【不死 VS 不死】 Act.9
その夜、レオは討伐を休んだ。
全員で居酒屋に行ってお酒を飲んで、モリモリ食べた。
死を覚悟しての最後の晩餐なんかじゃない。
前祝いだ、勝利の。
そしてぐっすり寝て、遅めの朝、みんな起きた。
お風呂に入ってサッパリして、簡単な朝ご飯と、ポーションを2本飲んだ。
魔術師はバイタルとマジック。
剣士たちはバイタル2本。
気休めでもないよりマシってマーロが笑ってた。
最後のひと搾りのあるなしで結果が変わることなんていくらでもあるよ。備えは大事。
猫たちもマジックポーション舐めさせられてる。
カイリは量多め。
『この味は好かん……』
『これでどれくらい上がるの?』
『3割』
4才で魔力1万400の化け猫がこちらです。
みんなも文句ぶうぶうで、それでも全部舐めた。
『そういえばお前舐めてないぞ』
『僕はいらないよ、魔力は売るほどあるから』
『いや飲め、これは仲間の絆の証だ』
適当なことを言いだしたぞ。
『飲まないやつは討伐に連れて行けないのが規則だ』
ムチャクチャ言いだした。
『レオが飲む物は俺たちも飲む。それがスターリングシルバーの掟なんだ』
お酒もお茶も飲まないじゃないか。
ああもう、わかったよ、舐めるよ。
——不味っ。
そして出陣前におやつ。
ポイズンクラブ!
猫たちにはとっておきのシースネーク。スタミナの塊だ。
「ポーションよりこっちのがスタミナ上がる気がするなあ」
「酒飲みてえなー」
「飲んだだろ昨夜」
「また飲みたい」
「次は祝勝会だ」
「祝勝どころじゃねえって。パワー切れで全員もれなく倒れるからな」
「ここぞとばかり、派手に行くぞ」
「おーよ、人生最大の大魔法見せてやる」
戦士は炎の魔石を携帯。
そして全員に防御の魔法をまとわせた。
誰も死なせない、それが僕のスタイル。
もちろん猫たちにも。
『これはどれくらいもつんだ?』
『発動から30分くらい』
『それだけ?』
『作戦が成功しても失敗しても十分だよ』
『そうだな、一瞬が勝負の短期決戦だ』
十分にエネルギーを得て、みんなたくさん話して、敵の陣地に乗り込んだ。
相手は昼も夜も関係ないヴァンパイアの王。
なら、視界のいい真っ昼間に行かせて頂きます。
ま、どうせ闇に包まれるんだろうけど、勝利の日差しなんてステキじゃない?
タウンの外れ、ひとり住まいの小屋の前に、頭おかしい奴がいた。
人間のふりは面倒じゃない?
本当は火も水も何もいらないノーライフキング。
「はぁい、この間はありがとう。君の栗は大好評だったよ」
返事の代わりに一気に闇が広がったから、同時にバルが動いた。
総魔力2万超の神聖魔法、どこまでみんなを守れるか。
暗黒と呪いを防げるか。
火蓋を切るのは僕。
「失礼な奴だな、名乗りも挙げないなんて!」
僕も戦闘モードに入った。ファイヤーボールを投げつけたり神聖魔法を大量に浴びせたり。
相手は化け物なんだから、さほどのダメージにはならない。
ただ、相手だって持ってるエネルギーの範囲でしか修復はできないから、当然、攻撃されるのは嫌だ。
攻撃しないで一列に並んだまま防御に徹するパーティが気になるらしくて、時々暗黒魔法や呪いで攻撃するけど、バルはそう簡単にはやられないよ。足下にカイリがいるんだ。
僕らの作戦の意図がわからなくて、闇の中で目玉だけが動いてる。
こっちもあんまり時間がないから、教えてあげるよ、僕らの作戦。
本当はね、怖いんだ。闇にはトラウマがあるから。
恐ろしいんだ。
だけど、だからこそ行くんだ。
仕留め損ねたら、もう打つ手はない。
目玉のすぐ下に全力疾走で飛び込んだ。
想定より早い、万能結界が壊れた。
でも、その上での作戦だから、結果的によし。バルとカイリの消耗を抑えられる。
ものすごい虚無の嵐に揉まれて、右も左もわからない。
あらゆるものが奪われていく。
ねえ君、今、生体エネルギーを吸い取った?
