第20話

「今回の任務を無事に終わらせることができたのは研究課の応援のおかげだ!遠慮せずたくさん飲んで食べてくれ」


 魔物討伐が終わり、魔法騎士団本部ではユリスとリリィをねぎらうため食事会が開かれた。食事会と言っても団員に負傷者がたくさんいること、ユリスたちも今回のことは大げさにしてほしくないと騎士団長へ伝えたことにより規模はごくごく小さめだ。


「あんなに強い魔物をあれだけすごい魔力で倒すなんてすごいよ。あんた一体何者なんだ」


 ユリスの周りには第一・第二部隊の隊長や第三・第四部隊の団員たちが群がっている。ユリスの活躍と魔力の凄さにこぞって話を聞こうとしているのだ。


「別に、研究課で働いているただの魔法士ですよ」

「でも上級魔法が使えるんだろ?あんた研究課にいるなんてもったいない、今からでも魔法騎士団に来たらどうだ」

「いや、戦いよりも研究の方が好きなので」


 苦笑いするユリスを、少し離れた所からリリィは眺めていた。ユリスからはユリスの視界の範囲にいるようにと釘をさされていたのでなるべく離れないようにしていたが、ユリスは団員たちに囲まれて近寄れる状態ではない。


(魔法騎士団の皆さんがユリスさんに群がる気持ちはよくわかるわ。私も同じ立場だったら皆さんみたいにユリスさんに質問攻めしてしまうと思う)


 今回の魔物討伐でのユリスの魔力にはもちろん驚いたが、赤い雫の事件でユリスの実力を知っていたためそこまでの衝撃ではない。だが、やはりユリスはすごい魔法士なのだと改めて思っていた。


 あの様子ではユリスには当分近寄れないだろう、食べ物でも取ってこようかと足を向けた時。


 グイッと何者かに手を掴まれそのままバルコニーまで連れて行かれる。


「ちょっ、なんですか!?って、リゲル……!」


 慌てて手を掴んできた相手を見ると、そこにいたのはリゲルだった。リゲルと二人きりになるなんて恐ろしさのあまり目眩がする。しかもユリスの目の届かない場所でだ。


「離して」


 掴まれた手を解こうとするが逆に強く掴まれさらに人気のない場所へ連れて行かれる。そしてリゲルは真剣な顔でリリィを見た。


「あのユリスとかいう男と付き合ってるのか」

「……あなたに関係ない」

「付き合ってるんだな。あいつはやめておけ。あんな強い魔物と戦って勝てるなんておかしいだろ。異常すぎる」


 何を言っているのだろうか。ユリスのおかげで魔法騎士団は死者が出ることもなく無事で、魔物も討伐することができたのだ。感謝こそされるべきなのになぜこんな物言いをするのだろう。信じられないものを見るようにリリィはリゲルを見つめた。


「ユリスさんのおかげで魔物を討伐できたのよ。どうしてそんな失礼なこと言えるの」

「確かにあの男のおかげで俺たちは助かった。それについては感謝するさ。でも冷静になって考えてみろ、あの魔物をあっけなく倒したんだぞ。あんなにすごい魔力量、上級魔法が使える魔法士だからっておかしすぎるだろ」


 確かに、上級魔法を使える魔法士だとしてもあの魔力量はすごすぎるのだろう。だが、ユリスは実は特級魔法士なのだ。そのことをリゲルはもちろん魔法騎士団の誰も知らないし知らされることもない。特級魔法士であることはごく限られた人間しか知らないのだ。


 だからリゲルにそれを伝えることはできない。もどかしさを感じるリリィへリゲルはさらに口を開く。


「それに、お前にはあんな男は不釣り合いすぎる。お前何かに優れているわけでもないごくごく普通のありきたりな女だろ。そんなお前があんなすごい男と釣り合うわけがない」


 リゲルの言葉にリリィは両目を見開く。確かに、自分は何かに秀でているわけでもない、一般的な人間だ。そんな自分があんなにすごい人間の隣に当たり前のようにいたことが、言われてみればすごく不釣り合いのような気がしてくる。


 どうして気が付かなかったのだろう。あんなにすごい人だと知っていたら、自分はユリスに近づくことができただろうか?あまりの凄さに萎縮して目を合わせて話をすることすらできなかったかもしれない。


 たまたま寮の部屋が隣で歓迎会で助けてもらいそのまま居候して仲が深まりお互いに惹かれ合った。その過程があったからこそ今は当然のように付き合っているが、それがもしもなかったら?ユリスの隣にいられただろうか?自分はユリスにとって相応しい人間ではないのではないか?


 呆然とするリリィに、リゲルは言う。


「わかっただろ、お前はあいつとは釣り合わない。悪いことは言わない、あいつはやめておけよ。俺が言える立場じゃないのはわかってるけど、お前には軒並みな幸せを掴んでほしいって思ってるんだよ」

「……誰が誰に釣り合わないって?」


 リゲルの言葉を遮るように、背後から低く静かな声が響く。暗闇から人影が現れ、そこには真顔のまま冷たい視線をリゲルへ向けるユリスがいた。

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