第6話 初遭遇
川に沿って下り始めてから、ミズトの感覚で一時間ほど経った。
太陽は最初見た時より高くなっているので、最初はまだ午前中だったようだ。
(なあエデンさん。今、何かを感じとったんだけど、何か分かるか? モヤモヤというか、ムカムカというか、不快な感覚なんだけど)
ミズトは足を止めた。
【それはいくつかの可能性が考えられますが、もっとも考えられるものは、モンスターの接近を察知した可能性です】
(モンスター!? ははっ……そっか、そんな気はしたけど……)
全身に緊張が走った。
のどかな川のせせらぎは、もう耳に届いていない。
ミズトは剣を強く握りしめ、不快感を覚えた方向に意識を集中した。
どのスキルによる効果か分からなかったが、モンスターと認識した対象が、段々と近づいてきているとはっきり感じた。
そして、小さい影が森を抜け、川岸に姿を現した。
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フォレストゴブリン LV3
属性:水
ステータス
筋力 :I
生命力:I
知力 :J
精神力:J
敏捷性:I
器用さ:J
成長力:J
存在力:J
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その影のステータスが表示される。
(うわっ、可愛くないなぁ。こういうのって最初はスライムが出てくるんじゃないの!?)
人間の子供程度の大きさしかないゴブリンだったが、毛のない緑がかったシワシワの肌がミズトの不快感を刺激する。
ギラギラした眼、尖った大きな耳、隙間だらけの歯。どれも気に入らない。
【この森にはスライムも生息しておりますが、あれはゴブリンの一種です。なお、一般的な可愛いという表現に適合するモンスターはほとんど存在しません】
訊いたつもりもないのに回答をしてきたエデンに、ミズトは少しイラっとしたが、それよりも初めて見るモンスターへの注意が上回った。
ゴブリンまでは三十メートルほど離れている。警戒しているのか何かを探しているのか、キョロキョロと辺りを見回しているのが見えた。
「キィーーー!」
すぐにミズトに気づくと、奇声を上げて突進してきた。モンスターというだけあって好戦的なようだ。
何事もなく見過ごせたらいいと期待していたが、これでそうもいかなくなった。
ゴブリンは手に持った木の棒を振り上げて走ってくる。戦うしかない。
「はあぁーーーっ!」
唐突に訪れた戦闘に戸惑いながらも、それを振り払うようにミズトは声を張り上げた。
剣を構えると、初めてとは思えないほど様になっている。
ゴブリンは何のためらいもなく全力でミズトの目の前まで来ると、そのまま木の棒で殴りかかった。
怖がる余裕すらない。ミズトは生まれて初めて自分へ向けられた殺意に対処するため、必死で肉体を動かした。
あまり考えずに戦ったのが功を奏して身体が適切に動いた。後でエデンにそう評価された。
ミズトはベテラン剣士のように攻撃を受け流すと、ゴブリンの胸に剣を突き刺した。
「グエェェーーー!!」
ゴブリンが悲鳴をあげた。
剣を持つ手に、生きた肉を裂く嫌な感覚が伝わってくる。
吹き出る血はゴブリンの肌と同じ緑色。
ミズトは嫌悪感に耐えられず、剣を抜き、後ろに飛んで距離をおいた。
また襲い掛かってくるかと警戒していると、ゴブリンはその場で崩れ、数秒もすると消滅していった。
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フォレストゴブリンを倒しました。
あなたは経験値5を獲得しました。
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(消えた? 死ぬと肉体ごと消えるのか……?)
ミズトは身体に付着した緑の血も消えていることに気づいた。
【はい、モンスターは魔力によって存在しているため、死亡するとその存在が保てなくなり消滅します】
(そうか、死体が残らないのはありがたい……)
自分でも聞こえるぐらい心臓の鼓動が早くなっていた。
全身が重く、呼吸が荒い。
短時間の出来事だったが、極度の緊張で気力も体力もごっそり持っていかれた。
「あああ、凄い疲れるんですけどぉーー!!」
ミズトは剣を地面に突き刺し、そのまま河原で寝転ぶと、声に出して言った。
殴り合いの喧嘩もしたことない。格闘技をやっていたわけでもない。
それがいきなり命懸けで戦わされたのだ。身も心もリフレッシュするまで、ちょっと動ける気がしなかった。
(なあエデンさん)
数分が過ぎ、呼吸も心拍数も落ち着いた頃、ミズトは寝転んで空を見上げたまま頭の中で呟いた。
【はい、ミズトさん。どのような御用件でしょうか?】
(さっき、経験値5を獲得したって文字が出てたけど、ゴブリン倒したからって意味だよな?)
【その通りです。モンスターを倒すと経験値を獲得することができます】
分かってはいたけど、ここはRPGのような世界。
異世界というのが、宇宙のどこかにある惑星のことであろうとなかろうと、少なくとも地球ではないのだ。
ミズトは、青空の中にうっすらと浮かぶ二つの月を見ながら、そう実感していた。
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