雨の中犬を拾いましたが、どうやら進化条件を満たしてしまったようです――ケルベロス観察日記

坂本一

一日目 大雨の中、犬を拾った僕。

 雨の中、一匹の捨て犬を見つけた。


 すごい。


 こんなこと生まれて初めてだ。


 犬って捨てられることがあるんだ。


 犬って人間と友達なんじゃないのか?


 人間の一方的な価値観でしかないのは、もうこれを見てしまえば明白だ。こんなに悲愴なものを見たのは生まれて初めてだ。

 急に友好条約を破られて捨てられてしまう犬のほうはたまったものじゃないだろう。


 有馬蜜柑の段ボールの中に、心ばかりの優しさとして、極薄のタオルが敷かれている。こんなもので雨の寒さをしのぐことはできないだろうに。

 

 なんだか泣けてきた。

 

 灰色がかった毛並みに、くりくりとかわいらしい瞳で僕のことを見つめている。だが、勘違いするなよ。僕のイケメンさには叶わないのだからな。


 他に人は誰一人も通らず、僕に助けを求めるように、でも縋ることはない、誇りを持っているような瞳でこちらをじっと見ている。


 こんな夜中に、こんな大雨の中もう人が通ることはないだろう。このままだと弱り切ってしまうかもしれない。


 僕も一人暮らしだし、アパートはペット禁止。

 

 ……悩む。


 ここで見捨てるのはさすがに心が痛む。もし死んでしまうようなことがあれば夢見も悪い。


 いやちょっと待て。これは拾うほうが、利点が多いか。

 雨の中犬を拾うなんて、とんだイケメン行動じゃないか!

 自己評価が爆増してしまう。イケメン覇道をまた一歩歩んでしまうな!

 

 これはもう拾って帰るしかない。

 

 犬と見つめ合って、今から持って帰るぞとアイコンタクトを取る。わかってくれたのか、何もわからないのか何なのか知らないが、灰色の毛玉は、抵抗は一切見せなかった。

 弱っているのかもしれない。早く家に連れ帰って風呂に入れてあげよう。

 

 片手で持つには思いが、見た目よりも軽い毛玉。触り心地は一級品だ。




 「ただいまー」とはいうものの誰もいない。大学生一人暮らしのイケメン。

 犬はくぅぅんと、甘い声を出してうなっている。早く湯をためて温めてあげなければ。


 湯をためるうちにご飯をやるか。犬って何食べるんだ?


 目の前に選択肢を出せば食べれるほうを食べるか。


 今日買った異様な安さの鶏肉と、僕の晩飯になる予定だった焼きそばを差し出してみる。答えるように鶏肉のほうにすり寄ったのであげてみる。いや、さすがに生じゃまずい。油少なめにして焼いて与える。


 よほど腹が減っていたのか、むしゃむしゃと、野生の獣のように平らげてしまった。かわいそうに……。なんだか涙がたまってきた。


 食べ終わるころには風呂もたまっていたので、僕も晩飯をそそくさと食べて、一緒に風呂に入る。


「今日みたいに寒い日は湯船に限るなあ」


 我ながら爺臭いと思うが、犬も落ち着いた風に、いまにも眠りそうな顔をしている。


 「今日はもうお休み」と、体を拭きあげて、布団の上においてあげる。

 

 僕もそろそろ休まないと……

 

 明日も大学があるし、何にせよしばらくは飼うことになりそうだから物品も補充しなければ。

 何がいるんだっけ。とりあえず餌とトイレと首輪があればいいか。

 ああ、そうだ名前も決めないとな。

 灰色だし、なにがいいか、ハイとかか。なんだか吸血鬼みたいだろうか。

 犬と言えば、桃太郎、いや、あれは柴犬だ。

 ハチ公からとってハチがいいか。あれも柴だな。

 

 犬……


 いぬ……


 イヌ……



 うーん。犬と言えばケルベロスか。でもあれってどちらかと言えばドーベルマンみたいなののイメージがあるよな。しかも三つ首だよな。


 そんなことを考えていたらいつのまにか犬も僕も、それはもう深い眠りについてしまった。



 眠っている間に犬の首が、一本、二本と増えるなんて思ってもみなかった。




 こうしてこの犬と、超絶イケメンの僕との生活が始まるのだった……





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