第37話 宝箱

(さすがボスキャラ、凄い経験値だな。レベルは上がらんけど。ついでにクエストもあったのか)


【ボスモンスターは同レベルのモンスターより遥かに生命力が高いため、獲得経験値に大きく補正が掛かります。なお、ミズトさんがレベル5から6に上がるためには最終的に20万以上の経験値が必要でした。それから推測すると、レベル6から7に上がるにはそれ以上の経験値は必要になるでしょう】


(ふうん、別にいいけど……)


「ミズト、あなた、まったく疲れないのね」

 セシルがミズトに近づいてきた。


「はい、レベルがある程度上がってからは、肉体的に疲れるようなことはなくなりました」

(レベル4ぐらいからかね)


「そう、異界人の特性なのかしらね。そんなことより宝箱が出たわ。お金は半々でいいかしら?」


「宝箱ですか!?」

 ミズトはセシルの会話の切り替えの早さに驚くよりも、宝箱への興味が上回った。


「ええ、ボス戦は必ず出るわ。開けるわね」

 セシルはそう言いながら部屋に出現した宝箱へ近寄った。


 それはミズトが想像していた古めかしい木製の宝箱ではなく、貴金属を保管するような装飾のされた箱だった。

 ただ、かがめば人でも入りそうなほどの大きさなので、これに財宝が入っているというなら、どれだけの量なんだろうかと期待が膨らんだ。


 セシルが何かの魔法を唱えると、宝箱の蓋が自動的に開いた。

 ミズトは思わず駆け寄り、中を覗き込んだ。


「……これだけでしょうか?」

 中はスカスカで、硬貨が十枚と、アイテムが二つ入っているだけだった。


「あら、意外と、欲張りなのね。これ、半分よ」

 セシルは宝箱から硬貨を拾い、五枚をミズトへ渡した。


「恐縮です……。頂戴いたします……」

(ん? なんだこれ?)

 ミズトは受け取った硬貨の一枚を、指で挟んで目線の位置まで持ち上げた。


【それは10,000G金貨になります】


(一万!?)

 ミズトは黄金に輝く金貨をまじまじと見つめた。


「金貨を見るのは初めて? これも、あなたの分よ」

 セシルは宝箱の中から、残っていた杖と魔法書を取り出した。


「え? いえいえ、それはセシルさんの分です。思わず受け取ってしまいましたが、この金貨も半分は多すぎます」


「それは違うわ。あなた、意味の分からない遠慮をするわね。二人パーティだから、所有権は全て二等分よ。それに、私が欲しいのは地下二十階ボスのアイテムなの。それ以外は譲るわ」

 セシルは杖と魔法書を差し出した。


「分かりました、そういうことでしたら」


 ====================

 アイテム名:エレメントリウムの杖

 カテゴリ:武器(装備LV45)

 ランク:3

 品質 :高品質

 効果 :魔法攻撃力上昇

     魔法精度上昇

     魔法発動速度上昇

     魔力回復量上昇

     火水風地属性適性上昇

 ====================

 ====================

 アイテム名:ストーンバレットの魔法書

 カテゴリ:魔法書

 ランク:1

 品質 :普通

 効果 :魔法『ストーンバレット』を習得

 ====================


 ミズトは金貨とアイテム二つをマジックバッグに入れた。




 地下十九階もボス部屋までに丸一日を費やした。


 モンスターの強さは地下十八階とさほど差がないので、ポーションさえ切らさなければなんとかなった。マジックバッグの有用性は尋常ではないのである。

 セシルが一人で来た時は、買いあさったポーションがこの辺りで使い切ったという話だ。


 ここのボスはセシルも初めてではあったが、事前情報として相手はレベル72のエルダーアースドラゴンであることを彼女が知っていた。

 ドラゴンなんて異世界ファンタジーのド定番中のド定番。最初ミズトは興奮気味に戦いはじめたが、戦闘中にウンディーネとフェンリルが倒されるほど苦戦し、肝を冷やすことになった。


 ====================

 エルダーアースドラゴン達を倒しました。

 あなたは経験値279,936を獲得しました。

 ====================


 この戦いでセシルのレベルが74にアップし、宝箱からは金貨十枚と剣を獲得した。

 ====================

 アイテム名:破天の剣

 カテゴリ:武器(装備LV55)

 ランク:4

 品質 :高品質

 効果 :攻撃力上昇

 ====================


「なんとか倒せましたね。精霊は死んでしまったのですか?」

 ミズトはセシルに尋ねた。


「いいえ、精霊界へ戻っただけね。半日ぐらいは召喚できないけど、セーフティエリアで休息をとっている間に戻るから、問題ないわ。それより、その剣は使えるのかしら?」

 セシルはミズトが受け取ったばかりの剣を見た。


【装備レベルが足りないようです】


「申し訳ありません、装備レベルが足りないようです」

 ミズトはエデンの言葉を繰り返した。


「そう、残念ね」

 セシルの表情は本当に残念そうだった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る