第36話 「開化天皇」の意味するもの
それを見たヤマト北部の豪族、丸邇氏は天孫族をヤマト北部に誘致する。彼こそがが、九代開化天皇だ。丸邇氏は、鉄の農機具で国を豊かにしようと開化天皇を入婿にしたのだ。
しかし、それは天孫族の罠だった。当時、ヤマト北部を含む山背南部や摂津東部は建波邇安の勢力圏だった。建波邇安は、この一帯を統治する大豪族だった。天孫族は、この大きな領地を狙っていた。そこで、建波邇安一族を分裂させて仲間争いを狙っていた。
開化天皇は、建波邇安一族の丸邇氏の娘と結婚して結束を乱す。丸邇氏は天孫族の鉄に魅了され、ヤマト南部側に寝返させられて建波邇安に反逆する。それでも建波邇安は大勢力で部下にも慕われ、団結力もあった。
それに比べて天孫族軍はヤマト南部の豪族の寄せ集めで兵力は少なく、士気も劣っていた。だが天孫族軍には、秘密兵器があった。鉄の武器である。
天孫族は鉄の武器の製造を禁止されていたが、密かに造り、この戦闘では全員に鉄器を持たせた。
こうして、まだ銅器が主体の建波邇安軍とは圧倒的な戦力差をしらしめた。鉄矢鏃を持たない建波邇安は、戦いの矢合わせで射倒される。
早々に大将を射殺された建波邇安軍は総崩れとなった。直ちに追撃して河の北に打ち破り、半数を超す敵兵の首を斬り、死骸があふれた。その場所は羽振苑(はふりその)といわれ、現在それがなまって祝園(ほうその)と呼ばれている。
そして敵兵は怖れて逃げ、屎が袴から漏れた。逃げきれないと知って、頭を地面に打ちつけて助命を乞うたところは我君と名付けられた。
しかし、我君とは助命という意味でない。建波邇安のことだろうか。それなら建波邇安は、兵士に慕われていたことになる。
この圧勝は、天孫族の大きな飛躍となった。この戦によって、天孫族は将来の展望が開けたからだ。開化天皇という名は、これを現しているのだ。
こうして天孫族は多くのものを得、天皇家とはそれを今まで尽くしてくれた協力者たちに与えむくいたのだ。そしてその占領地の統治を順調に進めるために、鉄の農機具を大量に持ち込んだ。
領民は、鉄の農機具で古墳を造らされる代わりに農機具を持ち帰ることを許された。
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