第91話 第二次討伐隊

 ミズトは十日間の王都観光を終えると、セシルとの待ち合わせのために朝一で冒険者ギルドを訪れていた。


 王都にある支部だけあってエシュロキア支部よりも更に大きく、敷地に入るための門を抜けると、いくつもの建物が並んでいた。

 ミズトは案内看板で受付と待合室のある建物を確認し、敷地の中央にある一番大きな建物へ向かった。


(これはまたにぎやかなことで……)

 中に入ると、ミズトは喧騒さにため息をついた。


 受付の数はエシュロキアの三倍程度あり、どれも行列ができている。

 壁に掲示された依頼の数も膨大で、とてもじゃないが一日で全てを見ることはできない量だった。


「ミズト、早かったわね」

 入ってから数分もしないうちに、セシルがミズトを見つけ声を掛けてきた。


「すみません、お待たせしてしまったようで」

 待ち合わせの五分以上前には着いたはずだが、セシルの方が早い到着だったようだ。


 それから二人は、受付から別の建物を案内されると、討伐隊の参加者が待つ部屋に入った。


「ほお、最後はソロで有名なハイエルフ殿か。悪くはなさそうだ」

 セシルの姿を見てそう言ったのは、ベテラン冒険者感を漂わせている四十歳ぐらいの髭を生やした男だった。


「ちょっと待てよ! ハイエルフはいいとして、一緒にいんのは異界人いかいびとじゃねえのか? 役に立つのかよ!」

 柄の悪そうな傷だらけの大男が、ミズトを見て言った。


 部屋を見渡すと、大学の講堂ぐらいの広さの中に、三十人近くが思い思いに座っており、人間・ドワーフ・獣人・ハーフリングと様々な種族の者たちが見えた。

 レベルは65~75で、エシュロキアでは見たこともない高レベルの冒険者だ。討伐隊に参加するB級冒険者たちだろう。


「まあそう言うな、氷雪旅団の。どんな奴であれ、これから一時的に命を預ける仲間だ。お互い尊重しあおうぞ」

 最初に声を出した髭の男が、大男をたしなめるように言った。


「ケッ、何が仲間だ。言っとくが俺様は仲間なんぞとは思ってねえからな! 『大樹の守護者』、あんたらもだ!」


「そういきりたつな。我々も馴れ合うつもりはないが、無意味に争うつもりもない。それより、これで第二次討伐隊が揃ったことになる。初めての顔合わせの者もおるだろうて、各パーティの紹介といこうか」


「おい、ハロルドさんよ。たしかにこの討伐隊の取り纏めはあんたんとこだが、あんまり面倒くせえこと言うなら、俺様は従わねえぜ」

 傷だらけの大男は前にあるテーブルに足を上げ、横柄に言った。


「ああ、分かっておる。我々『大樹の守護者』が取り纏めになったのは、あくまで事務的な意味だ。B級冒険者の皆に指示をするつもりはない。だがの、ある程度の情報共有はしておいた方が良い。ただそれだけだ」


「ケッ、そう言うなら『大樹の守護者』から頼むぜ!」


「もちろんだ」

 ハロルドと呼ばれた髭の男は、そう言ってパーティの紹介を始めた。


 討伐隊として集まっていたのは、ミズトたちを入れて六パーティだった。

 冒険者ギルドの指名で、『大樹の守護者』というパーティが隊の取り纏め役となっており、そのリーダーが先ほどから仕切っているハロルドのようだ。


 『大樹の守護者』のメンバーはレベル69~75。

 クラスはグラディエーター、アークガーディアン、ハイプリースト、ウィザード、レンジャー、エンチャンターの六人で、周りの反応を見る限り同じB級冒険者の中でも、一目置かれているのが分かった。

