第31話

ヒロインに執着する幼馴染が病み(闇)行為をする描写があります。苦手な方はこのエピソードを飛ばすことをおすすめします。



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「僕はもう、僕の知らない場所でリリィちゃんを失いたくないんだ」




 悲しげな表情でそう言いながら、レインの手はリリィの頬をそっとなぞり、そのまま下へ降りて首に静かに添えられる。




「レイン、くん……」




 不安そうな顔のリリィをじっと見つめたレインの手に力が入った、その時。




「リリィ!」




 部屋の中に魔法陣が現れ、そこからユリスが姿を現した。レインは冷ややかな視線をユリスに向け、リリィはユリスの姿に目を輝かせる。だが、そんなリリィを見たレインの手に力が入り、リリィは苦しげにうめいた。




「レイン!リリィを離せ!お前、自分が一体何をしてるのかわかってるのか!」


「あー、やっぱり来ちゃったんだ。どうしてあの毒で死なないかな。それにどんなに魔法で所在を隠しても、特級魔法師には僕たちの位置なんて簡単にわかっちゃうんだね。でもさ、この状況は君にとって不利でしょう。君が何かしようとすればリリィちゃんの首を一気に絞めて殺す」




 レインはリリィの首を絞める力を少しずつ少しずつ強めていく。そのたびに、リリィは苦しげにうめいている。




「やめろ!お前に攻撃なんてしないからリリィを離せ!」




 ユリスは叫ぶがレインはリリィの首を離そうとはしない。一気に殺すことはしないが、その手を緩めることはせずじわじわと首を絞めていく。




「どうして、お前はリリィのことが好きなんだろ!なのにそんなことするなんて……」


「リリィちゃんが僕のものにならないなら、僕の手で殺す。そして僕も死ぬ。そしたらもうリリィちゃんを失うことはないでしょう」




 にこやかに微笑むレインをみてユリスは唖然とする。この男は一体何を言っているのだろうか、本気で言っているとしたら頭がおかしい。


 ユリスがそんな風に思っている間にもレインの手の力は少しずつ強まり、リリィはさらに苦しそうになる。レインの手はリリィの首を持ち上げるように上がっていき、リリィの足はだんだんと宙を浮きついに地面から離れてしまった。




「リリィちゃん、苦しい?苦しいよね?ごめんね、本当はこんなことしたくないんだ。でも、僕だってずっとずっと苦しかったんだ。その苦しみをね、少しでもわかってほしいから」




 光のない瞳でリリィを見つめながらレインは言う。リリィは苦しみながらもレインの手を掴み、リリィの爪がレインの手に食い込んでいくが、次第にリリィの手に力が入らなくなっていく。




「いい加減にしろ!」




 ユリスが片手をレインへ向けて叫ぶと、レインの手首にバチっと雷のような光が放った。




「……っ!」




 あまりの痛みにレインは思わずリリィの首から手を離す。ドサッという音と共に、リリィはその場に崩れ落ちた。




「げほっ、ごほっ!」




 リリィは地面に横たわりながらせき込み、なんとか呼吸を整えようと必死だ。その横でレインは手首をさすりながら憎悪の目をユリスへ向けた。




「どうして邪魔するの。それによくあの状態で攻撃しようなんて思ったよね。リリィちゃんに当たりでもしたらどうするんだよ」


「俺がそんなヘマするわけないだろ。それに、リリィを殺そうとしていた人間が何言ってるんだよ!」


「僕はいいんだよ!……あぁ、もう、君がいる限り本当にだめだね。リリィちゃん、先にあいつを消さなきゃいけないみたいだ。君はそのあとにゆっくり殺してあげるから、少しだけ待ってて」




 ふわっと優しく微笑むレインの顔を、両目に涙を浮かべせき込みながらながらリリィは見つめる。その時、リリィの体が軽くなり、喉の奥の苦しさもやんわりと取れたように感じた。ハッとしてユリスを見ると、ユリスが片手をリリィへむけ、リリィへ治癒魔法をかけていた。




「ユリス、さん……」




 まだ声が出しにくいが精一杯の力を振り絞って名前を呼ぶと、ユリスは少し微笑んで頷いた。




「大丈夫、すぐに終わらせる。リリィはここで待ってて」




 そう言ってユリスはリリィの周りに守護魔法と拘束魔法をかけた。リリィ自身を拘束するわけではないが、リリィがその場から移動することはできない。




「場所を変えようか」




 冷めた目でユリスを見ながらレインがそう言うと、二人の周りに魔法陣が浮かび上がりリリィの目の前から二人の姿が消えた。






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