17話 勝負の行方
ゴールデンウイークが明け、迎えた中間試験当日――。
「お久~。今日のテスト、いけそう?」
「ゴールデンウイーク……遊びとバイト三昧だったツケがやばそう」
「最後にこれだけは押さえとくといいよ、ってのある?」
教室内ではゴールデンウイーク期間中にどのくらい勉強をしたのか、互いに探り合っている様子が伺えた。
「凛人!俺はこの休みの間に猛勉強したからな!凛人がバイトしてる時間ですら、俺は勉強して来たんや!絶対に負けへんでっ!」
「俺だって!」
バチバチバチ――。
大八木くんと俺は、互いに見えない火花を散らしていた。その様子を見ていた雫石さんの表情は、呆れて何も言えないような様子だったが、気にすることなくテストへの集中力を高めていた。
◇◆◇◆
中間試験を終え、1週間後――。
朝の朝礼後、俺たちは緊張しながら掲示板の前に来ていた。
「凛人……いよいよだな」
「そうだね……」
クラス別総合得点上位5名は校内掲示板に貼り出される、マル高の伝統行事――。
各クラスの担任が掲示板の前に立ち、教頭の合図とともに順位の記載された紙が張り出された。
【1-2】1位 雫石彩菜 497点
2位 立花薫 452点
3位 神蔵凛人 451点
4位 町田尚人 442点
5位 中山菜穂 439点
「俺の名前がないっ!!!」
掲示後、すぐさま大きな声を出したのは大八木くんだった。
「ああぁぁっ!くそっ!今回ばかしはイケてると思ったんだけどなぁ」
「……どんまい」
俺が隣にいた大八木くんの肩をポン、と軽く叩くと――。
「あん?」
ガラの悪いどこぞのヤンキーが絡んでくるシーンみたく、大八木くんは俺をうっすら細目で見てきた。
「凛人くんは3位に名前がありますねぇ……すごいですねぇ。だけどねぇ、上には上がいますからねぇ」
――なんだろ……このうざったい絡みは……。
少しだけ……ほんの少しだけ、イラっ、とした俺だったが、大八木くんが言うことには一理あった。堂々の1位に輝いていたのは、雫石さん。それも、2位との差がかなり開いていた。
「くそぉ……次こそはぜってぇ凛人よりもいい点数取っからな!」
「えぇ……これで終わりじゃないの?」
「終わるわけないじゃん!……ふんっ。俺、先に教室戻るわ!」
勝負に負け、悔しいという表情ではなかったものの、大八木くんの後ろ姿からは悔しさが十分に漏れ出ているように見えた。
掲示板の前では、順位を見ながらクラスメイトたちがしばらく話し込んでいた。その中でも、雫石さんに関することだけが俺の耳に入ってきた。
「雫石さんって、頭良いんだ……」
「ほぼ満点って感じじゃん」
「まさに才色兼備っ!」
「ほんまそれ!」
「はぁ……高嶺の花だよなぁ……手が届かないわ」
「わかる~」
――これでまた更に、雫石さんのモテ度が上がったんじゃないかな……。すごいな……。綺麗な上に頭もいいなんて……。今更だけど、俺と仲良くしてもらってていいのかな……。
「神蔵、やるじゃん」
ふと隣から聞こえてきたのは雫石さんの声だった。
「うわぁっ!……びっくりしたぁ」
「そんなに驚くこと?」
雫石さんは、首をかしげながら俺の顔を覗きこんだ。その表情――なんとも言えない可愛さがあった。
――それ反則ですけどぉ!
ドキドキと脈打つ鼓動を落ち着かせるように息を整え、俺は雫石さんと並んで掲示板を見ていた。
「雫石さんはすごいよ」
「……私は何にもすごくないよ」
「そうかなぁ……俺からすると、十分過ぎるくらいすごいよ。もともとマル高自体レベルが高い学校なのに、その中でもクラスの1位にいるなんてすごいし、憧れるよ」
「……マジで大袈裟」
いつもよりも小声だったため気になりふと隣を見ると、耳から頬にかけて赤みを帯び、照れくさそうに俯く雫石さんの姿があった。
――待て待て待て……。照れてる表情……可愛すぎでしょ……。さっき落ち着いた心臓がまたうるさくなってきてるんですけど……?
「ちょっ、あんま見ないで!ほらっ、教室戻ろ!」
「そ……そうだね。……戻らないと、ね」
雫石さんと俺は、2人で並んで教室へ戻ることにした。
教室へ戻り、全員着席していることを確認した担任からまとめて答案用紙が返却された。
――各教科ごとに返却じゃないなんて……珍しいな。
全員分の答案用紙を返却し終えた担任は、俺たちに向かって次に予定されている試験に関する話を始めた。
「みんな~、中間試験お疲れ様。試験が終わって一安心しているところでこんな話はどうかと思うんだけど、次……10月には期末試験があるからね。気を抜かないように!」
「もう期末の話かよ……。10月てまだ先じゃん」
「先生ぇ、気が早いよ」
「早く言わないと、あなたたち危機感を感じないでしょ!」
「うぅぅ……」
期末試験も中間試験同様、上位5名は掲示板に貼り出される。つまりは、中間試験で掲示された5名が他の生徒と入れ替わる可能性も無きにしも非ず、というわけだ。
「なんか、クプラニの育成みたいだね」
ぼそりと雫石さんが呟いた。
「確かに……。先生も、みんなのお尻に火を点けるのがうまいわ」
「んね」
こうして次の試験に向けての授業が始まり 、水面下では『学力』というスキルを上げるためのトレーニングが始まったのだった。
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