第14話

 赤い雫の事件が解決して一ヶ月が経った。リリィはあれから変わらず研究課の第一部門で働いてる。事件が解決したことでその後リリィに危険がおよぶことはなくなった。


(さすがにこのままずっとユリスさんの部屋にいるわけにもいかないわよね……)


 そう思い、それまでユリスの部屋に泊まっていたリリィはユリスの部屋を出て自分の部屋に戻ろうとしていた、のだが。


「なんで出ていくの?別にこのままいればいいのに」


 あっけらかんと言うユリスにリリィは拍子抜けした。


「いや、でももう危険は無くなったわけですし、ずっとユリスさんにやっかいになるわけにも」

「別に。俺はこのままリリィがいてくれて全然構わないんだけど」


 そう言ってリリィの目の前に立ちはだかるユリス。


「それとも、俺と一緒にいるのは嫌になった?嫌になったって言うなら仕方ないけど」

「嫌になったわけではないですけど……」


 戸惑うリリィに、ユリスは顔をグッと近づけた。


(ユリスさん、近い近い近い近い!)


「だったらこのままここにいなよ」


 そう言ってユリスはポン、と頭に手を乗せる。そして頭を軽く撫でるとそのまま頬に手を滑らせ頬を優しく撫ではじめた。


「あの日の続きもまだしてないし」


(あの日の続き……?ってまさか)


 ユリスの言葉の真意に気づいてリリィはあっという間に顔が真っ赤になっていた。


「俺、言ったよね。もう俺は本気で好きになってるから後戻りできないし、リリィにもそうなってほしいって」


 ユリスはそう言って自分の額をリリィの額に当てる。


「嫌ならこれ以上のことはしない。嫌ならはっきり言って」

「……嫌、じゃないです」


 静かにリリィが呟くと、ユリスはそのままリリィに口づけた。最初は優しく気遣うような口づけだったが、次第に激しさを増していく。いつの間にかリリィは力が抜けその場に立っていられなくなるが、ユリスがリリィの体をしっかり抱きとめていた。


 唇が離れユリスがリリィの顔を見て一瞬目を細める。そしてリリィの両膝裏に手を入れ抱き抱えると、寝室へ運んで行き、リリィをベッドの上に置いて上に乗りかった。


「リリィのことは大切にしたい、でもこういうの久々で制御が効かなかったら、ごめん」


 フッと申し訳なさそうに微笑むユリスの顔を見てリリィの胸は激しく高鳴った。


(や、やばい、ユリスさんのそんな表情、反則ですって……!)


「わ、私も、久々だし、そういう時の反応が面白くないそうなので、もしもそうだったらごめんなさい……」


 今にも消え入りそうな声で言うリリィに、ユリスはなぜか途端に不機嫌そうな顔をする。


(え、何で急に不機嫌そうなの?)


「そんなこと誰が言ったの。元カレ?この状態で元カレのこと思い出すなんて余裕なんだね」


 はーっと大きくため息をついて、ユリスは前髪をかき上げた。


「気に食わない。今は俺のことだけ考えてよ。……いや、俺のことしか考えられないようにしてやる」


 そう言ってユリスはリリィに覆いかぶさった。





チチチ……


 外から鳥の鳴き声がする。今は何時頃だろうか。重い瞼をゆっくりと開くと、目の前には黒い髪の男が静かに寝息を立てている。


(朝になったんだ……)


 体が重いし体中あちこち痛いような気がする。だが、目の前にいる男の寝顔を見てリリィは胸が高鳴り嬉しくなった。


(何だか不思議、異動日初日の飲み会で気づいたらこうしてユリスさんの部屋に寝ていた時を思い出しちゃった。あの時と同じ光景なのに、こんなにも違うなんて)


 ふと、昨夜のことを思い出してリリィはだんだんと顔が熱くなるのを感じる。


(ユ、ユリスさんてば普段はいつも真顔でそういうことに興味ありませんって感じなのに、あんなに激しいなんて……!しかも、もしかして嫉妬深いのかな?これだけ一緒に過ごしていたのにユリスさんのこと、わかっているようでやっぱりまだわからないや)


 じっとユリスのことを見つめていると、ユリスが静かに動き出しうっすらと目を開ける。そしてリリィの顔を見ると一瞬驚き、すぐに嬉しそうに微笑んだ。


「……はよ。起きてたんだ」

「おはようございます。私も今起きたばかりです」


 リリィがそう言うと、ユリスはふにゃりと笑ってリリィの髪の毛を優しく撫でた。そしてリリィにキスをし始める。それは一度では終わらず、何度も何度も繰り返された。


(えっ、ちょっ、待って、何でこんなに止まらないの!?)


「ちょっと、ス、ストップ!」

「あ、ごめん、なんかリリィの寝起きの顔見たらとまらなくなっちゃった」


 クス、と笑いながらユリスは謝るが、リリィは顔を真っ赤にしてユリスに背を向けた。そんなリリィの体をユリスは後ろから優しく抱きしめる。


「リリィ、ごめんてば。体、痛くない?」

「なんか気だるいしあちこち痛い気もしますけど、多分大丈夫です」

「そっか、よかった」


 後ろから安堵した声が聞こえてリリィは思わず頬が緩む。


「ねぇ、リリィ。俺たちまだ二人でデートらしいことしてないよね」


 確かに、ユリスとは一緒に生活を共にしていたが赤い雫の一件でバタバタしていたせいもあり、二人でどこかへ出かけたことはない。


「二人とも今日は休みだから、二人でどこか出かけない?朝ご飯食べにいくついでに」

「え、良いんですか?行きたいです!」


 リリィが思わず勢いよく振り返ると、ユリスはそんなリリィを見て嬉しそうに大声で笑い始めた。


「ははは、そんなに食いついてくるとは思わなかった。よかった、そうと決まれば支度して出発だ」


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