カヲルくんには分身が居る
@panda_san
第1話
僕には分身が居る。
「はっ?」
とでも思うだろう。
だが、僕には分身が居る。
実際に目の前にいるのだが、そいつは僕と瓜二つだ。
ワイシャツを着ていて、制服のズボンを履いている。髪色は黒で、パッとしない髪型に、顔、輪郭、背丈、肩幅、肌の色、傷。全部が全部、僕だ。
「一ついい?」
<何だい、ボク。何でも言ってくれよ>
「それ、僕の制服なんだけど」
<あぁ、そうだね。けど、僕のでもある>
「そりゃ、そうだけど。君、今から学校に行くの?」
<もちろん。僕は学校に行く義務があるんだから、当たり前だろ。ボク>
「そっか……まぁ、頑張ってよ」
<ただ、教育を受けてくるだけだよ。そういう心の持ち方だろ、ボクらは>
その会話を最後に、そいつは部屋を飛び出して、学校へと向かっていった。学校にきちんと行くのだろうか? そもそも急に現れて、今はこんな感じなんだ。これは夢かもしれない。
「きっと夢だ。寝よう」
寝ようと思ったが、なかなか寝付けない。僕は部屋を出て、キッチンへと向かった。
「確か、冷蔵庫にコンビニ弁当の残り、あったよな」
生姜焼き弁当の賞味期限を確認する。2日前だ。
「消費期限は大丈夫だっけ確か」
とりあえず面倒臭いのでプラスチックのまま電子レンジにぶち込んだ。チンが終わった後のプラスチックの箱が熱すぎて、床に落としそうになった。
「痛覚はすごいあるんだよなぁ……。やっぱり夢じゃないのか? しかも美味しいし」
賞味期限過ぎても美味しいんだから、生姜焼き弁当は好きだ。いや、違う。違う違うう。今日の本題は、僕の分身についてだ。一体どこから湧いて出て、勝手に僕の制服を着て、出かけたんだ。
「これで、万が一、あいつが学校で変なことでもすると、僕の立場はどうなるんだよ……」
時計の針を確認する。
まだ9時だし、この時間から急いで支度をして、家を出る。めちゃくちゃ走って、校門まで辿り着き、教室への階段を上がって、自分の席に着くまで……。
「でもまぁ、学校行ってないからいいっか」
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僕は中学一年のある事件をきっかけに、不登校になった。ある事件というか、些細なことだった。
最初は影が薄いと理由で、空気扱いだった。やがて、孤立していることに気がついた。
まぁ、結局のところイジメが原因だった。標的は、僕を含めて3人。最初の男の子が、不登校になり、空気だった僕に順番が回ってきた感じだ。最初はどうでもよかったが、風邪を引いて、学校を休んだ。
それからは、今日も休もう、今日もいいか、明日から行く、明日から……とかを繰り返しているうちに学年を跨いだ。と言って振り返るものの、正直学校なんてどうでもいい。
「人生やり直したいとか、他の学校行きたいとかも思わない」
どうだっていいじゃないか。そんなこと。
「あぁーやっぱり眠くなってきたな。寝るか」
布団に戻って、眠りにつくことにした。
______________________________________
2日目
<それじゃあ学校に行ってくる>
「行ってらっしゃい……」
3日目
<学校に行って来る>
「行ってら……」
4日目
<学校に行って来る>
5日目
<学校に行って来る>
6日目
<学校に行って来る>
1ヶ月後
驚愕の出来事がスマホのyiho_newsに映った。
「県立三角ヶ丘中学校にて爆破事件があり、14歳の生徒を含む男子学生4名が意識不明の重体です。現場からは——」
何も変わらず——どんよりとした居心地の悪い、淡々とした日々に、そのニュースは十分すぎた。十分すぎたというのは、学校に行く理由だ。
「今日は僕が学校に行く」
無我夢中で家を飛び出し、学校へと走っていた。
カヲルくんには分身が居る @panda_san
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