ついでにこれなんてどう?
僕の〝命の一部〟だ。
人の命は儚い。君にとってはないに等しいだろうね。
でも僕の命は違う。君を掴んで放さない。
そう、たった今、君は終わった。
今、君に吸収させたのは、君にとってちょうどいい量の命。
それを得てしまった君は、ここで命を失って死ぬんだよ。
——感覚がなくなってきた……見えない。嗅げない。
耳がほんの少し聞こえるだけで、何もわからなくなった。
エネルギーをほとんど取られたからだ、たぶん。
何かわからないけど、体が飛んだかも……猫たちとデニーの大火力砲かな。
レオたちも同時に魔石を使ってるはず。
そして、すかさず戦士4人がファイヤーソードで斬りかかる計画。
生き物になってしまったこいつは、火力さえ足りれば確実に焼き殺せるから。
そう、落ち着いて。焦らないで……僕は死なないから。
だからこいつを倒して……禍々しいこいつにとどめを刺して。
感覚はないけど……僕がこのままここにいちゃ作戦が破綻する。
1度得てしまった命を失うまいと、ノーライフキングは必死。
時間がかかれば、みんなが戦えなくなる。
だけど感覚がない……やみくもに飛んでも……。
「ルイ、どこだ!? ルイ!! くそっ、私のバディを放せ、化け物め!!」
レオ! そっちだね? そこに飛べばいいんだね!
聴覚と勘だけで、夢中で転移した。
魔力の最後の一滴が残っててよかった……みんなにポーション舐めさせられたおかげだ。
感覚がなくて、うまくいったのかどうかわからないけど……もう動けないから、ここにいよう。
「もう1度火魔法斉射だ! バルとカイリも! 塵も残さず焼き尽くすぞ!!」
生き物になってしまったノーライフキング、他に魔法を持っていなければ身を守るすべはない。
バルたちの参戦は計算通り。僕の神聖魔法コーティングでガードしてるから、短時間ならノーダメージ。
初めて戦うカイリ、頑張って。
みんなの斉射はどんな火力なんだろう?
いつか見せてくれるかな。
剣を振る音が小さく聞こえる。
頑張って、みんな。
僕ができるのはここまでだ……。
弱いけど耳が聞こえるのは嬉しい。
ものすごく頑張ってる。
ゴォッって唸る大火の音がした。
それが突然静かになって——全員の勝ち鬨が聞こえた。
「倒した! 倒したぞ、不死の魔物を!」
「これでヴァンパイアの名は辞書から消えた!」
人間も猫も大騒ぎ。
『——ル、イ……』
ふと、カイリの声。
大騒ぎが一瞬で静まりかえった。
「ルイー!!」
レオの声が悲鳴みたい。
僕は今どんな姿なんだろう……声も出なくて訊けない。
「何でこんなに焼けただれてるんだ、結界はどうしたんだ?!」
「暗黒魔法で破られたのかも……」
「じゃあキングと一緒に俺らの集中砲火浴びたってこと?! 結界のない子猫が耐えられるわけないだろ!!」
ごめん、みんな……結界が壊れないと計画が成立しないの、黙ってて。
壊れないとあいつに命を与えられなかった。
耳元で、優しいレオの声がする。
「聞こえるかい? 必ず治すから待っておいで」
「バル、お前の神聖魔法はどうなんだ」
「……全身火傷は治せる、今は無理だが。力がほとんど残ってない」
「火傷だけ、か……」
「破裂してしまった目、焼け落ちた耳やしっぽは治せない。鼻も鼻骨が出てる。俺ができるのは火傷を治すことだけだ」
「そんな……じゃあルイはこれから目も見えず匂いもわからず永遠に生きるのか……?!」
ん……案外すごいことになってた。
ラブリーな子猫だったのに、化け猫になってしまったらしい。
でも、それも仕方がない。天主様が定めたもうた運命かな。
「フレイヤ様、どうかわたくしの声をお聞き届けください」
レオの声がひれ伏さんばかりに聞こえた。
「あなた様の眷族に、どうぞ慈悲をお与えください。どうかこの子に癒やしをお与えください。代償にわたくしの目を捧げてもかまいません」
ダメだよ、そんなこと言っちゃ……。
「レオは左目にしろ、俺は左目利きだから右目を捧げる」
バル、ダメだよ……そんなのダメだ。
「わたくしの鼻も捧げます! どうかルイにお慈悲を!」
マーロも、ダメだってば……。
「バルは片目じゃ距離感がつかめなくなる。やめておけ。右目は俺が差し上げる」
剣士だって距離感は大事じゃないか、カイ!
