第8話 守役

 朝起きると、リルはイアンが隣に居ないことに気がついた。昨日はイアンとルイスに挟まれて眠ったはずだ。リルは眠っているルイスの毛並みをモフモフしながら考える。すると庭の方から何やら打ち合わせるような音がした。そういえば朝は騎士の訓練があると聞いたような気がする。

 

 リルは慌てて服を着替えると顔を洗い、起き出したルイスと共に庭に向かった。そこでは騎士たちが木刀で打ち合っていた。リルに気づいたイアンはおはようと声をかける。リルは元気に挨拶した。もう靴を履いているのにも関わらず、イアンはリルを抱き上げる。リルはイアンの腕の中から訓練を見学した。皆とてもカッコイイと思う。いつか自分も剣を習いたかった。

 

 

 

 その時だった、拠点の上空を何かが横切る。見上げると大きなドラゴンが飛んでいた。イアン達は緊張したが、リルはワクワクした。ドラゴンを見たのは初めてだ、大きくてカッコイイなと思っていた。

 ドラゴンは拠点の入口付近に降り立った。全員急いで玄関へと向かう。いくら森を守護する騎士だとしても、こんなことは初めてだった。

 

 ドラゴンは玄関前で大人しく座っていた。その横には銀狼まで居る。

『ここに『通訳者』は居るか?』

 ドラゴンの言葉にリルは返事をした。イアンはリルを地面に下ろしてやる。

『私は森の奥深くに住むドラゴンだ。『通訳者』が現れたと聞いて挨拶に参った。ついでに銀狼族から『通訳者』の守役も預かっている』

「初めまして、リルと申します。挨拶に来てくれてありがとうございます」

 リルは挨拶すると、銀狼の方を見た。

「あなたが私の守役になってくれるの?」

 銀狼はシッポをブンブン振って答える。

『初めましてリル、今日からよろしくね』

 リルは大喜びで銀狼を撫でる。これからずっと一緒にいるお友達だ。仲良くしようと思った。

『ふむ、相性は悪くなさそうだな。本人も悪しきものでは無さそうで安心した。挨拶も済んだし私はそろそろ帰ろう』

「もう帰っちゃうんですか?」

 リルはドラゴンともう少しお話ししたかった。

『あまり人間の住処に長くいるのも良くないからな。たまには会いに来よう』

「はい!絶対来てくださいね」

 リルはドラゴンの鱗を撫でた。ツルツルして気持ちが良かった。

 ドラゴンは空へ飛び立つ。なんてカッコイイのだろうとみんな思っていた。

 

 

 

「リル、用件は何だったんだ?」

 イアンが聞くとリルは挨拶と守役を送ってくれただけだと答えた。イアンは安堵した。ドラゴンが敵に回ったら勝ち目など無いのである。

 ルイスはリルの守役に近づく。

『随分若い者が来たな。リルの年齢に合わせたのか?』

『はい、族長が若い方がいいだろうと』

『そうか……リルこいつに名前を付けてやれ』

 リルは驚いた。銀狼族には名前は無いのだろうか。

 銀狼が期待に満ちた目でリルを見ている。その目は綺麗な琥珀色だった。

「じゃあ琥珀!琥珀はどう?」

 銀狼はシッポを振って喜んだ。リルは皆に琥珀を紹介した。

 また新しいお友達が増えて、リルは有頂天だった。

 


 

 リルは琥珀に拠点を案内しながら、先ほどの会話で気になったことを聞いてみる。

「ねえ、琥珀は若いって言ってたけど、銀狼族はどれくらい生きるの?」

『そうだな、大体三百年くらいか?私は二百年近く生きているし、族長など三百年以上生きてるな』

『私はまだ四十歳くらいよ』

 リルはとても驚いた。神獣はみんな長生きなのかもしれない。

「リスさんたちはどれくらい?」

『彼らは確か百年くらいだったと思うわ』

 百年!リルもそれくらい生きられるだろうかと考える。難しいかもしれない。

「ドラゴンさんは?」

『彼らは特別だ、数千年は生きるぞ!先程のドラゴンは建国王と契約を交わした本人だからな』

 そんなに凄いドラゴンさんだったのかとリルは今更ながら緊張した。失礼なことは無かったか考える。きっと大丈夫だと信じたい。

『順番を考えるなら明日は銀狼族が挨拶に来るのでは無いか?』

『はい、皆そのつもりのようですよ』

「本当に?嬉しいな!順番はどうやって決めるの?」

 一番最初がドラゴンだったから、偉い順だろうか?

『強いて言うなら縄張りが広い順かしらね。銀狼族は森の全体を見回ってるから』 

 森のパトロールが銀狼達の仕事なようだ。

 

 リルは琥珀達と色々なことを話した。

 リルの生い立ちを語っていると、ルイスがある事に気づく。

『リルのお友達だったと言うネズミは神獣では無いか?』

 リルにとっては寝耳に水な話だった。

『そういえば、リルは普通の動物とは話せないものね』

 そういえば、騎士たちの連れてる馬とは話せなかったとリルは思い返す。

『人間の住まう土地に住むとは、変わり者の神獣だったのだな』

 あのネズミさん――つけた名前をマロンという――は元気にしているだろうか。

 挨拶もせずに居なくなってしまったから、きっと心配しているだろう。

 リルはマロンが恋しくなった。

 沈んでしまったリルに気づいた琥珀達が体を擦り付けて慰める。リルはマロンが元気でやっている事を祈ったのだった。

 

 

 

 午後になると、イアンとルイスも森の巡回に行ってしまった。

 今日のお留守番は副団長のヘイデンである。

「リル、団長達が戻るまで遊ぼうぜ!」

 遊んでいいのだろうか?リルは心配になった。

「いいのいいの、居残り組は半日休暇みたいなもんだから」

 ヘイデンはそう言うとリルを持ち上げ、肩に乗せた。リルは視界が急に高くなって楽しかった。

 そして庭に出る。倉庫のような場所から木の板と羽の様な物を取り出した。羽子板だ!と『みちるちゃん』が言った。

「これを地面に付かないように打ち合って遊ぶんだけど、わかるか?」

 リルは頷いた。こんな風に遊ぶのは生まれて初めてだ。上手くできるか心配だった。

 ヘイデンが軽く羽を打つ。リルは予想に反して綺麗に羽を打ち返すことができた。

「お、上手いな!いいぞリルその調子だ」

 しばらく打ち合うと、リルは体力の限界になってしまった。

「おし、次は琥珀の番だな!」

 そう言うと、ヘイデンは円盤のようなものを持ってくる。フリスビーだ!と『みちるちゃん』が言った。

 ヘイデンは思いっきりフリスビーを投げた。琥珀は走って追いかけて、空中でフリスビーをキャッチする。

 リルは思わず拍手していた。

 次はフリスビー投げに挑戦してみる。

 あまり遠くへ飛ばすことは出来なかったが、結構楽しいと思った。

 琥珀もシッポを振って喜んでいる。

 

 遊び疲れたリルは途中で眠ってしまった。

 ヘイデンは眠ってしまったリルを抱えるとベッドに連れていく。

 疲れきったリルが目を覚ましたのは夕食の時間だった。

 

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