第17話

 若林さんがボールを持ってペナルティースポットへ歩み始めた。


 桜井は味方の軽率なプレーにむかついて声を荒げた。何であそこで飛び込む必要があるんだ。


 挙句の果てにイエローカードを再びもらって退場とは。主審に抗議していた武田は副審や相手選手になだめられながらピッチの外に連れられていっている。


 アルケミストのベンチでは監督、コーチが集まって話している。おそらく、代わりのセンターバックを入れる相談をしているに違いない。


 方針が決まるまでなんとか時間を稼がないと。


「冷静になれ、冷静になれ」


 こういう時こそゴールキーパーは冷静にならないといけない。


 桜井は先ほど接触した箇所が痛いふりをして再びピッチに倒れてメディカルスタッフを呼ぶように要求した。


 それを見た主審はアルケミストのメディカルスタッフがピッチに入るのを許可した。


 ドクターがこちらに向かっている間にベンチでは交代で入る予定のセンターバックがユニフォームに着替えて監督から指示を受けていた。


 桜井の治療の間に、他の選手にもフォーメーションの変更が伝えられ、チーム全体に情報は共有された。だます感じでメディカルスタッフを呼んでしまったが、これも戦略の一つだ。


 ドクターから2、3質問を受けて、テーピングを巻き直すと桜井はゆっくりと立ち上がりゴールへの歩き出した。


 その間に、若林さんのPKに関する情報を必死に思い出す。たしか、左側に蹴りやすいとのデータがあったような気がする。


 ゴールまで来ると若林さんが不敵な笑みを浮かべて眼の前に立っていた。

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