生と死と

残虐な描写が含まれます

苦手な人はご遠慮ください


過激な発言もあるかも知れません

ご注意ください

──────────────


君は死を感じたことはあるか?


生と死は


隣り合わせだ


死を感じる時


同時に


生を感じる


死に一番近い時


最も生に近いと言えるだろう



小さい頃


お祖父ちゃんが


家で飼っていた


チャボをご馳走様してくれる


と言った


そして


お前も手伝え


と言われた


僕はひとつ頷いて


手伝うことになった



お祖父ちゃんは


鶏小屋から


暴れるチャボを捕まえて


逆さまにした


逆さまにされたチャボは


すぐに大人しくなる


大人しくなったチャボを


家の前を流れる小川まで


持って行った



チャボの首を跳ねた


断末魔も何も無い


脚を棒に括り付けて


ぶら下げた


頭がなくなった首から


ボトボトと血が流れ


小川に落ちて


川面を一瞬赤く染めて


やがて綺麗なせせらぎとなった



血が流れ落ちなくなるのを


見届けると


棒から取り外して


羽根を毟った


まだほんのり温かい


羽根は根本で皮膚と繋がり


毟ろうとすると


皮が引っ張られて


やがてぶつりと抜ける


少しお湯に漬けると


皮膚が柔らかくなり


抜けやすくなる


綺麗に毟り終えると


カミソリで産毛を剃って


残った毛は


かるく炙って焼いた


人間の頭髪が燃える匂いも臭いが


鶏も変わらない


臭い



羽根が綺麗にとれると


まさに鳥肌がそこにあった


お祖父ちゃんが


まな板に鶏を乗せて


お腹を裂いた


中から綺麗な内蔵が現れて


それを丁寧に取り出していく


心臓


レバー


丸肝(脾臓)


背肝(腎臓)


砂ずり


玉紐


内蔵以外にも


鶏冠


足(もみじ)


それ以外は


棄てた


砂肝は二つに割って


餌混じりの砂を取り出す


臭い



胴体は


長い首を落とし


ヒップを落とし


鶏を真ん中で二つに割って


大腿骨の付け根から


足を切り取って


手羽の付け根から


手羽を切り取って



首皮


ネック


せせり


ボンジリ


部位を分けながら


解体していく



しかし


部位毎に分かれると


スーパーで売られている


パックの商品と


何ら変わらない


違うのは


良い香りがした


ひとつも酸化していないからだ


さっきまで生きていた


証拠だ



僕は玉紐を見た


大きなキンカンと呼ばれる


卵の黄身の周りに


小さな白い玉が


無数についていた


命の集合体だ


スーパーで若い女性が


気持ち悪いと


言っていた


こんなにも


美しいのにな


肉もスーパーの肉のように


くすんでいない


鮮やかな


ピンク色


脂も白くない


綺麗な濃い黄色


内蔵だって


どれも艷やかで


美しい



スーパーでは


肉も


魚も


切り身で売られていて


一から捌くことなんて


殆どないし


そこに命なんて感じない


全部死骸だ


残骸だ


命の残骸


何より


冷たい


チャボは


スーパーの肉より


圧倒的に


美味しかった



ただ


落とされた首は


こちらを向いて


恨めしい顔をしていた


僕はそれを忘れない



生きると言うことは


食べることだ


食べると言うことは


命を奪うことだ


必ず


死と隣り合わせなんだ


鶏も


獣も


魚も


虫も


人間だって


食物連鎖の一環に過ぎない



山に餌が無くなって


熊が降りてきて


人を襲う


だから間引く


秋刀魚が不漁で高騰


今年の水揚げ量は?


帆立は中国が買ってくれないから


在庫が大量


日本の食品廃棄物は


年間約二千万トン


美味しい?


不味い?


