第1章 トラブルを道づれ?世は情け?な旅の始まり 〜なんでこんな目に···〜

1-1.旅立ちの朝、順調な旅路のはずが···

 グロー歴504年9月1日 晴れ

 

 今日はいつもよりも早く目が覚めた。やっぱりわくわくしてしまったから寝付きが普段よりも良くなかったってのもあるんだけどね。

 

 

「んんーっ、おはよー、アキ。ちょっと早すぎやしないかー?」

 

「おはよう、リオ。ちょっとわくわくしちゃって寝付きが悪かったから、目が覚めちゃったよ」

 

「気持ちはわかるけど、今日行く街までは結構距離あるんだから、もう少し横になっとけー」

 

「うん、それじゃあそうさせてもらうよ」

 

 

 スマホの地図によると、ここから最も近いアーマチュア街までは徒歩約7時間、20kmぐらいある。

 

 もちろん、舗装された道じゃない獣道だし、道中魔獣が現れるかもしれない。

 

 いくら創作魔法が使えるからって、無闇矢鱈に戦いを挑むわけにはいかないんだ。こちらは戦い慣れてないド素人だから、こちらが負ける可能性が高い。

 

 まぁ、スマホの地図のおかげで迷うことなく最適な経路を示してもらえるのは本当にありがたい。

 

 リオは横になっていろと言ったので、横になりながら、スマホの地図をもう一度確認しておく。

 

 道中14km付近、7割ぐらい進んだ先あたりに昼食にピッタリな河原があるので、昼食はそこで摂る予定だ。天気予報によると今日はいい天気だし気持ちよさそうだね。

 

 

 そう、天気!これもチートアプリだった。

 

 このアプリ、開いただけでは気象情報が表示されないのだ。

 

 ただ、メニューバーに使い方が載っており、それによると探査の創作魔法を使用すると気象情報が表示されるとのことで、レーダーをイメージして周囲に魔力を薄ーく広ーくして放出してやることで周囲500kmぐらいの気象情報が表示された。

 

 魔力を込めればもっと広範囲の気象情報を収集できそうだけど、魔力量が足りないので2日に1回ぐらいでこれまで使用していた。

 

 

「よーし!それじゃあ出発するぞー!忘れ物はないかー?」

 

「うん!全部カバンの中だよ」

 

「それも普通じゃあないんだけど、まぁいいかー!じゃ行くぞー!」

 

「おーっ!」

 

 

 5ヶ月近くお世話になったリオの拠点に別れを告げて、ボク達は長い長い旅に出かけることにした。

 

 この先にどんな人達や風景に出会えるのだろうか?この時は本当に楽しみだったんだ···。

 

 

 出発してから2時間ぐらい経った。旅路は一応順調だ。地図アプリのおかげでそこそこ歩きやすい道が多い。

 

 途中、道が途切れて崖になっているところを越えるルートを案内してきた。なんでこんな道のないところを?という場面もあったけど、一時的に身体強化4倍にしたボクは崖に向かってジャンプすることで問題なく通ることができた。

 

 ···この道で本当に大丈夫?っていうのも元の世界の地図アプリを利用したカーナビと一緒だった。そんなところまで再現しなくてもいいのに!

 

 リオはずーっと飛んでいるから、道が険しいとかは関係なかった。今度時間ある時に空を飛ぶ創作魔法を開発してやる!と意気込んだ矢先、50mぐらい先の茂みでガサガサと音が聞こえた。身体強化しているから聴力も強化されているのだ。ヒソヒソ声でリオに話しかける。

 

 

「リオ。何かいる」

 

「動くなよー。いつでもロックキャノン撃てるよう準備しとけー。身体強化も4倍まで今のうちに引き上げとけよー。もう一方の片手には剣を持っとけ」

 

「うん」

 

 リオもかなり警戒している。ボクも言われた通り身体強化を一気に4倍まで引き上げる。事前に引き上げておけば何かあった時でも初動が早くなるからね。さて、一体何がいるんだろうか?

