第62話 更なる昇級

 翌日、ミズトが冒険者ギルドで選んだ依頼の中には、当たり前のようにアイテム収集が入っていた。

 報酬額だけが選択基準のミズトにとって、それが素材採取なのかアイテム収集なのかは関係ないのだ。

 運良く(?)受付にいつもの女性がいなかったため、依頼受領の処理は何事もなくスムーズに完了した。


 それからミズトは前日と同様に、『ギール地下遺跡』に潜り、素材採取をしながら見かけたモンスターを手当たり次第に倒して進んだ。

 『エシュロキア迷宮』と違い、どれほど冒険者がいても空き場所が見つからないようなことはなく、地下十階に着くころには必要量を越える素材を手に入れ、何度か出てきた宝箱の中には依頼対象のアイテムも入っていた。


(ここまで来れば調合で使う材料もそれなりに手に入ったな)


【はい、久しぶりにレベルも8に上がり、万能冒険者の熟練度も6になりましたので、上々の成果かと思われます。新しいポーション材料も入手できましたし、今夜は戻って調合してみてはいかがでしょうか?】


(そうだなぁ、材料がだいぶ溜まってるから、作るだけ作っておくか)

 『ギール地下遺跡』の二日目は、ここで終了することにした。


 その翌日以降も、朝に『ギール地下遺跡』の依頼を三つ受領し、当日中に行けるところまで進み、夕方には冒険者ギルドで依頼達成の処理を済ませて、夜は部屋で調合、そんな生活を繰り返した。

 ミズトはその結果、一週間後にはF級昇級条件である、G級依頼20個の達成とレベル25以上をクリアした。

 そしてその十日後、E級昇級条件である、F級依頼30個達成とレベル30以上もクリアした。


「本当にレベル30に上がっているなんて……」

 鑑定球が表示したミズトのステータス画面を見て、いつもの受付の女性は、とても信じられないという表情をしている。


「はい、本当にレベル30にしました、じゃなくてなりました。これでE級へ昇級させていただける理解でよろしいでしょうか?」


「たしかにこれでミズトさんは昇級条件を満たしました。昇級を希望されるのでしたら、あとは面接試験を受けていただくことになります」


「面接!?」

(マジで!? 転職にしても社内の昇格試験にしても、どうも面接の評価はよくなかったんだよな……)


「はい、冒険者と言えども、高い階級には強さだけではなくそれなりの人格も求められております。強いだけで幼稚な者や、倫理観が欠如している者は高い階級の冒険者に相応ふさわしくありません。そのためE級からは面接試験を行っています」


「そうですか……」


「ですが、あまり心配する必要はございません。人格に余程の問題がない限り、D級までは落ちることはないと思います」


「はあ……」

 『アマノ補佐ならきっと昇格試験受かりますよ!』と持ち上げられて受けてみたら三年連続落ちた、なんて苦い記憶をミズトは思い出していた。


「どうされますか? 昇級を希望されるのでしたら、すぐにでもギルド支部長に伝え、面接準備をいたしますが」


「…………お手数ですが、ぜひ面接の準備をお願いします」

 こんなとこまで来て苦手な面接をやらされるとは思っていなかったが、ミズトには受けないと言う選択肢はなかった。

 少しでも多く稼ぐ手段が欲しかったのだ。


「承知いたしました。それでは受付前の待合スペースでお待ちください。準備が出来ましたらお呼びいたします」

 受付の女性は一度頭を下げ、鑑定室を出ていった。




 ミズトは待合スペースに移動すると、すぐに呼び出された。

「E級面接をお待ちのミズトさん! 二階の応接室二番へお回りください!」


「おい、あいつE級面接だとよ!」

「あのガキが!? この前G級で揉めてなかったか!?」

異界人いかいびとってそんなすげえのか!?」


 冒険者ギルドの職員が大声で呼び出したので、周りにいる冒険者たちに聞こえていた。


(おいおい、なに周りにバラしてんだよ……。守秘義務的なものはないのか?)

 ミズトは、落ちた時の恥ずかしさを考えながら、周りの視線を無視して階段を登っていった。


 二階に上がると、応接室二番とやらはすぐに見つけられた。

 一応面接なので、部屋の前まで行き、それらしくノックしてみた。


「どうぞ」

 中から声が聞こえた。


「失礼します」

 扉を開け中に入ると、応接室というだけあって広くはないが、中央に応接用のソファーセットが置かれていた。

 飲んでよいものか分からない飲み物も、テーブルの上に準備されている。


 ソファーの片側には知らない獣人の男性と、いつもの受付の女性が座っていた。

 ミズトは反対側のソファーまで移動し、直立して待った。


「……」

「……」


「…………」

「…………」


「………………」

「………………」


「…………座らないのか?」

 獣人の男性が不思議そうに言った。


「失礼します……」

(は? こういうのは、どうぞお座りくださいって先に言うもんじゃないのか?)


 ミズトは勝手が分からず戸惑ったが、表情に出さないよう気をつけながら座った。

 場の緊張感を理解したのか、クロは部屋の隅に座った。

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