第三ゴールキーパー
樹原尚
第1話
桜井健一。大学卒業後に一般企業に就職したが馴染めずに2年で退社。その後は知り合いのつてでサッカースクールのコーチのアルバイトで生計を立てていた自分にある日、思いがけない依頼があった。
依頼主は大学サッカー部の先輩である布施さん。日本サッカーのプロリーグであるN3に所属しているチームのスタッフをしている人だ。
待ち合わせのコーヒーショップで会うやいなや、「第三ゴールキーパーとしてうちに来てくれ」と頭を下げられた。
第三ゴールキーパーとは文字通り、チームの三番目のゴールキーパーのことである。通常、ゴールキーパーは固定されるためサブである二番目のゴールキーパーですら出番はほとんどない。ましてや、三番目となると試合に出れる可能性は皆無でほぼ練習パートナーの位置づけになってしまう。
布施さんによると、これまで契約していた第三ゴールキーパーが怪我で今季絶望になったので代役を探しているとのことだった。そして、財政難のチームのためまともな給料が出せないため人が集まらない。そこで白羽の矢が立ったのが俺だった。
「桜井はバイト生活だから融通効くだろ」というのが選ばれた理由らしい。
もともとプロになりたくて大学までサッカーをやったが、これ以上のレベルでは無理だと思って就職した桜井にとっては複雑な心境だ。
人数合わせで呼ばれたのは分かっているが、憧れていたプロの世界に入れることに気持ちが上ずっている。
布施さんこら聞いた契約内容はこんな感じだ。
・第三ゴールキーパーとして契約(試合に出れる可能性は限りなく低い)
・アマチュア契約のため給料は出ない
・住む場所は選手寮に住めるので家賃は発生しない。光熱費として一定料金が徴収される
・月額3万円必要だが、選手寮のため栄養管理士の資格を持つ寮母さんが朝昼晩の食事を用意してくれる
サッカー選手の契約としては底辺も底辺で最下層の内容。契約自体はアマチュアなのでプロでもない。
しかし、プロ選手と一緒にサッカーが出来る環境に身を置くことが出来る。やるべきなのか、それとも断るべきなのか。
桜井の決断は契約だった。ここに限りなく試合に出れる可能性が少ないゴールキーパーが生まれた。
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