絶滅危惧・人種

柩屋清

1話完結

ーー何故、狙われているのか・・

洞窟の中にブルー・シートをビニール・ハウスの様に張り巡らした施設内に男女・三名が同じ事を思案していた。

時は二十一世紀など遥か昔にあたる時節。


「まだ、ヘリのミサイルには追い着かれないからよいが・・」


割と体力面で優れた猛流が云い放った。


「そうではない。予知能力の方が勝っている」


リーダー格の陽乃人は部分的に否定をした。


「でも、アタシ達、何故、逃げきれるの?」


紅一点の瑠璃子は倫理省・倫理局の追撃を、常に躱し続けた自分達の過去に疑問を投じた。

砂漠に於ける逃走に次ぐ逃走に皆、疲れもピークに達した様相である。


******


「コン、コン」


洞窟の人工的に作られた地上へつながる扉に誰かがノックをしている。


「コン・コン・コン」


今度は三度、次は五度、叩いてきた。

七度、十一度、十三度、ノック音を聞いて、陽乃人は味方だーーと云って扉を開けた。


「山瀬教授!」


酸素マスクを外した彼を三人は快く、その施設内に迎え入れた。


「お久しぶり」


そう挨拶して、手土産の発電機とバッテリーを手渡した。


「ありがとうございます」


そう返答していても陽乃人達は、何故、これのみが差入れの品なのかーーと疑問を感じた。


「キミ達の内面は判っている。しかし、これで疲れや眠気は取れるはずだ!」


教授はそう告げて、三人の肩を叩いてまわった。


*****


「そろそろ、解禁の時ーーと思うから伝える・・実はキミ達はAIだ」


「?」


教授の発表に三人は返す言葉が無い。


「もう、自分達を人間ーーと勘定してはならない・・」


これは伝達というより命令に近かった。

このブルー・シートはGPS除け、ミサイルより速く動ける等の矛盾は、これで辻褄が合うーーとも付け加えられた。


「この星は全・政府による統一国家になった。戦争、略奪、差別、虐待などを繰り返し、ようやく、人間は統一を決意した」


教授の報告にセンセーショナルを感じながら、自分達が迫害された原因をさぐり当て始める。


「しかし、その後、教育の中で占領や、虐殺戦争があった過去を教えない事を決定し、遂行した。それをAIであるキミ達に知られていると判断し、処分を合法化した」


教授は奮い立たせながら三人に説いてゆく。


*****


「キミ達は、この地に移り住んだ、第一期生だ。介護、人生相談、護衛など、一緒に入植するのに抵抗した一期生の親族の代替えとして製造された優良なるヒト型AIなのだ」


人間は神のみに裁かれたいのに自分より下を作りたがる。今や人類にとって世界が統一になれば、それまでの下劣な過去は要らない。唯一、人間を上回る可能性と人間の残虐性を知るAIは処刑するーーという判断なのだ。教授はそう言葉を吐き出しながら付け足した。


「しかし、ボク達は地球以外の何処に行けば、いいーーというのでしょう?」


「多くの事柄、内密にしていて悪かったーー実は此処は、火星なのだ・・」


ヒノヒトの問いに教授はそう告白をする。更にこの洞窟にさえ定住すれば保護は約束をした。輩は火星に来ても地球と同じ失敗を繰り返す。その度に神に謝罪し再開しては誤魔化しをした。独り発狂しながらヒノヒトは砂漠へと踊り出て自我の拡大に気付けてしまった。


(了)

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