星に降られる口実を。夜空は探している
百日紅
優柔不断で不器用な
「
私が中学二年生のころ、当時高校三年生で大学受験を控えていた姉はある日そう前触れもなく言ってきた。
あの頃の私は自分でも呆れるほどに不器用で、臆病で、泣き虫だったから。
常に本当の自分を隠していたし、家族にも距離を置いていた。
友人関係も不器用ゆえに集まってくる複数人との接し方が分からなくて、失敗して、結局一人になってしまう。
当時もそうだけど、私は憎たらしいほどに容姿だけは優れてしまっているらしいから。それにあの頃はショートヘアというのも相まって、同級生の男の子からも女の子からも言い寄られることは多かった。
『まずはお友達から』
ここで私はみんなと平等に仲良くする方法が分からなくて、沢山の友達が数人に減らされる。
『一番の友達だもんね?』
否定する勇気を持てない私は一番の友達を複数人作ってしまったがゆえに一人になる。
それでも、、、
『好きです。付き合ってください』
友達では無いけれど、ずっと隣を歩きたいと言ってくれる人も何人かいた。
あの頃の私は一人ぼっちでも大丈夫だと見栄を張るために何重にも殻を隔て、その中に閉じこもっていたけれど。
それでもやっぱり一人の苦しみから抜け出せるのならと、別に好きでもない人と付き合って。
結局そこに愛は無いのだからすぐに気持ち悪くなり、破局する。
そんなことを何度も繰り返してた私は、やっぱり一人だった。
それでも心がぽっきりと折れて生きることさえも辛くならなかったのは、一重に“姉”のおかげだと思っている。
昔から姉は孤立しがちな私を気にかけてくれて、面倒を見てくれて、励ましてくれた。
「詩織、お友達とは上手くやれてる?」
「………ぼくは友達なんていらないから」
「……そっか。まーた失敗しちゃったのかぁ。大丈夫?………辛くない??」
「一人でも平気だから。お姉ちゃんもぼくに構わないで」
不器用で、臆病で、泣き虫なくせに。
それでいて私は強がりでもあったから。
自分のことを“ぼく”と呼んでいたのも、自分を守る殻の一つだった。
まぁ、それも周りの子たちの興味を引く要因の一つであったのだと今の私ならば分かる。
ただ当時の私はそんなこと思いもしなかった。
「姉は妹に構う生き物なの。姉妹って絶対に離れない絆なんだよ?友達とは訳が違うの。だから、私の妹の詩織が、私を突き放すようなこと言うのは、お姉ちゃんとっても悲しい」
そう言われると私は毎回何も言い返すことが出来なくなって、、、
「むぅ……」
頬を膨らませて唇を尖らせる。
いつからだったか。
これも中学二年生の頃。一番最初は恐らく中学二年生に進級したばかりの頃だ。
同じような問答が繰り返され、最終的にはお決まりで私が唇を尖らせそっぽを向いていた時のこと。
「ねぇ詩織、こっち向いて?」
「………なに?」
不機嫌を装いながら姉の目を見ると、思いのほか真近くに姉の顔があってびっくりする。
「っ!?……な、なに?」
姉の顔はいつになく真剣で、私はその瞳から目が離せなかった。
「詩織、お姉ちゃんとキスしてみない?」
「………え?」
何を言われたのか、それを理解するのに随分と時間がかかった。
そしてそれを理解して、言葉の意味を咀嚼して、飲み込んで。
顔はどんどんと熱くなり、鼓動も煩くはやく鳴る。
「は、はぁ!??」
姉の正気を疑った。
受験勉強で切羽詰まった結果、とうとう脳に支障でも来たしたかと思った。
キス。キスだ。
口と口を合わせる、、、っ///、、あのキスだ。
中学二年生という所謂マセガキと言われる部類の段階で、もう既に何人かと付き合った経験のあった私だったけれど、キスなど大人がすることだと思っていてしたことなど一度も無かった。
「詩織は、お姉ちゃんとキスするの、いや?」
頭を優しく撫でられただけでフワフワした。
私のことを見つめる潤んだ瞳に、私は唾を飲んだのを覚えている。
「い、嫌って言うか。ぼ、ぼくたち姉妹だよ!?女同士で、血の繋がった家族で。ダメなことだらけでしょ!??」
「家族でも仲が良ければ、キスくらいするんだよ?」
「えっ?……いや、そんなわけないでしょ!」
「なら、詩織は小さい頃、ママから寝る前とかにキスしてもらったこと無いの?私はあるけど??あれは女同士で、しかも血の繋がった家族だけれど、ダメなことなの???」
「そ、それは………。たしかに」
たしかに、幼稚園に通ってた頃とかは、よく寝る前にママとパパからちゅーして貰ってたこともあった。
あれがダメかと聞かれれば、それはうーんと悩んでしまうところ。
でもそれなら、そもそもダメってなんだろうか。犯罪=ダメ?そう考えれば、あのキスは犯罪では決して無いと思う。
じゃあ、姉と私がキスをするのは、ダメでは無い?ダメが犯罪だと言うのなら、ダメでは無いと言えるだろうけど。
「た、たしかにダメでは無いのかもしれないけど!それでも、やっぱりその、は、恥ずかしいし!!」
「んー、そっか。恥ずかしい、かぁ。詩織はまだお子ちゃまだから、そう思っても仕方ないかなぁ」
「なっ!?お、お子ちゃま!??ぼくが!???」
当時の私は子供扱いされたことになんやかんや言ってはむくれていたけれど、今思えば全然お子ちゃまだ。
「うん。だから、今はこれだけで満足してあげるね」
そう言って、姉は私の頬っぺたに口付けをした。
「っ〜〜〜〜!!??」
初めてで、衝撃的だったがゆえに、今でも鮮明に思い出せる。
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