推し ≠ 恋
虎娘ฅ^•ﻌ•^ฅ
1話 春の訪れ、恋♡の予感っ!?
春――、出会いと別れの切ない季節、と言われるが、俺は四季の中で1番好きな季節だ。
吹く風が暖かく、草花が生い茂る季節――、それこそが春。
もともと交友関係も狭く、仲の良い友人と呼べる人数は指の数ほど。
――今日から始まる春アニメ、始まるまでにシーズン1を見返さないとっ……。そういえば、あのアプリゲーム……昼頃にイベントが始まるっけなぁ。今日の昼休みは忙しくなりそうだ。
「早く食べなさい!」
キッチンで弁当箱におかずを詰め込んでいた父の声が、今日の過ごし方について脳内シミュレーションをしていた俺を現実世界へと引き戻した。
「今日から高校生なんだろ、しっかりしなさい」
「はぁい」
「電車の時間は大丈夫なのか?」
「うん」
「後から父さんも母さんと一緒に行くからな」
俺たちに微笑みかける母の姿は、動くことがない写真として納められている。母は昨年の夏、黄泉の国へと旅立った。
「母さん、お前の制服姿見たかっただろうな」
「そうかなぁ?父さんも母さんと同じ高校だったんだから、見なくてもいいようなもんでしょ」
両親は同じ高校で知り合い、長い交際を経て結婚したと散々聞かされていた。「ビバ青春!お前も父さんたちみたいに大恋愛をするんだぞ」そんな事を楽しそうに話していたなぁ、と思い出しながらお茶碗に入っていたごはんを口の中いっぱいにかきこみ、もぐもぐしながら父の話を聞いていた。
「自分たちが着ていた制服姿と、息子が着ている制服姿では違うんだぞ!思い入れも違うしな……何より、私が通学していた頃とは頭のレベルが格段に違う」
俺がこの春から通学する高校は、京都では進学校として名が通っている堀丸高等学校、通称マル高だ。
「けどさ、俺が通う普通科は他の学校とも変わんないんじゃないの?」
「普通科でも他とは違うぞ!お前は他の高校のこと調べてないからそんなことが言えるんだ」
「ほへぇ~」
食卓テーブルに置いていたスマホを手にとり、高校に関することを検索してみると、父が言った通りのことが書かれていた。
「ほんまや……」
「ほらほら、ちんたらしてんと急ぎや」
「はぁい。ごちそーさまでした」
身支度を済ませ、俺は家を後にした。
家を出て10分ほど歩き駅の改札を通る。
ピッ――。
――見た目よし、機能性も言う事ないわ!ICカード入れだけでも種類が多くてさんざん悩んだけど、限定デザインって書かれてると買っちゃうよなぁ。
ワイヤレスイヤホンから聴こえてくるお気に入りのアニソンでテンションを上げつつ、下車駅が近づくにつれ込み上げて来る緊張を俺は和らげようとしていた。
――新しい環境……馴染めるといいけどなぁ。
車内アナウンスが下車駅を知らせ、俺は人込みをかき分けながら扉の外へと向かった。同じ制服姿の学生がちらほらと見え、先輩なのか同級生なのかを考えながら歩いていた。
ぽトンッ――。
俺の足元に、見た事のあるマークが施された黄緑色のICカード入れが落ちていた。
――このICカード入れ……俺が推しているアニメアイドルメンバーをモチーフにしたものなのではっ?!
反射的に落ちていたカード入れを拾い、勇気を振り絞り目の前を歩いていた女の子に声を掛けた。
「あの……落としましたよ」
「ふぇっ?!」
アイメイクがばっちり施されたぱっちり二重の目がより一段とまるくなり、まっすぐ俺を見つめる姿に俺は思わずドキリとした。
――目、おっきい……。って、あんましジロジロ見たら失礼だろっ!
「これ……今落とされました」
手にしたICカード入れと、目の前にいる女の子を交互に見つめた俺――。どうしていいかわからずしばらくその場で固まってしまった。
「あぁっ!それ、あたしの定期入れ!ご親切にありがとうございますっ」
カード入れを受け取った女の子は、ぺこりとお辞儀をしたかと思うと足早に去ってしまった。
――何かまずいことでもしたかなぁ……それにしても、キレイだったなぁ。同じ高校生とは思えない……ちょっと短めのスカートから見える生足……って一体俺は何を考えているんだ!
邪な気持ちを抑え込み、俺は高校へと向かうため再び歩き出した。
◇◆◇◆
ついさっきICカード入れを拾ってくれた男の子のことを思い出し、恥ずかしくなった私はその場から逃げるように早歩きで学校へと向かっていた。
――さっき、「これ……今落とされました」って言いながら、拾ったものをまじまじと見ていたよねぇ。待って待って……そんなにまじまじと見ないでよぉ!!……バレてないよね。一見わかんないもんね……。わかんないデザインのを選んだんだから大丈夫だよね。
私は心の中で叫びたい気持ちを抱えながらも、礼儀は忘れてはいけないと思い取り繕った笑顔でお礼を言った……。その場を無難にやり過ごした感でいっぱいだったが、冷静になりふと先ほどの出来事を思い返してみた。
――同じ制服だった?!いやいやいや……だからといって同学年ってことはない……はず。1学年6クラスもあるんだし、一緒になるわけないっしょ。うんうん……。
無理くり納得させ冷静な表情は変えず、私は見えて来たマル高に向け歩みを進めた。
◇◆◇◆
道なりに歩いていくと目の前にようやくマル高が見えてきた。
数年前の改装工事以降、教育方針が大幅に見直されたマル高は、多くの卒業生を国立大学へと排出するまでに成長。その噂は瞬く間に広がり、今では人気高校ランキングの上位を維持している。
1クラス35人×6クラス設けられているが、4クラスは特別進学クラスに分類され、国公立大学を目指す頭脳明晰な猛者たちが集うところとなっている。
そのマル高で俺が入学したのは普通科Ⅱ類。
国公立を目指すこともできるが、希望するほとんどの生徒がマル高Ⅱ類を選ぶ理由としては、有名大学の指定校推薦を狙うため――とネットに載っていた。残りの1クラスは地元選抜で選ばれた人たちが占めるらしい。
俺自身、高校はどこでも良いと思っていたが、目指すべき目標ができてからはマル高に入学することだけを目標に必死に勉強してきた。何よりも優先していた
――あの頃が過去イチ勉強してかもなぁ。時間を見つけてはゲームをしていた俺が、マル高に行くって言いだしたときのおとんの顔はなんとも言えん感じやったなぁ。
思い出し笑いをしそうだった俺は、慌てて我に返った。
校内へと歩みを進め、予め用意されていたゴム製の上履き(どっからどう見てもトイレスリッパ)に履き替えた後、階段で3階まで上がった。
【1-2】、と書かれた教室にはすでに半数近くの生徒が登校していた。
黒板には『出席番号を確認し着席してください』と書かれていたため、教壇に置かれていた用紙を確認した。
――よしっ!窓際のいっちばん後ろだ!
浮足立って俺は自分の席へと向かった。荷物を机の上に置き、ほっと一安心したまま椅子に腰掛けた。ふと周りのことが気になり、隣の席に目を向けると同じタイミングで俺の方を見た人とばっちり目が合った。
「……えっ!?」
「……あっ!?」
同じタイミングで声が重なり、しばらくすると俺の中で脈打つ鼓動がだんだんと加速し始めたことに気づいた。
――朝の
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