第20話 何かが始まるホワイトデー 2/5
ホワイトデー当日。
父さんは朝の時点では千恵に何かを渡している場面は見られなかった。
ということは、夜だよな?忘れてる訳じゃないよな?
これで忘れてたら、また千恵の機嫌損ねるぞ?
なんていう心配をしつつ、俺は家を出た。珍しく千恵は俺よりだいぶ早く出て行ったらしい。
やっぱりホワイトデーだからか?
本命の彼と待ち合わせでもしているのか?
父さんの心配もしなければならなかったし、千恵の事も気にはなったけど、俺は俺で自分の心配もしなければならない。
何故なら、今日の俺にはミッションがあるからだ。
バレンタインをくれた女子みんなに、ホワイトデーのお返しをするというミッションだ。
それ自体は毎年のミッションでもあるからそれほど気負う事でもなかったけれども、さすがにもう子供という年でもないし。
感謝と共にサラッと渡すという行為自体、結構ハードルが上がっている気もする。
まぁ、こればっかりは、受け取った側の気持ちに掛かってしまうのだけど。
でもきっと、普通に渡せば大丈夫なはずだ。
だいたい、みんな義理だしな。
そんな事を思っていると、いつも通り途中の十字路で光希が横の道から現れた。
「よっ、輝良、おはよっ」
「おう、おはよ」
そしてそのまま並んで歩き出す。
ん?
何かが足りない気がして、思わず後ろを振り返る。
だけどそこに、明恵の姿は無かった。
あれ?今日は明恵、いないのか……
毎朝驚かされているクセに、いなきゃいないでちょっと寂しくなる。
なんてことは、明恵には口が裂けても言えない話だ。
光希は鞄の他に小さめの紙袋を手に持っていた。きっとその中に、ホワイトデーのお返しが入っているのだろう。
「あ、そうだ。これ、千恵ちゃんに渡しといて」
そう言って光希は、紙袋から小さな包みをひとつ取り出した。
「美味しかったよ、ありがとう!って、絶対千恵ちゃんに伝えてくれよな」
「分かったよ」
「絶対千恵ちゃんに渡してくれよ?自分で食ったりすんなよ?」
「しねぇよっ!」
「俺からだって、伝えてくれよ?」
「うるさいなもうっ!分かったよ!」
しつこい光希から包みをひったくって、エコバッグの中に入れる。めんどくさいから、千恵にはエコバッグごと渡せばいいや。ほんと光希、千恵のことになるとめんどくさい。
「毎度賑やかなことだな」
後ろから声が聞こえた。振り返らなくても分かる、この声は幸成だ。
「だって光希が」
「俺だけじゃないだろー!」
「あぁもううるさい」
呆れたようにため息を吐く幸成だったが、ふと周りを見渡してから俺に言った。
「あれ?今日田内は一緒じゃないのか?」
「別に俺、明恵といつも一緒な訳じゃないぞ?」
実は俺も気になってた、なんて事、言えるわけが無い。
「それはそうだが、ほとんど一緒だろ」
「まぁそうだけど」
「めずらしいよな、俺もさっき田内がいないか探しちゃったんだよ、実は」
「まぁそうなるだろうな」
幸成と光希が、何故か心配そうに俺を見る。
「「お前、田内になんかしたのか?」」
だーっ!だから何故そうなるんだっ!
「知るかっ!」
イラッとして2人を置いて先に行こうとしたのだが、一瞬早く幸成に捕まった。
「まぁ待て、輝良。これ、千恵ちゃんに渡してくれ」
見れば、幸成も鞄の他に小さめの紙袋を持っている。やはり、中身はホワイトデーのお返しだろう。
「分かった。なぁ、幸成」
幸成から小さな包みを受け取りながら、俺は幸成がバレンタインに先輩にチョコを渡したということを思い出した。
「今日、貰えるといいな、ホワイトデー」
「……そうだな」
珍しく、幸成の笑顔が弱々しく感じられた。いつだって幸成は、自信に溢れているように見えるのに。
「応援してるぞ、幸成」
光希も同じように感じたのか、殊更明るい声を出して幸成の背中をバシッと叩く。
「お前の応援じゃ効き目はなさそうだけど、有難く受け取っておく」
「なんだよそれっ!」
「だからうるさいって」
そう言って顔を顰める幸成は、もういつもの幸成の顔。
「俺も応援してるぞ、幸成」
「お前はまず自分の心配をしろ」
「は?俺の?なにを?」
幸成の言葉に、俺は思わず立ち止まって首を傾げた。
俺の心配って、なんだ?
そんな俺を、幸成は呆れたように見ると、そのまま俺を置いて行ってしまう。
光希も、幸成と同じように呆れ顔で俺を見て、そのまま幸成を追いかけるようにして行ってしまった。
「なっ……ちょっ、待てって2人ともっ!」
慌てて俺も2人を追いかける。
ていうか、なんだよ、俺の心配って!
そんな顔してないで、教えてくれよっ!
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