21話 球技大会

 じめじめとした湿気、気圧の変化による気だるさが続く梅雨は俺だけでなく、同級生のモチベーションも下げていた。

 HR直前、学級員の雫石さんと俺は職員室へと呼び出しを受け、職員室へ向かいながら話をしていた。


「このじめじめ……ほんと、どうにかして欲しい」

「こうも雨続きだと、気分的にもやる気なくなるよね」

「気圧の変化で私、頭痛くなったりするから迷惑極まりないよ」

「え……体調悪くなったらすぐに言ってよ」

「ふふ、今は大丈夫!ちゃんと薬も持ってるし。そんな表情かおしないでよ」


 職員室へ入ると、俺たちが来るのを待ちわびていた森口先生が駆け寄って来た。


「ちょっと遅くないかな?君たち若いんだから、もっときびきび動いてよね!」

「……すみませんでした」


 ――きっと、気圧の変化でダメージを受けているのは先生たちも同じなんだろうな……。


 俺はそう自分に言い聞かせ、森口先生の話を大人しく聞くことに専念した。


「ということなので、HRでは球技大会のメンバー決めをよろしくね。1グループあたり7人で5グループ作れると思うから!まぁ、きついだろうけど大丈夫でしょ」

「……はい」


 教室へ戻る道中、雫石さんはやけに静かだった。


「雫石さん、やっぱり体調が良くないんじゃ」

「えっ?……あぁ、違う違う」


 どこか思い詰めているような表情に、俺は心配になった。


「さっきよりもなんだかしんどそうだけど」

「これは……その……なんと言うか……あぁ!もう。観念して言うよ!……私、うんちなの」

「うんち?」

「運動音痴のこと!……もしかして別のこと思い浮かべたでしょ!」

「そ、そんなことないよ……ははは。運痴ね……なるほどね」


 ――やっべぇ……。始めは何言ってんのかわかんなかった……。けど、運動苦手なんだ……ちょっと意外だな。


「運動、あんまり苦手そうに見えないけど」

「そうでしょ。……見た目はできそう、だからイヤなんだよ。……勉強はできるのに、運動はできない。……それもね、球技全般が圧倒的に苦手なの!バレーボールとかバスケって、ボールが大きいでしょ。あんな大きなボールが勢いよく飛んでくるなんて信じらんない……。手に当たるとすっごく痛いじゃん!かといって、テニスとか野球は速くて見えないし」


 クプラニの話をするときと同じような熱量で話す雫石さんを、俺は驚きながらも嬉しく思っていた。

 距離が縮まるというか、仲が深まっているというか……。


 ――これはいい傾向なんだよな……。そう思いたい!


「それでそんなに暗かったんだ」

「……そう」

「まぁ、体育祭とは別で球技大会があるとは俺も思わなかったよ」

「よりにもよって種目がバレーボールだなんて」

「俺もバレーボールはちょっと苦手かな……腕が痛そう」

「神蔵……私、頑張れる気がしない」


 今まで見たことがないくらいにシュンとしている雫石さんに、俺の心臓の鼓動が速くなっていた。


「一緒に乗り切ろ!チーム対抗戦だし、試合数も少ないよ……きっと」

「……そうだね」


 教室へと戻った俺たちは、梅雨のせいなのか、乗り気ではない球技大会のことが憂鬱すぎたのかわからなかったが、いつも以上にテンション低めでHRの司会を始めたのだった。


 黒板に球技大会の種目を書き、7人1グループになるように同級生へ伝えた。


「バレーボールかぁ」

「俺、体育の授業でやったことしかないな」

「このクラス、バレー部っていたっけ?」

「1チームくらい強いチームにしたいよね」

「買っても負けてもどっちでもいいや。別に何かご褒美があるわけでもないだろうし」


 思い思いに話す同級生の意見を聞き、雫石さんとも話し合った結果、1チームはバレーボール経験者を集め、他はくじ引きで決めることにした。


「この球技大会を制すると、何か特典があるんですかぁ?」


 大八木くんが森口先生に問いかけると、呆れたように答えた。


「あるわけないでしょう……球技大会は大会を通して生徒同士のコミュニケーションを図って、お互いを理解しクラス・学年の絆や団結力を深めるためにするんだから」

「……はぁい」


 教科書的な答えに満足していないのか、大八木くんの素っ気ない態度にクラスでは大爆笑が起こった。

 

 こうして決まったチーム同士で作戦会議を行い、各チーム休み時間を利用して練習する日々が続いた。俺と雫石さんは違うチームとなったが、練習を繰り返すうちに少しずつ打ち解け、チーム一丸となり球技大会に備えることができていた。


 迎えた球技大会当日――。

 天気はあいにくの雨模様。相変わらずじめじめと湿気が多く、ものすごく蒸し暑かったが、それ以上に球技大会へ熱を注ぐチームが多く、なんとも言えない熱気が体育館には溢れていた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る