3.アキとリオ
···久々にたくさん書いた日記を見返した。
この世界にやってきて、そしてリオと出会ってもう70年にもなるんだなぁ。
長いようであっという間だ。それだけ、こっちの世界での生活が充実していたんだろう。
いや、充実というか多くのトラブルに巻き込まれて散々な目にあったってのが正しいかな?
それでも、あのドタバタだらけの旅は楽しかったんだ。日記を読んだだけであの時の情景がすぐに思い出されるよ。
···もうすぐオレの人生は幕を閉じる。
その前にあの楽しかった思い出を、日記を読みながらもう一度振り返ってみようか。
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グロー歴504年4月2日
この世界にやってきて、最初に気が付いたのはベッドの上だった。
「んんっ···ここは?」
「おっ!?やっと気づいたかー。どうだ、体調は?どこかおかしいとこないかー?」
見慣れない木でできた天井、そして聞いたことのない少年のような声···
声のした方に首を向けると···そこには小さな翼の生えた白猫がいた。
んんっ!?翼の生えた猫!?
びっくりして声が出なかった。
その猫はオレを覗き込むようにして心配そうにまた声をかけてきた。
「どうしたー?大丈夫かー?ここは安全だから安心しろよなー!」
ね、猫が···シャベッタアァァァァ!!!
落ち着け落ち着け。まずは沈着冷静に沈着冷静に···状況を確認するんだ!
かなりパニクって何考えてるかわからなくなってたが、次第に落ち着いてきた。
ここはどこかの家の中のようだ。オレはベッドで寝かされてたようだ。
天井に照明がなく、ベッド横にランタンみたいな小さな明かりがある。
体が小さくなってる?声も若返ってる感じだ。どういうことだ?
とりあえず、目の前の猫とはコミュニケーションが取れそうだ。
···何か情報を引き出せるか?
「ここはどこ?キミはだれ?」
「おっと!大丈夫そうだなー。ちゃんと喋れるし意識もある。ケガもないようだから問題ないと思うぞ。まずは自己紹介だな!オレはリオってんだ!ここはオレの住処のひとつだな。そういうお前はなんていうんだ?」
「星川
「アキトかー。とりあえずアキって呼ばせてもらうぞー」
「うん、まぁ別にいいけど」
「こっちも聞きたいんだけどさー。なんで大魔王の空中宮殿の上空にいたんだ?なんとか大魔王から逃げ出せたと思った瞬間に空間が裂けて特大の雷が大魔王に落ちたんだけど···」
「ちょっと待って!何?大魔王?上空にいたって!?」
「そうそう。空から人間の子が落ちてきて、拾ったのがオレ!落ちてきたのがキミ!」
「ど、どうなってるんだ?体も小さくなって声も若返ってるし、それに大魔王って···。ここって異世界なのか···?」
「う~ん、その様子からするとキミ自身もよくわかってないようだねー。とりあえずキミの事を教えてよ」
「うん。気を失う前は仕事中で工場の屋上にいたんだよ。そこでどうも雷に撃たれたようなんだ」
「なんだ?コウジョウって?聞いたことない言葉だなぁ~。···もしかしてこの世界の人間ではないのかな?キミは『神の遣い』?それとも『外の理(ことわり)の者』?」
「『神の遣い』?『外の理の者』って?」
「あ~それもわからんかー。ということは誰かに指示されてこの世界に来たって事じゃないっぽいな?もしかして迷い込んだ?まぁ、悪意ある存在じゃないって事は確実だな!」
リオはとりあえず安心したようだった。
誰かの指示って、気を失う前にいたあの人の事?
何言ってるか聞こえなかったからよくわからんが、とりあえずは問題ないんじゃないかな?あとで確認してみよう。
ある程度納得した様子だったので、今度はこちらから聞いてみるとしようか。
「キミの質問に答えたんだから今度はこっちからの質問に答えて。キミは何者なんだい?羽の生えた白い猫なんて見たこともないんだけど」
「見たことないだって?キミがいた世界だと存在しないんだー?オレはドラゴンっていう種類の生き物だよ!」
「ド、ドラゴンだって!?」
「そっ!ドラゴン。ドラゴンは知ってるんだー?」
「いやまぁ、架空の生物だって事を知ってるはいるけれど、思ってたより小さくてかわいいなぁ~って」
「むっ!架空じゃないぞ!ちゃんとした!れっきとした!ド・ラ・ゴ・ンだ!!」
「ごめんごめん。悪気があったわけじゃないんだけどね」
「まぁ、いいかー。普段はもうちょっと大きかったり人型になったりできるんだけど、今は大魔王との戦いで魔力を過剰消耗しちゃったからこんな姿になってるし、しばらくはたいした魔法も行使できないんだけどなー」
「そうなんだ。どうして大魔王と戦ってたの?」
「それはオレが
「ピースメーカーって?」
「簡単に言えば世界の調和を崩すものがいたらそれを討伐するって事だな!まぁ、今回の一件でオレのピースメーカーとしての役目は終わったけど」
「終わったってことは、別の誰かが引き継ぐの?」
「それは神様が決めることだな!まぁ、持ち回り制みたいなものだから、もうオレには回ってこないだろうし、役目果たしたからこれからはのんびり過ごすけど」
「ふーん。そんなもんなんだね。まるでゲームの勇者みたいだ」
「ユーシャってなんだ?そっちの世界でも似たようなヤツがいるのか?」
「まぁ、お話の中ではね」
とりあえずある程度のことはわかった。
どうやらオレは異世界に飛ばされてしまったらしい。
しかも子どもの姿になってるし。
もうどうにもならんし、よくある転生ものの小説だと戻る手段はほぼ皆無だ···。
まずはこの世界について知り、なんとかして生計立てないとなぁ~。
「とりあえずオレはこれからどうしたらいいんだろう?」
「着の身着のままっぽいし、この世界の事何も知らないんだろー?これもなんかの縁だし、しばらくやることもないから、これからいろいろ教えていってやるぜー?」
「それは助かるよ、リオ。これからよろしく!」
「おうよ!任せとけって!」
どうやらリオはこの世界についてかなり知ってるようだ。
しばらくはリオの世話になることにしよう。
『···リオとの出会いか。あれは運命だったんだろうな。この出会いがなかったら、この先の人生はどうだったのだろうか?まぁ、そんなこと考えても意味はないか。今はこの時の出会いに感謝したい』
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