第54話 依頼の受領
それから早速ポーションを売るためにポーション屋へ向かった。一度に大量のポーションを売ると変に警戒されそうなので、まずは初級ポーションを五本渡した。
買取額は一本につき150G。ドゥーラの町は最初100Gだったのだが、途中から倍で買い取ってくれるようになったので、この町の方が安かった。
(割があまり良くなさそうだな。何日か間隔を空けながら、解毒薬、初級魔力ポーションと順番に売ってみるか。中級ポーションは安定して材料を入手できるようになってからだな)
ミズトは頭で計算しながらポーション屋を後にした。
次に向かうのは魔法屋。
魔法使いとして冒険者登録をしたので、ついでに魔法を一通り習得してはどうかとエデンに提案されたのだ。
確かに魔法使いと名乗りつつも『ロック』と『ストーンバレット』の二種類しか使えない。
たしかに魔法の習得を考えても良さそうだった。セシルと行ったエンディルヴァンド地下洞窟で手に入れた10,000G金貨が何枚かあるので、資金にはまだ余裕がある。
そう考えて魔法屋へ向かっていると、
「お~い! お~い!」
と後ろから声がした。
敵意はないが、自分を意識していることはミズトには分かった。
振り返ると先ほど訪れたポーション屋の店主が走って追いかけてきている。
「ちょっと待ってくれ、魔法使いの兄さん!」
「どうしました、急いでるご様子ですが」
ミズトは仕方なく立ち止まった。
「兄さんも人が悪いな! こんなもの売ろうとしてるなら、言ってくれればいいのに!」
「? こんなものとは?」
「これだよ、これ! 『最高品質』の初級ポーションじゃないか!」
ポーション屋の店主は、ミズトが売ったポーションの一本を見せた。
「最高品質の初級ポーションは珍しいのでしょうか? 所詮は初級ですので、中級ポーションより性能が劣ると思うのですが」
「何言ってんだよ、兄さん! 町中探しても一本もないよ! それにな、たしかに性能は中級より少し劣るが、材料が違うんだよ! どこにでもあるような薬草が二種類あれば作れるんだ。どれだけ凄いことか分かるだろう! これを調合できるなんて宮廷薬師に召し抱えられるレベルだよ!!」
「なるほど、おっしゃるとおりですね」
「で、これどうしたんだい? まさか兄さんが作ったのか!?」
ポーション屋の店主は、ミズトの袖を掴んで言った。
「ま、まさか。私は魔法使いですので。それはある方から買取ました」
「誰から!? どこの薬師が作ったんだ!?」
(まいったな、こんなに騒がれるものだとは。これじゃ簡単に売れなくなったじゃないか……)
【残念ですが今のミズトさんが調合すると、中級ポーションも最高品質になってしまいます】
(売れるもんないじゃんな……。とりあえずどう誤魔化すか――――)
「申し訳ありません。どなたが作ったのかは存じ上げてません。譲っていただいたのは、偶然出会ったハイエルフの女性です。ちょうど私がポーションを切らしていたところに出会いました」
「ハイエルフの女性? ――――ああ、いつもポーションを買い占めてたあのエルフか、なるほど……。まさかまだ持ってたりするかい?」
「いえ、先ほど売った分が全てです」
「そうか……、悪かったね、引き留めちゃって……」
ポーション屋の店主は落ち込んだ表情で戻っていった。
(はは、セシルを勝手に使わせてもらったら、なぜか納得してくれたな……)
ミズトは、この世界に来てから嘘ばかりついているような気がして、少し気分が落ち込んでいた。
それからミズトは、魔法屋でエデンおすすめの魔法書をいくつか購入し習得すると、再び冒険者ギルドへ戻っていた。
ポーションを売って稼いでいくことが難しくなり、やむを得ず冒険者ギルドの依頼を見に来たのだ。
(B級の依頼になれば、それなりの報酬になりそうだな)
壁に貼ってある大量の依頼書の中で、極端に高額な報酬に目が止まった。
【B級はセシルさんクラスの冒険者が受けるような難易度ですので、簡単な依頼はございません。例えばエンディルヴァンド地下洞窟の攻略がB級程度と考えてください】
(なるほど、そりゃ簡単じゃなさそうだな……。ところで、依頼を受けたいときは、この紙を
【受付の女性があれほど丁寧にご説明してくださったのですが、聞いていなかったのですね。はい、そのとおりです。ただし、同時に依頼を受領できるのは三つまでとなります。追加で依頼を受けたい場合は、どれか一つを完了させるか放棄する必要があります。また、同日に受けられる最大数も三つまでのため、三つ受領済みの日は放棄しても追加できません。なお、依頼の放棄には罰金が科されます】
(今ちょっと皮肉込めなかったか? まあいいけど……。三つまでか、まずは金額で選ぶしかないな)
ミズトはJ級で受けられる依頼の中で、金額の高い三つを
『下水道ねずみ駆除』
『ゴミ出し場の清掃』
『迷子の捜索』
「あら、さっきは何も依頼を受けずに出ていってしまいましたけど、戻ってこられたのですね」
登録時と同じ受付の女性だった。
「はい、まずは依頼をこなしていこうと思いまして」
「それはいい心がけですね! でも、いきなり三つで大丈夫ですか? どれも期限があるので気をつけてください。とくに迷子捜しは早急に対処が必要でしょうし」
「はい、どれもすぐに終わらせようと思います」
(てか迷子捜しって冒険者がやることなのか? 警察みたいなのはいないのか?)
【内容を確認せず依頼書を取ったようですね。貴族の子供でもないかぎり、迷子のために衛兵や自警団が動くことはほとんどありません】
(貴族の子供だけか。庶民には世知辛い世界だな……)
ミズトは受付を終えて、冒険者ギルド証の裏面に三つの依頼が表示されたのを確認すると、『迷子の捜索』の依頼主の元へ向かった。
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