闇ヲ斬リ裂ク者-セイヴァーブレイド英雄譚-

都月奏楽

序章:救世の幕開け

零 救世主と黒薔薇のプレリュード

 ――皆は厨二病を御存知だろうか。中学二年生頃の思春期に見られる、である。


 他人と違う趣味を持っている自分を格好いいと思い込んだり、反社会的な勢力に憧れて不良や悪になり切ろうとしたり、空想的な超能力に憧れて自身を最強の存在というキャラクターを演じたり……。皆もそういった経験があったり、しないだろうか?


 時が経つにつれて馬鹿馬鹿しい笑い話へと昇華出来たり、消し去りたい程の忌々しい黒歴史になったりするのだが、高校生にもなって未だにその病を患っている人間も時には居たりする。


 ――そう、これはとある厨二病患者の英雄譚なのである。



 都内にある私立の高等学校、『聖覇せいば学園』。何て事は無い偏差値五十前後の高校だが、強いて特徴を挙げるとするならば、結構緩くて存外自由な校風である事であろう。


 自由を謳っているという事もあって、この学園には一癖も二癖もある生徒達が集まってくるのである。


「今日は皆さんに転入生を紹介します」


 二年Ⅰ組の担当教諭が何気無く放った一言にクラスメイト達はざわめき始める。こんなイベント、在学中にそうそう発生しないからだ。


「た、田中たなかたけるです! 宜しくお願いします!」


 良く言えば普通、悪く言えば無個性な転入生、田中武が自己紹介を終えると、クラスメイト達は盛大に拍手を鳴らした。


「それじゃあ田中君はー……、佐藤君の後ろに座ってくれる? あのちょっと独特な感じの子」


 教諭が指した先が佐藤である。独特、と特徴付けているだけあって彼は見れば直ぐに分かる程の変な雰囲気を醸し出していた。

 クラスメイト達が転入生について耳打ちしている中、佐藤とその斜め後ろに居る謎の銀髪女子はただ一直線に大助を不敵な笑みと共に武を見つめていたのであった。



 HRが終わり休み時間となったので、クラスメイト達は武の元に集まって様々な質問を繰り広げていた。


「何処から来たの!?」

「か、神奈川の横浜市から――」

「部活何やってた!?」

「中学の時に卓球をちょっとだけ——」


その平凡な見た目に相応しく、武が返す質問の答えも普通だったのである意味期待外れだったらしい。

 そんな凡個性な彼の前に突如として謎の影が二つ現れた。しかもわざわざ背中合わせに立って両腕を組んで恰好を付けて、である。


「クックック……、新たな物語ジェネシスの幕開けというワケだな。我と我が友は歓迎するぞ、新たなる同志よ」

「あ、あの……何を言って――」

「案ずるな。オレ達がキサマの先導者ヴァンガードとなろう。……そう! オレこそが闇の輪廻を斬り裂きし聖なる剣、セイヴァーブレイド!!」

「同じく闇の輪廻を浄化せし閃光の黒薔薇、ライトニングローゼス!!」


 此方へ振り向きながらセイヴァーブレイドと名乗る方は包帯が巻かれている両腕を交差させたポーズを取り、手の甲に描かれている謎の紋章をこれでもかと見せつけてくる。

 それに呼応してライトニングローゼスと名乗る方も右眼を覆い隠している黒い薔薇を象った眼帯を指し示すかの様なポーズを取った。


 出席表を確認して唯一分かった事は男の名前は佐藤さとう祥太しょうたであり、女の名前は天王寺てんのうじ花音かのんという事である。それ以外は何も分からない、というより理解出来ずにいた。


「佐藤君、と天王寺さん……で、いいんですよね?」

「……何処からともなく聞こえてくる神からの問い掛けに対しては然り、と返しておこう」

「だがそれは裏の旧世界で捨てた真名だ。我々の呼称はセイヴァーブレイドとライトニングローゼス以外認めない」


 武はこの不可思議過ぎる世界観の中で生きている二人に対してどう反応していいか分からずに居た。そんな彼の困惑を汲み取ってか、周囲は助け舟を出し始めた。


「言いたい事は分かるよ? でも絶対に悪い奴等じゃないから安心して」

「そうそう。この学校ってヘンなのが多い中でもコイツ等はズバ抜けてヘンだけどイイ奴等だってのは間違いないから」

「は、はぁ」


 二人の為人ひととなりを知っているクラスメイト達はフォローしてくれたが却って武の不安を募らせていく形となった。こんなマトモではない人間達を庇い立てる方に異常性を感じる程である。


「それはそうと転入生スーパーノヴァ。時にキサマは何か果たすべき使命があったりするか?」

「スーパーノヴァって僕の事!? えっと、果たすべき使命って、何ですか……?」

「セイヴァーの台詞ソウルを端的に言えば、貴公は何か入ろうとしている部活とかあるのか、と聞きたいのだろう。ククク……まだまだ心眼が足りんと見える。精進するがいい」

「そんなの分かるワケないでしょ!? ……ええと、部活動なんですが、実はまだ決まってな――」


 あちゃあ、とクラスメイト達は思わず声を漏らした。一瞬何のことか分からずに居たが、目を輝かせている二人の反応を見るに、今の発言が大きな失言だと察した。

 武は逃げようとしたが、既に機先を制していた祥太と花音は瞬時に彼の背後を取って肩に手を回した。


「ククク! そうかそうか! なら話が早い! 放課後、この部室サンクチュアリで待っているぞ!! それが日没トワイライトまでにキサマがまず果たすべき使命ミッションだ!!」

「我々は歓迎するぞ新入りニュービー! 今日絶対来るのだ! それが貴公の天命デスティニーなのだからな!!」

「ニュービー!? ちょっと待って下さいよ! 僕は入るだなんて一言も――!」

「詳しい話は部室エリュシオンで聞こう! ローゼス!! さぁ今日も神々の黄昏ラグナロクを止めるべく駆け巡るぞ!!」

「フゥーハハハ!! 深淵に蔓延りし邪悪イヴィルは破壊するのみ!! フゥーハハハハッ!!」


 祥太は二つ折りのメモ用紙を強引に手渡したかと思いきや、花音を連れて教室を出て行ってしまった。まるで暴風雨の様な二人だった。


 何が何だか分からず放心している武。クラスメイト達は厄介な存在に目を付けられた事を同情しているのか、何も言わず暖かい目を送りながら彼の両肩に手を置いたのであった。


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