第22話

 ソファで激しく求めあった後さらに風呂場やベッドでも体を重ね、そのまますやすやと寝息を立てるリリィの顔をユリスは隣でじっと見つめていた。


 気持ちの高ぶりもあり、最中にリリィに無理をさせてしまっているという自覚はあった。だが、どうしても止まらず結果リリィが気を失ってしまうほどに抱き潰してしまった。


(……だめだな、気持ちが抑えられない。リリィのことは大切にしたいのに、気持ちをぶつけてばかりだ。こんな俺のこと、リリィは嫌いになったりしないかな)


 自分がここまで激重な愛の持ち主だとは思いもしなかった。むしろ昔はドライで感情を相手にあらわすことも上手くなく、そのせいでダメになったこともある。


(リリィが相手だとどうしても気持ちを制御できない。こんなんじゃいつか愛想をつかされてしまうんじゃないか)


 リリィは自分のことを不釣り合いだと心配していたが、むしろ俺の方が不釣り合いなんじゃないのか。ユリスはそう思って静かにため息をつく。


「もっと自制しないとな」


 ぽつりと呟いてからユリスはリリィの髪の毛を少し掴んでキスを落とす。そして静かに瞳を閉じた。




◇◆◇◆



「それで、討伐先にいた魔物の魔力が赤い雫と同じ魔力だったと」


 魔法騎士団の応援任務が終わり、研究課へ戻ってきたユリスたちは第一部門のメンバーに魔物について詳しく報告をしていた。


「完全に同じとは言いきれませんが、恐らくはハイルの言っていた魔石をあの魔物が取り込んだかと」

「そうであれば今後ももしかすると同じようなヤバイ魔物が出てくるかもしれないな」


 ユリスの報告にエイルは渋い顔になり、エイルの言葉を聞いた他のメンバーも深刻になる。


「そうなるとリリィちゃんが唱えた呪文は赤い雫とハイルには効いたけど、他の魔石には効かなかったってことね」

「他の魔石は赤い雫やハイルの取り込んだ魔石とは違うものだったのか、それとも距離的な問題なのか」


 ベリアの言葉にエデンが顎に手を添えながら考察する。


「何にせよ、今後も慎重になる必要がありますね」

「もしかすると過去にも同じような異常な魔物の事件があったかもしれません。過去の記録を探してみます」


「よし、それでは会議は終わりにする。ユリス、リリィ、お疲れ様。二人は来週3日間休暇を取ってくれ」


 エデンの言葉にユリスとリリィは目を合わせ微笑んだ。




「3日休めるならどこか行きたいな」

「どこがいいですかね?」


 仕事が終わり、リリィとユリスは出かける計画の話をしながら退勤しようと研究課のある研究棟のエントランスを出ようとした。エントランスの入口に人影があり、その人影がこちらを見る。ふとユリスがその人影を見て立ち止まった。不思議に思ったリリィがユリスを見上げながら声をかける。


「ユリスさん?」


 不思議そうに見上げるリリィの横でユリスはなんとも言えない複雑な顔をしてその人影を見ている。


「おう、ユリス!お疲れ様」


 そう言って片手をあげたその人は背が高く引き締まった体つきで短髪の黒髪、瞳の色はユリスと同じ琥珀色だ。


「兄貴、どうしてここに」

「近くに用があったからついでに来てみた。お前に話もあったし。……って、そちらは?」


 兄貴と呼ばれたその男は興味深そうにリリィを見る。ユリス同様、端正な顔立ちをしていてリリィは思わずドキリとした。


「同僚で彼女のリリィ」

「へぇ、同僚で彼女……彼女!?」

「リ、リリィ・ハルベルトと申します」


 あまりの驚きようにリリィは戸惑いつつも挨拶をする。


「あ、えっと、こいつの兄貴のライムです。どうも」


 ユリスの兄ライムはそう挨拶すると、ユリスの肩にガシッ!と腕をかけてユリスに顔を近づける。


「おいおいおいおい!どういうことだよ!詳しく話を聞かせろ!」

「……うっざ」


 ライムの絡みにユリスは大きくため息をついた。




 そんなこんなで帰宅したユリスたちは、ユリスの隣にリリィ、テーブルを挟んでユリスのむかえにライムが座っている。


「なるほどな、膨大な魔力を宿した魔石、か」

「騎士団長の兄貴だから教えたけど、きちんとした報告はいずれ研究課からすると思うからそれまでは他言無用で頼む」

「わかってるって。俺も騎士団が関わった魔物に似たような事例がないか、過去の記録を探してみるよ」


 ユリスの兄ライムは国の騎士団で騎士団長をしている。先日応援に行った魔法騎士団ではなく、剣を主とした騎士団で王族の警備や国全体の治安を任されている。


「それにしても大変だったんだな、リリィちゃん。それにありがとうな、ユリスのこと」


 赤い雫の事件についてユリスから話を聞いたライムは、リリィに優しく声をかけた。


「いえ、そんな!私の方こそユリスさんに感謝してもしきれないので」


 そう言ってふわっと微笑むリリィを見てライムは思わず目を見張る。そんなライムにユリスはコホン、と咳払いをした。


「それで、兄貴は何しに来たんだよ」

「あぁ、そうそう。いや、お前がそうならもうこの話は無しにした方がいいな」

「この話って?」


 ユリスとリリィが不思議そうな顔でライムを見ると、ライムは苦笑する。


「ユリスに縁談が来てるんだよ」

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