「僕は耳を捧げます、どうかお召し上げください」
アスランまで何言い出すんだ……。
「よし、俺と片耳ずつ分けようぜ」
デニーまで……みんなおかしいよ、僕はただの魔獣なのに、どうして……。
『フレイヤ様にご無礼を承知で申し上げます。どうかわたくしの尾をお召し上げください。コールサルトの尾とは比較にならぬ些末なものですが、どうぞルイの尾の一端に』
カイリが口火を切ったから、みんなもしっぽを差し出すって言いだした。
ダメだよ! 猫のしっぽは飾りじゃないだろ!
繊細なバランスを取るのに必要だから、しっぽが短い猫は戦闘魔獣に向かない。
しっぽを失ったら戦闘魔獣は引退だ!
いろいろ言い合う声が突然止まった。
「みなの決意と覚悟、確かに聞き届けました」
あ、フレイヤ様……醜い姿でのお目通りお許しください。
「わたくしの愛しい子、ずいぶんな無茶をしたようね」
ああ、話せなくともどかしい。たぶん喉を焼いちゃったんだ。
「あなたがこれほどに愛されていること、わたくしは心から嬉しいわ」
どうか、どうかみんなから何も召し上げないでください、僕はこのままでもいいんです。
それが運命なら従います。あるいは世界が滅ぶ日が来るのならそれまで、このまま生きていけますから。
今まで僕を愛してくれた人たちとの大切な記憶を何度も思い起こしながら、失われない命を生きていけますから。
「あなたはわたくしの眷族、何も心配はいらないのよ。誰も何も差し出さなくても、いつでもわたくしがあなたを守りますから」
治ったなってわかったけど。フレイヤ様のお優しい香りは感じたけど、目が開かない。
まぶたが重くて。
それに全然体に力が入らない。
音は普通に聞こえるようになった。
「ピアスも元のままよ、安心して頂戴」
そう仰って、優しくなでてくださる。
嬉しい。心から敬愛します、フレイヤ様。
「人間たち、猫たち、よく悪しき闇を払いました。父神はたいへんお喜びです。必ずや大いなる祝福があることでしょう」
レオが、もったいないお言葉です、って緊張した声。
「ところで、わたくしの眷族と縁を結びし者」
「はい、わたくしでございます、フレイヤ様」
「この子はすべての力を使い切ってしまいました。休息が必要です。このまま眠りにつきます。その間、あなたはわたくしの愛し子を見守れますか? 何か月か、何年か、どれほど続くかわかりません。強制はしません、あなたの意思で決めることです」
「むろんです、むろんですフレイヤ様! バディとなって日は浅い、しかし生涯共にあると誓ったのです。10年が20年でも、それ以上でも、この生涯をかけて見守ることをお誓い申し上げます」
そしたら、僕を支える手が変わった。
レオの手だ。
フレイヤ様はレオを信じてくださったんだ。
「確かに託しましたよ。誓いの言葉、決して違えぬように」
レオは返事をして、僕をギュッと抱き締めた。
「戦いは終わった、さあ帰ろう。そしてゆっくりお休み」
何だか僕たち、ずっと昔から一緒みたいだね。とても心地いいよ。
「さあ猫たち、こちらへおいでなさい。魔法をひとつずつ授けましょう。何がいいかしら?」
優しいお声——そして何も考えられなくなった。
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