 

 ガサガサと這い出てきたのは、巨大なワニだった。しかも必死に動いていたんだ。

 

 

「でっかいワニだね」

 

「おかしいぞー?水辺にいるワニがなんでこんな森にいるんだー?なんかまずい予感がするぞー」

 

 

 リオが警戒度をさらに引き上げる。その雰囲気からただならぬ状況なんだと感じた。

 

 

「ここからすぐにでも移動したほうがよさそう?」

 

「ちょっと待ってろー。空から周囲の様子を確認してみるぞー」

 

 

 そう言ってリオは上空に上がって···すぐに慌てて降りてきた!

 

 

「まずい!この先にレックスが4体もいるぞ!しかも狩りモードっぽいぞー!」

 

 

 レックス。そのままだね。あの巨大肉食恐竜の事だ。しかも狩りモードって事は獲物を探してるってことだよね?だからワニは必死に逃げてきてたのか。

 

 

「ええっ!どうしよう?来た道を戻るの?」

 

「いや、ヤツらの方が足が速いから、逃げたら追いつかれてしまうぞ。どこかに隠れたほうがいいんだけど、こんな短時間に見つかるかどうか···」

 

「戦うって手はどう?奇襲ならボクの全力ガトリングで倒せそうかな?」

 

「4体もいるからムリダナ。1体は仕留めれるとは思うけど、おそらく魔力が保たないぞ」

 

「じゃあ、隠れる?」

 

「ちょっと賭けになるけど、左にある大木の根本が茂みになってる。あの木は香木だからオレ達のニオイに気づきにくいはずだ」

 

「わかった。忍び足で向かうね」

 

 

 ソロリソロリと茂みに近づいていき、その根元付近いあった狭い空洞っぽい空間に身を潜める。

 

 この香木、結構鼻にくるキツイニオイなんだよね···。早く通り過ぎてくれないかなぁ。

 

 鼻を摘みながら潜むこと約10分、直ぐ側まで全長8mぐらいの大きなレックスがやってきた。脚の筋肉が元の世界の図鑑で見たレックスより発達してたから、確かに足は速そうだ。慎重に周囲を見渡しながら五感すべてを使って獲物を探しているのを感じる。

 

 地球のかつての恐竜時代も被捕食者はこんな気分だったのかな?と気を紛らわす事を考えていた。

 

 

 そんな時だった!横にいたリオの鼻がヒクヒクしていた。えっ!?まさかリオ?ちょ、ちょっと待って!!

 

 

「へー、へーックション!!」

 

 

 ···やってしまった。やられてしまった。コメディのお約束みたいな大きなくしゃみだったよ。

 

 そこからはもう想像通りだよ。見事にレックスに見つかってしまった。もうね、頭の上に『!』が点灯したのがハッキリと幻視したよ。幻視なのにハッキリってのも変だけど。

 

 もう必死に逃げた!身体強化も4倍では追いつかれちゃうから、脚力のみ限界を超えて10倍まで引き上げたよ。

 

 体が壊れるって?

 

 

『食われたらそこで人生終了なんだよ!?』

 

 

 ···なぜか脳内で某バスケットの監督っぽい人が言ってきたよ。

 

 まだ余裕ある?いや、そんなことはないんだ!治すのは後だ!後!

 

 ちょうど目の前に20m近い崖があった。そこを某ハリウッド映画のように駆け上がる!人間業じゃないって!?そんな甘ったれたことをぬかしてる場合じゃあないんだよ!やればできる!出来なきゃ食われちゃうんだ!!

 

 

 ···なんとか振り切ることができた。崖の上で2人とも大の字になって息も荒く寝転がった。

 

 文句を言う気力すら残ってなかった。魔力量も底をつき、限界を超えた身体強化で足が動かない。

 

 やむを得ない、このセリフを旅の最初から言いたくなかったけど···

 

 

「リオのバカ!いいかい?今日はここをキャンプ地とする!」

 

 

 

『一度言ってみたかったセリフをまさか旅の初日に言ってしまったんだよなぁ。あの人達の気持ちが当事者になったら痛いほどよくわかっちゃったね』

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