 冒険者ギルドは、それが分かっていて取り纏めを依頼したのだろう。


 次に紹介されたパーティは、傷だらけの大男が所属する『氷雪旅団』だった。

 メンバーのレベルは68〜74で、クラスはバーサーカー、バーサーカー、ハイプリースト、シャーマン、アサシン、レンジャーの六人。

 傷だらけの大男だけではなく誰もが柄が悪く、他のパーティから嫌悪されているのが見て取れた。


 三つめは『紅い霧』。

 今回参加の中で唯一、ここ王都ルディナリアを拠点としているパーティのようだ。

 レベルは66〜70で、クラスはパラディン、ウォリアー、ハイプリースト、ウィザード、スカウト、シューターの六人。


「なんでえ、上位クラスと言っても微妙なやつばかりじゃねえか。さすが弱小国の冒険者ってか」

 自己紹介でジェイクと名乗った傷だらけの大男が、『紅い霧』の紹介を聞いて口を挟んだ。


「なんだと!」


「あ? 田舎冒険者が、俺様に文句があんのか?」

 ジェイクは立ち上がって、相手を威圧するように言った。


「待て待て、氷雪旅団の。こんなところで争ってどうする。我々の相手はテルドリス遺跡の古代種だ。暴れるならテルドリス遺跡で頼む。そっちの紅い霧も、実力は向こうで示してくれれば良い」

 ハロルドが仲裁に入り、この場で乱闘みたいなことにはならなかった。


 続いて四つ目は『深緑のやいば』。

 レベルは67〜73で、クラスはソードウォリアー、アークガーディアン、ハイプリースト、ウィザード、サモナー、レンジャーの六人。

 ジェイクが何も言わなかったので、こちらのクラスには文句はないようだ。


 そして、五つ目のパーティを紹介する番になると、若者が立ち上がった。


「やあやあ、やっと俺の出番だぜ! 言うまでもないと思うけど、俺たち三人があの有名な世界最強の『勇者パーティ』だ! そして俺が、この世界で唯一無二の勇者リアンだ、よろしくな!!」

 若者は親指で自分自身を指して言った。


(勇者だって!?)

 ずっと興味なく聞いていたミズトが、思わず若者を見た。


 若者は全身鎧、盾、剣と、いかにも戦士系の装備をしていたが、どれも装備名の頭に『勇者の』という修飾語が付いていた。


(勇者の鎧って……)

 ミズトは若者のステータスも確認した。


 ====================

 リアン・ロビンソン LV65

 種族 :人間

 加護 :光の精霊

 クラス:勇者(熟練度6)

 ステータス

  筋力 :B(+A)

  生命力:B(+S)

  知力 :E(+B)

  精神力:D(+B)

  敏捷性:C(+B)

  器用さ:C(+B)

  成長力:A

  存在力:S

 ====================


(レベルの割にステータスが高く見えるな。かっこの中の+AとかSってのはクラスによる補正だったよな?)


【クラス『勇者』は、この世界で最も特別なクラスの一つと言って良いでしょう。先天性のクラスで、歴代の勇者は生まれつき人よりステータスが高いと伝えられています。また、クラスによるステータス補正についても、ユニーククラスである『勇者』は別格な補正となっています】


(勇者って単語には驚いたが、まあ、勇者ってのはそういうもんだしな)

 ミズトは珍しく他人に興味を持った。


 なお、勇者パーティというだけあって、勇者リアンだけではなく、他のパーティメンバーも特別なようだった。

 一人は、オーレリア・フォースターというレベル65の少女で、クラスは『聖女』。勇者と並ぶ世界でただ一人しかいないユニーククラスだ。

 もう一人はギルバート・ロウというレベル65の若者で、クラスは『剣聖』。ユニーククラスではないが、上位クラスよりも格上のレアクラスに分類される。


 三人とも十六歳の同郷で、偶然では片付けられない因果めいたものを感じた。


「勇者リアン殿」

 勇者パーティの紹介が終わると、ハロルドが勇者リアンに近づいて言った。

「本来、冒険者ではないあなた方の参加に感謝します。古代種にはB級冒険者で組織された第一次討伐隊が敗北しましたが、今回はあなた方がいるのできっと勝利することができるでしょう」


「ああ、任せろオッサン! 俺たちがいれば、誰も死なずに大勝利だ!」

 威張ったように言う勇者リアンの姿は、ミズトには幼稚に見えた。


「では最後に、ミズトとセシル、君たちの番だ」

 ハロルドがミズトたちを見ながら言った。

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