形が変わるダンジョンのことを、不思議のダンジョン。と言うんだ。俺の故郷にはそれについての伝承が残っていてね」
「そ、そうなのか。君の故郷には」
「あぁ、ただ故郷については色々あってな。話すに話せなんだ。ただ、これだけは言える。鬱蒼森林にあるダンジョンは……未だかつてないほどのとんでもないダンジョンだ」
「な、んだと」
「おいおい。本当か?」
「適当なこと言ってるだけじゃないのか?」
「話を続けるぞ。六階層で魔王が現れた時いたが、正直そんなのは序章に過ぎない。ダンジョンにはまだまだ先がある。99階層までな」
「「「「99!?」」」」
「あぁ、しかも下に行けば行くほどに、敵も強くなり数も増える。魔王と言った存在が六階層に居たらしいが、そんなのは下っ端に過ぎないと言うことだ」
「あ、あれが下っ端。しかも他にもいると君は言うのか。な、なんと恐ろしいことだ」
「だが、対策はある。こっちからは手を出さないことだ。そうすれば、特にあっちからも手を出すことはない。あのダンジョンは攻撃をすれば攻撃で返す。不干渉なら、何もしてこないのだ」
「た、確かに僕達から攻撃をしかけダンジョンに入った。あの魔王は殺そうと思えば僕達を殺せたのに敢えて逃したようにすら思える」
「あくまでメッセンジャーとしての役割をお前達に託したんだろう。この恐怖を伝えて、ダンジョンに来させないようにな」
「……確かに筋は通る。なにやら長い眠りをしているような魔王でもあった気がするし……ただ、本当にあのまま放っておいてもいいのだろうか。相手は魔王だ。気が変わることもある」
「確かにな。その可能性もゼロじゃない。だが、ここで下手に刺激して今すぐに戦いになるよりは何もしない方が無難じゃないか? リスクを取るのが冒険者なのは知っているが、勇気と蛮行を履き違えたならば、それはもう、誇り高い冒険者がただのバカに成り下がる」
気づけばわたくしも勇者様の言葉に聞き入ってしまった。まるで、小説のかのようにすらすらよく言葉が出てくると正直感心をしております。(本日二度目の関心)
「わかった、君の言うとおり。暫くはあのダンジョンは放置とするようにSランク冒険者の僕からも他のものに語りかけよう」
「流石はSランク、聡明な判断で助かるよ」
「ふっ、君には負けるさ。ただ、なぜそんなことを君が知っているか、聞いてもいいかな?」
「……俺の故郷には様々な、数多の冒険譚が存在する」
「ほう?」
「それはもう膨大だ。何冊、数万、何百万、それらが存在していてな。その中にあのダンジョンを記す内容があったんだ」
「そうなのかい?」
「あぁ、あのダンジョンの奥にいるのは……言って終えば魔王すら調伏する恐ろしい存在だ。絶対に、絶対に、絶対に手は出さない方がいい」
「なるほど、数万冊、数百万ある書物ある故郷から出て来た君だ。聡明なのも納得がいく。常人では知り得ない情報を持っていることもね。よければまた話を聞かせてくれ。他にもどんな存在がいるのか、聞きたいところだ」
「あぁ」
「皆んな、取り敢えずはあのダンジョンには近よないことにしよう。瘴気が晴れて様々な場所が開放された、鬱蒼森林。しかし、僕達も時には慎重になる事が必要──」
──勇者様は話終わるとこっそり、裏から抜け出した。
「よっしゃ、ほかの冒険者をダンジョンから遠ざけることに成功したぜ。あぶね、下手に来られたりして本体倒されたら碌なことないよ。こっちは死ぬからね。危ない危ない。積極的に攻略とかマジで勘弁だわ」
「勇者様?」
「お、ルミィ、俺の用事終わったし。これから依頼見に行こうぜ」
「はい。先ほどの話は本当のことなのですよね?」
「あぁ。もちろん、本当だ」
このかた、嘘が得意なのだと知った。そして、わたくしと同じで良い性格をしていることを。そして、わたくしと同じように隠し事をしていることも
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