異世界転生黒猫の日常生活
氷柱
第1話 ヴァルターシュタイン家、その後
ティアマト2頭討伐から1年あまり。
ロランは18才になった。成人だ。
天主様にお願いしたからか、あれから背が伸び始めて、かなり高くなった。
本人は急に伸び始めたから体が痛いって苦しんでたけど。
でもおかげで誰にも見劣りしない青年になったじゃない?
まだ少しずつ伸びてるから、周りに比べて高い方になるんじゃないかな。
日頃の行いがよかったから、天主様が望みを叶えてくださったんだ。
今日は親しい魔術師や冒険者が集まって庭で立食パーティをしてお祝いした。
夜はシャコンヌ一家とお祝いディナー。
食事の後、リビングで和やかにお茶を楽しんで。
……ロランだけちょっと様子がおかしい。
なんか、そわそわして落ち着かない。
しばらくしたら、小さくこっそりうなずいて席を立って、ミリアのそばに行って、かたわらに膝を折った。
うわー、来たっ!!
これって、あれだよね、あれ!
「僕と婚約してくれませんか、レディ・ミリア」
ミリアはぽかんとしてる。
まだ13才……ううん、もう13才だもん、意味はわかってるよ。
ロランが小さな箱をポケットから出して、ふたを開けてミリアに差し出した。
「もし受け入れてもらえるなら、受け取ってください」
指輪。小さいけどキラキラ光る半透明の白い宝石がついてる。
あれ、ティアマトだ。後から討伐した雌のうろこ。
とても綺麗で、王様はお妃様にティアラを作って贈ったほど。
十分な厚みがないと、指輪で見栄えするような加工はできない。
背中の真ん中周辺の大きなうろこでないと。
ものすごく貴重。そして綺麗。
カットがとてもいいから、小さいのに煌めいてる。
でも指輪ってサイズがわからないと作れ——あ、わかっちゃった。
クレアだ。何かの方法で聞き出したか調べたか。
ミリアはやっと状況を理解して、笑顔でいっぱいになった。
「ええ、喜んで!」
ご両親もクレアも喜んでる。
「結婚の時期はあなたが決めてください。20才でも、もっと先でもかまわない」
「だめ! ロランは私より5才も上なんだから! だから18才まで待って。18才になったら結婚して」
「そんなに早くて平気?」
「大丈夫、医療科だもの。結婚しても仕事はできるから」
ミリアが18だとロランは23才。
ヴァルターシュタイン家としては少し晩婚だけど、いいんじゃない?
ケイがしっぽ振ってふたりを見てる。
『長かったねえ、ここまでさ』
『だってロランは女の子に腰が引けちゃうから』
『最初全然平気だったじゃん、仲良しでさ』
『女の子の13才は子どもじゃないって、前にクレアが言ってたよ』
『そんなもんかね、ややこしい性格だな旦那』
『それがロランなんだよ』
ふたりで抱き合ってるけど、身長差すごい。
君、少し伸びすぎじゃない?
この間180って言ってた。まだ伸びてるから、止まる頃には185に届くよ。
あんなに小さかったのにね……。
今はもう本当に魔物を倒す白馬の騎士みたいになった。
シティじゅうの若い女性たちの心を奪ってた王子様、ついに結婚が決まりました。
そしてロランの婚約はシティじゅうに広がった。
犯人はクレアだった。
もう嬉しくて我慢できなかったんだろうね。
行く先々でしゃべっちゃったみたい。
そうするうちにロランは本当にSSランクになって、約束通り、ケイが現役のうちにバディ契約できた。
『まあ、あんまり長くは続けられねえけどな』
『そんな寂しいこと言わないでよ』
『マジな話だって。俺もう8才なんだぜ? 長く続いても10までやれるかどうかだ。戦闘魔獣は引退早いんだからよ』
『悲しくなるよ、ケイ……』
『だがまあ、これで晴れてバディだぜ! どんな魔物も一発ノックアウトにしてやるぜ!』
『やっぱりケイはそうでなくちゃ!』
『それもそうだが、旦那の結婚式だけどよ、やっぱ蝶ネクタイだよな!』
『ケイは何色がいいかなあ……おそろいでヴァルターシュタイン・ブルーにしてもらう?』
『お、いいね! 何たって俺は何でも似合う色男だし』
『それは僕だよ!』
『いいや、違うね。俺は色男。お前のは〝可愛い〟なの』
……悔しい、言い返せない。
僕は可愛いとしか言われたことがない。
『ま、可愛いも褒め言葉なんだからいいじゃん』
そんな話をしてたけど、ケイは結婚式には出られなかった。
寿命で、式の3か月前に旅立った。
寿命は僕でもどうにもならない。
でもね、結婚式はとても華やかだったよ。
聖堂に行って司祭様に結婚の誓いをして、沿道に大勢の人が集まって祝福してくれたんだ。
ロランは魔術師の正礼装、白いローブで。
ミリアは16才で学校を卒業、今は大学にいて治療魔法の進化を研究中。
今日はお母さんが一生懸命作ったステキなウエディングドレスで。
背中にクリムゾンレッドの糸で魔術師の紋。
とても鮮やかだったよ。
初めての赤ちゃんが産まれたのは3年後。男の子。
次の2年後も男の子。
お家騒動だけはやめてほしいなーって、ロランは苦笑してた。
3人目と4人目は女の子、5人目は男の子の双子で顔がおんなじ。
6人きょうだいの大所帯。
クレアは嬉しくて仕方なくて、お兄ちゃんたちにおやつや離乳食を作ったり、赤ちゃんを抱っこしてあやして、お乳をあげて寝不足のミリアを休ませたり。
ロランも子どもたちが可愛くてしかたなくて、多忙な中でも時間を作って遊んでる。
静かだったヴァルターシュタイン家はとても賑やかになって、活気にあふれてる。
元気な子どもたちの、命のパワーがあふれてる。
絵に描いたみたいな、幸せな家庭。
僕は放り投げられちゃったり、しっぽをつかまれちゃったり、実を言うと子どもは苦手なんだけど、ロランとミリアの子どもだから我慢我慢。
知ってるよ、子どもなんてすぐ成長するんだから。
今の僕の相棒はポインターのシン。
攻撃力がすごい。足が速い。補助魔法がものすごい、空間転移魔法使えるし、土魔法で防御も攻撃もできるし……とにかくすごいんだ。
普通は2年以上かかる訓練課程なんか1年で終わっちゃった。
頑張らないと、僕の立場が危ういぞ……。
もうひとり、危機感持ってる子がいる。
アーサー・ヴァルターシュタイン、長男。次期当主。
親がすごすぎてプレッシャーでぺちゃんこ。
まあ、無理しなくていいんじゃない?
天才なんて意識しちゃダメ。無駄だから。
言わないけど。話す相手はロランとクレアだけだから。
そしてヴァルターシュタイン家は今日も平和——のはず。
僕はロランとシンとでレッドバックビーストと戦ってるから。
すぐ終わると思うけどね。
あー早く帰っておやつ舐めたい。
シンがうまく洞窟からおびき出してくれたから、雷落として終わり。
ロランが手際よく背中の皮を剥いで、バッグに入れた。
これは高く売れるよ、無傷で毛並みよし、超レア素材だ。
「さて、帰ろうか。美味しい食事が僕らを待ってる」
うん! みんなのところへ帰ろう!
フレイヤ様、本当にありがとうございます。
僕はたぶん世界一幸せな猫です!
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