人間は


いつだって


自分勝手で


傲慢だ


命を


一番弄んでいる生き物は


人間だ



震災の時


大量の死体が


そこにあった


寒かったが


腐敗は進んだ


凄い匂いが


そこら中に立ち込めた


しかし


何処からか来た犬猫が


身体のパーツを持って行こうとする


カラスもやって来る


野焼きの許可が下りるまで


防腐処理もままならず


安置と言う名の放置


やがて野焼きの許可が下り


大量の遺体を焼く匂いが


一帯に広がる


臭かった


その話をすると


亡くなった者に対して


失礼だと言う奴が居たが


現場に居ない者に


何が解る?


失礼だと言うのなら


許可を待つ必要があったのか?



言いたくなる


現場に居ない奴ほど


勝手なことを言う


骸は骸だ


魂がそこにあると言うなら


お前らも協力したらどうだ?


別に遺体を


無碍に扱った訳では無い


お前らはそれこそ


臭いものに


蓋をしていたのではないか?



言いたくなる



生と死は


きれいごとだけではない


生まれてくる命が


望まれていなければ?


精神疾患のある両親でも


育児は認めるべき?


五体満足ではない命は


発達障害のある命は


同じ命で


同じ魂だとしても


本当に平等に扱われているのか?


障害のある者を


差別するというが


差別化しなければ


障害に寄り添った対応なんて


出来ないのでは?


それは度合いにもよるかも知れない


けれどその線引は?


介護に疲れて


対象を殺してしまう


当たり前だろう?


精神的に滅入っている


謂わば精神疾患者が


介護するのだから



行政は


自治体は


そしてあなたは


いったい何が出来ると言うのか?



いのちは


いのちの対価は


いくらですか?


病院では


毎日のように


人が死んだり


産まれたりしている



病院に来て


暴言を吐く人は多い


医療費が高い


ヤブ医者には診て欲しくない


看護師が虐める


この病院に殺される


病院では


医療行為が行われています


当たり前?


医療行為って何ですか?


人を治す手助けをすることです


医者は人を治すのではありません


患者に寄り添って


その身体がより健康に


より快適に


苦痛を取り払い


生きようとする


手助けをするのです


治せない病気もあります


取れない痛みもあります


人のすることですから


当然ミスだってあります


でも


心無いことを


言う人がいます


今は何処も人手不足です


医者も看護師も疲れています


成り手も少ない


そんな中で


精一杯尽力している人に


心無いことを


言う人がいます


文句があるなら


他を当たれば良いのに


そう言う人は大抵


他の病院も


たらい回しにされて来た人だ


何様なのか


バカにつける薬はないんだよ!!


金なんて要らないから消えて失せろ!!


って言いたい


でも


そんな命でも


救急で運ばれて来たら


応じなければならない



応じて


ICUに入った患者


延命治療しますか?


姉に聴いてみます


待てど暮らせど返事もなく


患者が亡くなって


先生が延命治療を


怠ったから死んだ


病院が殺した


と言う


遺体を引き取ると


病院は話し合いに応じないから


遺体は引き取らない


と言い出した


そこから二週間


話し合いもせず


遺体も引き取らず


連絡がつかないので


腐敗は進み


ようやく応じるが


病院が殺した


こんなに状態になって可哀想


絶対に病院の不手際があるから


解剖しろ



病院舐めてんのか?


命を粗末に扱ってるのは


そっちだろう?


と言いたい


納体袋に入っているのは


患者の魂なのか


ただの肉塊なのか


どっちですか?



医療は


過去の凄惨な人体実験の上に


成り立っていると言っても過言ではない


ナチス然り


七三一部隊然り


どのみち人体実験なしでは


医学の発展はあり得ません


華岡青洲は


母と妻を実験体にしたそうです


彼の場合は同意の上ですが


母親は亡くなりました


奥さんは失明したそうです


その甲斐もあり


世界で始めて


全身麻酔に成功しました


偉業と言われています


では人体実験は必要?


仮に動物なら良いのか?


命を粗末に扱っていないか?


答えなんて無い



もう一度言います



生と死は


きれいごとだけではない

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