学園の精霊さまは恋を知る。
ろくねこ
精霊さまと最悪な出会い
「危ない!!」
「!!!」
雨が降っているある日の放課後。
俺は傘もささずに交差点の赤い信号を渡ろうとしていた少女の手を引いた。
俺の体と比べるとひと回り程小さい体を抱えて、俺は後ろに倒れた。
俺が少し体を起こすと、少女は何も話さないまま地面に座り込んでいる。
「いったた…大丈夫か?」
「…は、はい。大丈夫です。助けて下さりありがとうございます」
少女は俺に体を預けたままなかなか起き上がろうとしなかった。
ようやく起き上がったと思った時、重たい青藤色の前髪から覗く空色の瞳から一滴の雫がこぼれ落ちた。
+ + +
「紅茶でいいか?」
「はい、ありがとうございます…」
俺は少女を連れて近くの自販機前で雨宿りをしている。
というのもこの少女は俺も全く知らない人という訳ではなく少し知っている人物だからだ。
「涼風(すずかぜ) 凛(りん)」
うちの学園で圧倒的人気を誇る美少女だ。
人並み外れた美しい美貌から「精霊さま」と呼ばれている。
現に彼女に惚れた男の数は数え切れない、学園の半数の男子に告白されていると噂になるほどである。
「涼風、なんであんなことをしたんだ?」
「…分かりません。私も何が何だか自分でも理解が出来ずに行動していました…」
少女は少し言葉が詰まりながらも俺の質問にしっかりと返答していた。
「さっき泣いていたのも理由の一つか?」
「ええ…恐らく同じ理由だと思います」
「…その理由は教えて貰えるか?」
「……」
少女は俺の問いに対して無言になって俯いてしまった。
彼女にとってこの質問の答えが引き金になっているようだ。
「もちろん言いづらいことだったら言わなくてもいいさ、ごめんな無理に聞いてしまって」
「い、いえ!そんな無理なんてことは!!…無いのですが…」
やはりこの話にだけは感情的になってしまっている。
よっぽどの理由が無いとここまでわかりやすい拒絶反応は起こさないはずだ。
「…その、少し考え込んでしまって…それだけです。なので…」
「そんなに絞り出さなくてもいいよ。俺は君を追い詰めたい訳でも君を貶したい訳でもない。単純に心配なだけなんだ」
「…そうですか。」
俺の言葉を深く受け止めながらもどこか自分の中で壁を1枚作っている様だ。
「それじゃあひとまず家まで送るよ。涼風ここから家までは遠い?」
「いえ、ここから東に歩いて5分程です」
「それじゃあ俺の家と近いね」
俺は少女の鞄と自分の鞄を肩にかけて歩き始めた。
+ + +
「まじか…」
俺は少女の帰る先を見て驚愕した。
まさか彼女の家が俺の家と同じマンションだったからだ。
しかも部屋は3部屋離れているだけ。
「…驚きました。こんなに身近だったら朝の時にばったり会ってそうなのに…」
「奇跡的に噛み合って1度も顔を合わせなかった…ということか?」
「つまりはそういうことでしょうね」
学園で1番の美少女が俺と同じマンションに住んでいるという状態は、他の男子生徒にとっては大喜び以外の何者でもないようなものだが、俺は涼風に想いを寄せている訳では無い為別に歓喜はしなかった。
「それじゃあ涼風、しっかりお風呂はいって温まってから寝るんだぞ。じゃあな」
「ありがとうございます」
涼風は丁寧にお辞儀をして家の中に入っていった。
+ + +
午後5時頃
普段ならテレビの音以外は基本静寂に包まれている部屋の中にチャイムの音が鳴り響いた。
部屋に備え付けてあるインターホンの画面を見るとそこには涼風が立っていた。
俺はそれを見るなり慌てて家玄関に行き扉を開けた。
「す、涼風。どうしたの?何かあった?」
「いえ、こちら助けていただいたお礼にと思って」
涼風から手渡された紙袋の中には保存食やカップ麺などが入っていた。
「そんな、別にお礼なんてしてもらうような大層なことはしてないよ」
「これは私からの感謝の気持ちです。月城くんのその謙虚さはとても素晴らしいと思いますがこれは受け取って頂いた方が嬉しいです。私は基本料理をするのでこちらのものは食べませんので」
「そうか。それじゃあありがたく貰おうかな」
どことなく涼風に言葉で乗せられた気がするが、俺としても貰えるものなら貰いたいものなので深く考えないことにしよう。
「それじゃあ私はこれくらいで失礼しますね」
「ああ、ありがとうな。おやすみ」
「おやすみなさい」
涼風はそれだけ言って扉の前から自分の家の方に向かって歩いて行った。
俺は扉から身を乗り出して涼風を呼んだ。
「涼風」
「はい、どうかしましたか?」
涼風は俺の声に反応して青藤色の長い髪のなびかせながら振り向いた。
「もし、今回みたいな状況になりそうなら俺に相談してくれ。俺以外の友人とかでも構わない。とりあえず自分ひとりで抱え込むな」
「…月城さん私をそんなに心配してくださるのですね」
涼風は俺の心配心がまるで嬉しいかの様にニコッと笑ってみせた。
その笑顔を見て俺は一瞬ドキッとしたがこれは決して恋心などというものでは無い。
ただ愛想笑いのように笑う普段と違う一面を見てびっくりしたというだけの事だ。
俺は心の中でそう否定しながら歩いて行く涼風の背中を見送り家の重たい扉を閉めた。
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