美しい月と、残酷な世界。

ひょうすい

First,A ray of light shines on the earth

Part,1 A sudden encounter



 ーーあの頃は美しい月だった。けど、世界は私の思う以上に残酷だったーー



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 「どういうつもりだ!!」


 「もうこんなところいてられるわけないでしょ!? うんざりしてるの!!」



 彼女に叱責するのは父だろうか。だが、彼女はそれに屈するわけでもなく、対抗してその場を去ろうとする。手には1本の剣があり、父と思われる者はそれを取ろうと走り始めた。



 「待てッ!!」



 父の声は遠くなっていき、やがて聞こえなくなった。彼女は肩で息をしており、かなり疲れた模様だった。だが、彼女の碧眼はまだまだ光に満ち溢れており、金髪の髪から覗かせるその碧眼は命の惑星、地球を見ていた。



 「……いないな」



 周りを見渡すと、周りには誰もいない。気配もない。せいぜい感じるのはかなり遠くにいる父と思われる者の存在だろう。彼女はしゃがみ、地面を蹴る。それは、上に見える近そうで遠い、地球に向けて。



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 未来暦1395年、4月3日、午後10時35分。1人の男は夜道を歩いていた。その者の名は六波羅ろくはら 光斬れいさ。180cmの長身であり、目にかかるくらいの黒髪ストレートヘアーである。その髪から覗かせる、淀みきって何も映らない漆黒の瞳は、彼のトレードマークでもあった。

 用があったのか、光斬は人気の少ない路地を歩いていた。警戒することもなく、ただただノリノリで歩いていた。その理由は、好きな歌の鼻歌を奏でていたからだった。



 「楽しそうだなぁ、テメェ」



 正面から声が聞こえる。光斬はふと正面を見ると、そこには数人のヤンキー。道を断ち切るかのように横一列に並ぶヤンキーを相手に、彼は対応する羽目になった。



 「はい。これ好きな曲の鼻歌なんですけど、聞きます?」


 「いらんわ。なんか幸せそうだからよぉ、殴らねぇと気分が済まんのだわ」



 これが理不尽というものである。更に、ヤンキーらは理不尽な言葉を光斬に浴びせた。集団による圧をかけながら、自分達の奴隷のように扱うかのように。



 「殴らせろや」



 ヤンキーらは戦闘態勢に入る。だが、光斬は戦闘態勢に入らなかった。その現状を見て、ヤンキーらは彼を煽り始める。



 「おい、ビビってんのか?」


 「だっせぇ」



 笑い声を上げて光斬に近寄るヤンキーらだったが、彼の見ている者はヤンキーらではなかった。その時、彼は気づいたのだ。ヤンキーらの後ろに徐々に近づく翼を生やした体毛がとても生えている男。明らかにヤンキーらとは違ったオーラを持った、明確な殺意を持って近づく、まるで体験したことのある、あの地獄のよう。



 (待て待て待て待て。なんだこいつ……。背中から翼生やして飛んでやがる……。……てかなんでこいつら気づいてねぇんだよ!! 死ぬぞ!?)


 「ちょっとゴメンだねェ!!」



 光斬は声を荒げ、その状況から走って逃げた。その状況についてよく理解していなかったヤンキーらは、自身に向けて言ったものだと理解し、彼を追いかけ始めた。だが、追いかけたヤンキーらの顔は横一閃。綺麗に斬られた。



 「自惚れるなよ雑魚め。さて、次はあいつだな」



 走って逃げる光斬。それを追いかける謎の男。曲がり角を使って上手く逃げ回る彼だが、それを良しとしないのか、逃げ回っているのが一目で見えるように男は飛んだ。

 光斬はそれを見る。驚いたような顔をして、一言。



 「それはダメだろうがぁ!!」



 男は腕を上げ、振り下ろそうとしている。そのモーションが「やばい」と感じた光斬は、近くの2車線の道まで一目散に走った。



 「遅いな」



 男は光斬に近づきながら腕を振り下ろす。腕を振り下ろすと同時に衝撃波が発生し、彼はそれを横に躱す事で間一髪で避けることができた。当たった部分のコンクリートは抉れ、形が変形していた。それを見た彼は、ただひたすらに逃げることを選択した。



 「遅いと言っているだろう!!」



 男は光斬の目の前に現れ、顔面を殴りながら体を捻って壁に叩きつける。コンクリートの壁にはヒビが入り、もろに頭からコンクリートに激突したため、彼の意識は朦朧としていた。



 (俺、死ぬのか……? 親父とお袋のために……、こんなところじゃ絶対に死ねないのに……)



 ぼやけた視界に映るのは、殴ってきた男。見えづらいが、右手で拳を作っている。どうやら頭を粉砕するようだ。光斬は体を動かして回避しようとするが、体が動かない。光斬の死期は近づいていた。

 その時、朦朧とした意識でも、耳から鮮烈な音が入ってきた。スパンと鳴ると同時に風圧を感じたが、男の出した豪快な風圧ではなく、綺麗で洗礼された風圧。



 (何が……、起こった……?)



 男の体は綺麗に真っ二つとなっており、ぼんやりとだが体が消滅しているのがわかる。真っ二つとなって少し斜めになっている体の間から、1人の女が近づいてきた。金髪ロングヘアーで碧眼の、165cm程のスタイル抜群美人だった。



 (朦朧としててもわかる……。おっぱいでけぇ……)



 光斬は変態である。

 壁にもたれかかっている状態の光斬の体に、その美人は乗った。胴体を優しく片腕で包み込み、顔をそのでかい胸に押し当てる。すると、朦朧とした意識が回復し、痛みが全て消え去っていた。



 (これはいったい、何がどうなってんだよ……)



 美人は立ち上がると、「よいしょ」と言いながら光斬の横に座る。彼の目を見て、何事もなかったかのように質問をする。



 「君、名前は?」


 「六波羅 光斬です」



 光斬は即答した。彼は何故名前を聞かれたのかわからなかったが、何となくで名前を言っていた。今の彼の心の中で思っていることは4つ。1つ目は「何故名前を聞くのか」。2つ目は「この人は誰なのか」。3つ目は「襲ってきていた男を知っているのか」。4つ目は「おっぱいでけぇ」である。その中から、彼は冷静に処理して質問を出した。



 「あなたの名前はなんなんですか?」



 彼女は少し動揺したようだった。聞かれないとでも思ったのか。謎に息を飲んだ彼女は、1度咳払いをして気持ちをリセットしていた。



 「私はネセント・セラス。詳しいことは言えないんだけど、ひとつ聞いてもいい?」


 「え? あ、うん」


 「……泊まるところって、ある?」



 ネセント・セラス。彼女は家がなかった。


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