第7話

 開幕戦に勝利した西東京アルケミストFCは続いて2戦目も勝利して好調なスタートを切った。しかし、その後、3戦目から連敗を喫し2勝2敗の五分となった。


 連敗によってチームの雰囲気はあまり良くない。このタイミングで、これまで先発していた野沢がU21アジアカップの代表候補に選出されたためチームから離脱した。


 リーグ戦の第5節は同じ東京をホームタウンとしている府中が相手だ。西東京と府中は距離的に近いこともあり、ライバル視しているサポーターも少なくない。


 アルケミストは野沢の不在により空席となったゴールキーパーには大型の予想通り川田さんを先発で起用し、桜井は第二ゴールキーパーとして初のベンチ入りを果たした。


 地理的に近いこともあり、アウェイの府中にも関わらず西東京のサポーターが多く駆けつけてくれている。


 桜井は初めての公式戦ベンチ入りに胸が高まっていた。第二ゴールキーパーのため、自分が出る可能性はほぼないが自然と足が震えてくる。


 練習ではパンチングやキャッチングの練習を先発の川田さんと行うが、あまりの緊張によりボールをうまく扱えない。


 コーチが蹴ったシュートをキャッチしてコーチに戻すのだが、明後日の方向に投げ返してしまった。それを見たサポーターからは「緊張するな!」などの優しい声援がかけられたが、一緒に練習している川田からはスムーズに練習メニューが進まないため、後ろから舌打ちされた。普段は温厚な川田さんからは、試合モードになると近寄りがたいオーラを感じる。


 あたふたしながら、なんとか練習は終了してロッカールームへ引き上げた。ロッカールームでは監督がスタメン選手に対してボードを使って戦術の最終確認を始めた。


 古賀監督は選手ごとに細かい戦術を授けることで有名な人であるためミーティング中に伝えられる情報量はとても多い。


 緊張によりほとんど頭に入らなかったが、それを見透かした方のように「おい!桜井は聞いてるのか!?」と注意を受けた。


 ミーティングが終わり、ピッチへの移動時間となった。ベンチ入りだけど、俺のN3デビュー戦が始まる。

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